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1

[コンピュータワールド]2008年1月号
月刊
発行・発売 (株) IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5
TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ ・ジー・ジャパン
世界各国のComputerworldと提携

TM
contents
January 2008 Vol.5 No.50

Features 特集&特別企画
最注目トピックの今を知り、ベストな導入を!

特集
仮想化テクノロジー
アップデート
42

グリーンIT /プロビジョニング/自律コンピューティング
Part 1 44 に到来する3つのテクノロジー・トレンド
「仮想化時代」
栗原 潔

仮想化環境で即座に実行できるアプリケーションの新配布モデル
Part 2 52 注目の がもたらすメリット
「仮想アプライアンス」
渡邉利和

マイクロソフトの
「Viridian」/「インテルTXT」/ Linuxカーネル標準
「KVM」
Part 3 58 新世代仮想化技術の実力を探る
山市 良/大原久樹/森若和雄

ベスト・プラクティスを実践し、悪意の攻撃からシステムを守る
Part 4 66 自社での対策は十分か?「仮想化環境のセキュリティ」
デブ・ラドクリフ

注目の製品が備える機能・特徴をチェック
Part 5 71 [仮想化テクノロジー]
Product Review
Computerworld編集部

ラボ発! ハードウェア・テクノロジー最新情報

ナノテク研究の前線から
CPU/HDD/メモリの明日を読む
特別企画 77

45nmプロセス技術、3Dトランジスタ、EUV技術……

Part 1
78 スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU
後藤弘茂

垂直磁気記録方式、TMRヘッド、パターンド・メディア……

Part 2
85 テラバイト領域に突入したハードディスク
土屋 勝

SLM、2光束干渉法、コリニア・ホログラフィ法……
Part 3
92 ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ
井上光輝

January 2008 Computerworld 3


contents
1

Event Report イベント・リポート


k
-Moc Citrix Systems iForum 07 The App Delivery Expoリポート
Chew

6
アプリ/データセンター/デスクトップの
「3レイヤ仮想化」を展開するシトリックス
Event Report 1

河原 潤

Adobe MAX Japan 2007リポート


Event Report 2 10 開発者の“インスピレーション”
を刺激し
Webとデスクトップの融合を加速する、アドビのRIA 戦略
大川 亮

Hot Topics ホットトピックス


Prospecting Tomorrow[ITの明日を見据える]
12 自身を高く売り込むための
「ITスキル12 選」
メアリー・ブランデル

News & Topics ニュース&トピックス   16

Technology Focus テクノロジー・フォーカス


「エンタープライズ・ウィジェット」
その可能性と課題を探る
Applications 102
ck
Chew-Mo
城田真琴

Opinions 紙のブログ
111 インターネット劇場
佐々木俊尚

112 IT哲学
江島健太郎

113 テクノロジー・ランダムウォーク
栗原 潔

Information インフォメーション
100      エンタープライズ・ムック のご案内
「SaaS研究読本」
109 本誌読者コミュニティ&リサーチ        のご案内
110 IT KEYWORD
112 バックナンバーのご案内
116 イベント・カレンダー
117 おすすめBOOKS
118 読者プレゼント
119 FROM READERS & EDITORS
120 次号予告/ AD.INDEX

January 2008 Computerworld 5


IT業界は、再び空前の でには、
全員が内定をもらっていたはずだ」
(カイザー氏)

人手不足時代に突入か  IT関連のスキルや知識を持つ人材にとって、再び
“就職
(転職)
貴族”
の時代が到来しているのかもしれ
 一昔前には、
「オフショアリングの影響で、米国など ない。ただしそれは、企業が求める
“適切な”ITスキ
先進国のプログラマーは絶滅の危機に瀕している」
と ルを持っていればの話だ。では企業は、どんなITス
まで言われていた。しかし、現実はそれとは正反対の キルを求めているのだろうか。
様相を呈している。  以下の12の項目は、リクルーター、コンピュータ・
 米国グーグルのシニア・エンジニアリング・マネ サイエンス学教授、業界アナリストら8人が挙げる
「今
ジャー、ケビン・スコット氏も、
「シリコンバレーで日常 日の企業が求めるITスキル」
のトップ12である。自分
的に私が目にしているのは、ITプロフェッショナル不 を
“高く売る”
ために、ぜひ参考にしていただきたい。
足に悩む企業幹部の姿だ」
と、人手不足の現状を認
める。米国計算機協会
(Association for Computing IT SKILL
マシン・ラーニング
Machinery:ACM)
で教育委員も務めている同氏は、
「大手企業から新興企業に至るまで、人手不足を解
1
消するために積極的に求人活動を行っている」
との現  グーグルのスコット氏が真っ先に挙げたのが、この
実を指摘する。 「マシン・ラーニング」
である。マシン・ラーニングのス
 現在、多くのリクルーターが、IT業界は売り手市 キルとは、コンピュータの性能を向上させるアルゴリ
場にあると分析している。米国ウィスコンシン州ミル ズムとテクニックを熟知し、それをマシンの設計に生
ウォーキーにあるマルケット大学で情報技術学の助教 かす能力である。
授を務めるケイト・カイザー氏によると、企業は学生  
「例えばセキュリティの分野において、膨大なデータ
たちの
“青田買い”
を必死に進めているという。 の中から特定のパターンを認識するスパム・フィルタリ
 
「今年1月、システム分析・設計のクラスで、5月に卒 ングや不正検知ソフトウェアを導入する企業が増えて
業を控えた学生34人に就職状況を聞いたところ、24 いる。そういったソフトウェアを導入する際に必要とさ
人が1社以上の内定をもらっていると答えた。卒業ま れるのが、マシン・ラーニングのスキルだ」
(スコット氏)

P r o s p e c t i n g To m o r r o w
IT の明日を見据える
自身を高く売り込むための
「ITスキル12選」
「企業に選ばれるのではない。自分が企業を選ぶのだ」
ドッグ・イヤーと呼ばれるIT業界。今日もてはやされている技術が、
明日には見向きもされなくなることも日常茶飯事だ。
せっかく苦労して習得したスキルでも、役に立たなければ意味がない。
IT業界で生き残るためには、企業が求めるスキルを見極め、
しっかりと身につけておく必要があるのだ。
本稿では、IRワーカーとしての自身の
“市場価値”
を高めてくれる
12種類のITスキルについて紹介しよう。

メアリー・ブランデル
Computerworld米国版

12 Computerworld January 2008


 スコット氏によると、スパム・フィルタリングや不正  現職は情報システム・セキュリティ協会
(ISSA)
の会
検知ソフトを扱うためには、データ・マイニング、統計 長で、米国イーベイでCISO
(最高情報セキュリティ責
モデリング、データ構造などに関するスキルも要求さ 任者)
とCSS
(最高セキュリティ・ストラテジスト)
を務め
れるという。不適切なデータ構造やアルゴリズムを選 た経験を持つハワード・シュミット氏も、ホプキンズ氏
択してしまうと、マシンに10倍から100倍もの性能差 と同様の見解を示す。
が表れることも珍しくないからである。  
「もし、私がワイヤレス・ネットワーキングの専門家
 マシン・ラーニングの知識は、現場での経験を通じ を採用するなら、ネットワークを構築する際に、あら
て、あるいは大学/大学院で習得できる。 かじめセキュリティ設定を制御できる機能を組み込め
る人材を選ぶだろう」
(シュミット氏)
 同氏はまた、
「今後は、無線LANと有線LANの連
IT SKILL
モバイル・デバイス向け
2 アプリケーション開発 携方法を熟知しているネットワーク管理者が求められ
る。単にワイヤレス・ネットワーク関連の認定資格を
 
「今のモバイル・デバイス向けコンテンツ・サービス 持っているだけでは意味がない」
とも指摘している。
競争は、インターネット普及初期の熱狂的な競争と
似ている」
と指摘するのは、フロリダ州にある人材サー IT SKILL
ヒューマン・コンピュータ・
ビス会社、スフェリオン・パシフィック・エンタープラ
イゼズのプロフェッショナル・サービス担当バイスプレ
4 インタフェース設計

ジデント、ショーン・エブナー氏である。  グーグルのスコット氏が、急速に需要が伸びている
 
「BlackBerry」
や「Treo」
、そして
「iPhone」
などの 職種として挙げるのは、Webアプリケーションやウィ
モバイル・デバイスは、すでにビジネスパーソンにとっ ジェットも含めたデスクトップ・アプリケーションの洗
て必須アイテムとなっている。企業は、今までイント 練されたユーザー・インタフェース、
いわば
「ヒューマン・
ラネット内でのみ利用していたERPや経費承認など コンピュータ・インタフェース」
を設計できる、デザイン・
の業務アプリケーションを、これらのモバイル・デバイ センスにすぐれたソフトウェア・エンジニアだ。
スからもアクセスできるようにしたいと考えている。  
「iPodに代表されるクールなデザインで、操作性も
 それを実現するためには、当然、既存のアプリケー すぐれた製品が大ヒットした影響で、コンシューマー
ションに対してモバイル・アクセスを可能にするための はすぐれたデザインを当たり前だと思うようになって
開発やコード修正を行える人材が必要となる。企業 いる。当然、彼らはそれと同じレベルのデザイン性を、
は今、このスキルを持った人材を血眼になって探して ソフトウェアにも求めるだろう」
(スコット氏)
いるのである。
IT SKILL
プロジェクト・マネジメント
IT SKILL
ワイヤレス・ネットワーク管理
5
3  ITプロジェクトを統括するプロジェクト・マネジャー
 IT業界で実務能力基準の認定活動を行っている に対する需要が高いのは、何も今に始まった話では
業界団体のCompTIAで技能育成担当バイスプレジ ない。米国カンザス州にあるIT専門人材サービス会
デントを務めるニール・ホプキンズ氏は、Wi-Fi、 社のイントロニック・ソリューションズ・グループでマ
WiMAX、Bluetoothといったワイヤレス規格の普及 ネジング・ディレクターを務めるグラント・ゴードン氏は、
に伴い、セキュアなワイヤレス・ネットワークを構築で 「雇用側が求めるのは、実際にプロジェクト管理の経
きる能力が求められていると指摘する。 験がある人材だ」
と指摘する。
 
「複数のワイヤレス技術が普及した現在、企業は有  ゴードン氏によると、プロジェクト・マネジャーの採
線LANよりもはるかに危険性の高い無線LANにどの 用プロセスは、1年前よりも複雑になっているという。
ようなリスクが潜んでいるのかについて、あらためて不 これは、企業が求める条件に見合う人材が不足して
安を感じている」
(ホプキンズ氏) いるためだ。

January 2008 Computerworld 13


 ちなみに同氏が勤めるイントロニックがプロジェク 解し、これらを統合することのできるネットワーク管
ト・マネジャーの面接を行う際には、社内の専門家が 理者が求められるようになってきた。つまり、ICT
面接を担当し、応募者が過去に担当したプロジェクト (Information & Communication Technology)
時代
で起きたトラブルや、その問題解決のプロセスを説明 のネットワーク管理者を目指すべきなのである。
させるという。  CompTIAのホプキンズ氏は、
「われわれの調査に
 
「応募者が暗記してきたPMBOK
(Project Manage よれば、テレコミュニケーションの世界にいながらも
ment Body of Knowledge:プロジェクト・マネジメ 企業ITのネットワークを理解している人、
あるいはネッ
ントに関する知識体系フレームワーク)
をそらんじさせ トワーク管理者でありながらテレコミュニケーションの
たところでまったく意味がない。実際に現場で起きた 知識を持っていて、両者を融合させる手法を知って
問題と、その解決方法を聞けば、応募者が自分の仕 いるような人材に対する需要が急増している」
と話す。
事を真に理解しているかどうかがわかる」
とゴードン氏。
 同氏は過去に採用面接の場で、
「ゴルフでティー・ IT SKILL
オープンソース・ソフトウェア・
ショットの飛距離を伸ばすためには、ゴルフ・ボール
の表面のくぼみをどう設計すればよいか」
という風変
8 プログラミング

わりな質問を応募者に対してしたことがあるという。  オープンソース・ソフトウェア系の開発者への重要は
 
「実のところ、この質問に正解はない。しかし、そ 確実に増している。
「かつてはオープンソース・ソフトウェ
の回答で、
相手の思考プロセスが理解できる。同時に、 アを斜陽分野だと見る向きもあったが、それは大きな
あいまいな質問の問題点を整理し、分析できる能力 間違いだ。今、求められているのは、オープンソース
があるかどうかを見極めることができる」
(ゴードン氏) のOSと、その上で稼働するオープンソース・アプリケー
ションの両方を開発できる人材である」
(エブナー氏)
IT SKILL  同氏によると、いわゆるLAMP
(Linux、Apache、
ネットワーク管理
(初級)
6 MySQL、PHP/Perl)
の開発/管理を経験したこと
のある人材は、多くの業種で引く手あまたの状況にあ
 とにかくIT関連の職業に就きたいと考えているので るという。
あれば、
「ネットワークは専門外なので……」
と言い逃
れすることはできない。たとえソフトウェア開発者のよ IT SKILL
ビジネス・インテリジェンス
うな、ネットワークに直接かかわりのない職種でも、
ITプロフェッショナルであれば、その基本知識は必ず
9
理解しているべきだ。最低限、TCP/IP、Ethernet、  ビジネス・インテリジェンス
(BI)
関連分野も、完全
光ファイバなどの基礎を頭にたたき込み、分散ネット に売り手市場だ。特にコグノス、
ビジネスオブジェクツ、
ワークやグリッド・コンピューティングの仕組みぐらい ハイペリオンなどのBI製品に精通し、それらを活用で
までは身につけておく必要がある。 きる人材は、企業間で争奪戦が繰り広げられている
 
「例えば、データセンターで導入するアプリケーショ という。
ンの開発を担当するとしよう。その際に必要なのは、  エブナー氏は、
「われわれの顧客は現在、BIに多額
ネットワークのメリットを生かしたアプリケーションを の資金を投じている。彼らが求めているのは、スクリ
設計できる開発能力なのだ」
(スコット氏) プトやクエリを書くことのできる
“単なる技術者”
ではな
い。ビジネスの本質を理解し、必要なデータを的確に
IT SKILL 分析できる知識を持ち合わせた人材だ」
と指摘する。
ネットワーク管理
(上級)
7 IT SKILL
組み込み型セキュリティ
 VoIP
(Voice over IP)
ないしはIP電話を導入する
企業が増えるのに伴い、LANやWANだけでなく、
10
電話やインターネットなどあらゆる情報通信技術を理  セキュリティに精通した人材に対する需要は、ここ

14 Computerworld January 2008


数年伸び続けている。ISSAのシュミット氏によれば、 Electronics Association)
の協力を得て、
「Digital
最近はすべてのIT職種で、セキュリティ関連のスキ Home Technology Integrator
(DHTI+)
」という新た
ルと資格を有していることを条件とする企業が急増し な認定資格を設立した。CompTIAによると、DHTI+
ているという。 資格の試験対象範囲は、ネットワーク、オーディオ/
 
「ここ6カ月間の求人情報を見ると、すべての職種 ビデオ、電話/ VoIP、セキュリティ/監視、ホーム・

『セキュリティ』
という単語が含まれている。雇用側 コントロール・マネジメント、文書化/トラブルシュー
はメール・サーバの管理者であれ、ソフトウェアの開 ティングの6分野に及ぶという。
ホプキンズ氏によれば、
発者であれ、セキュアな環境を構築できる人材を求 これは
「今、最も注目されているホットな技術資格」

めている」
(シュミット氏) という。
 同氏は、こうした企業のニーズによって、セキュリ
ティは
「スペシャリストによる付加的な機能」
から「すべ IT SKILL
複数の開発言語+α
ての工程/運用に組み込む機能」
と指摘している。
へと変化しつつある
12
 .NET、C#、C++、Javaなど、どれか1つの開発言
IT SKILL 語をマスターすれば企業からお声がかかったのは、も
デジタル家電
11 はや過去の話だ。
 イントロニックのゴードン氏は、
「単なる
“コード屋”
 デジタル家電市場は大きな発展を遂げ、家庭向け は必要とされていない。企業で求められているのは、
家電にもコンピュータが組み込まれるようになった。 Javaなどの主要な言語のスキルを持ちながら、
チーム・
しかしながら、これらの製品の修理やサポートをする リーダーとして、あるいはプロジェクト・コーディネー
ことのできる人材は限られている。 ターとしてプロジェクトやスタッフをマネジメントして
 CompTIAは 米国 家 電 協 会
(CEA:Consumer いくことにたけた人材である」
と指摘している。

c o lumn

世界のオフショア市場は2008年も堅調に拡大──米国市場調査会社が予測
人件費や不動産価格の高騰でコスト上昇の懸念も メルバ・ジャン・ベルナ Computerworld フィリピン版

 市場調査会社の米国XMGが実施した調査によると、ITアウ なお、マレーシアとフィリピンの2006年の市場シェアは、そ
トソーシング、BPO
(Business Process Outsourcing)
、コー れぞれ1.04%と1.02%だった。
ルセンター・サービスなどを含む世界のオフショア・アウトソー  XMGの創業時社長で主任アナリストを務めるラウロ・ビベス
シング市場は、2006年の2,490億ドル規模から、2007年は 氏は、調査結果に関して次のように語っている。
「今後も、イン
19.3%拡大し、2,970億ドル規模に達する見込みだ。また、 ドや中国がオフショア市場をリードするのは予想どおりだが、
2010年までには、同市場は4,500億ドル規模に拡大するとの 今回の調査では、他のアジア諸国においても成長の見通しが
予測も示されている。 明らかとなった。特にフィリピンはCAGR62%という驚異的な
 この調査は、アジアの主要なオフショア諸国であるインド、 成長率で拡大している」
中国、マレーシア、フィリピンでの市場動向に重点を置いて行  マレーシアが38%のCAGRを記録しながら、他の国に遅れ
われた。調査によると、インドのオフショア市場の年平均成長 をとっている背景には、オフショア産業の成長を維持するだけ

(CAGR)
は29.5%で、
2007年末には341億ドル規模に達し、 の人材が不足しているという事情がある。マレーシアはその点
世界のオフショア市場の11.5%を占める見通しだという。その を認識し、最近では、より付加価値の高いサービスによって売
後2010年までは少なくとも同市場シェア15%を維持しながら 上高の拡大に注力しているという。
トップの座にとどまると見込まれている。  なお、XMGの調査では、人件費や不動産価格の高騰の影
 一 方、中国 のオフショア 市 場は、2007年 のCAGRが 響を受け、オフショア市場全体でオペレーション・コストが上
47.9%、売上高は131億ドルを記録、世界でのシェアは4.4% 昇傾向にあることも指摘している。特にインドとフィリピンに関
に拡大する模様だ。また、フィリピンは2007年に売上高41億 しては、2008年は人材不足のためにそれぞれ11%と8%の人
ドルに達し、世界シェア1.4%、マレーシアの2007年の売上 件費上昇が予想されている。こうした傾向には、米国ドルの下
高は36億ドル、世界シェアは1.2%となると見込まれている。 落とアジア通貨の上昇も影響しているという。

January 2008 Computerworld 15


モバイル市場大激震──グーグル、携帯電話プラットフォーム を発表
「Android」
NEWS
パートナー33社とアライアンス を設立、携帯電話アプリの開発を推進
「OHA」
急伸するモバイル広告市場をねらい、2008年後半に新製品登場か

 米国グーグルは11月5日、オープンソー 予定だという。発表会に臨んだグーグル ウザと同機能を持つWebブラウザを備え


スの携帯電話向けアプリケーション開発プ CEOのエリック・シュミット氏は、
「30億人 ているという。またルービン氏は、SDKの
ラットフォーム
「Android」
を発表した。か とも言われている世界の携帯電話ユーザー リリースと同時にAndroidの詳細な技術情
ねてからうわさされていたグーグルの携帯 のために、モバイル・アプリケーションを充 報を提供すると明言した。同氏は、SDK
電話分野への進出が、とうとう現実のもの 実させインターネット・サービスを向上させ を公開して外部開発者からのフィードバッ
となった。 ることはグーグルの基本理念にかなったも クを取り入れ、Androidの機能向上を図り
 Androidのコンポーネントには、OS、ア のだ。Androidによって、だれも想像でき たいとしている。
プリケーション開発用API
(Application Pro ないような新しいアプリケーションや機能  一方、これまでグーグルと良好な提携関
gramming Interface)
セット、
ミドルウェア・ が備わった携帯電話が登場する」
と語った。 係を築いていたアップルは、前評判どおり
レイヤ、カスタマイズが可能なユーザー・イ  Androidは
「Apache License バージョ OHAに加盟していない。同社の
「iPhone」
ンタフェース、携帯電話向けブラウザが含 ン2」
ライセンス規約の下で提供される。 は革新的なインタフェースを持つスマート
まれている。こうしたAndroidの開発を、
グー シュミット氏は同ライセンス規約について フォンとして人気を博しているものの、グー
グルは33社のベンダーとともに発足させた 「最もリベラルなオープンソース・ライセン グルが携帯電話事業へ参入したことで、そ
「Open Handset Alliance
(以下、OHA)
」 スだ」
とコメントしている。なお、Android の人気にかげりが生じる可能性もある。
の下で行っていくことも明らかにした。 のアプリケーション開発に必要なツールを  いずれにせよ、今後、グーグルがアップ
 OHAにはブロードコム、イーベイ、イン まとめたソフトウェア開発キット
(SDK)
が、 ルだけでなくマイクロソフトやシンビアンと
テル、エヌビディアなどの米国企業をはじ 同ライセンスの下で来週中にも公開される いった既存のモバイル・プラットフォーム・
め、NTTドコモ
(日本)
、チャイナ・モバイ 予定だという。 ベンダーの強力なライバルになることは間

(中国)
、サムスン電子
(韓国)
、LG電子
(韓  実はAndroidに包含されている技術は、 違いない。 (Computerworld米国版)
国)
、ハイテク・コンピュータ
(台湾)
、Tモ グーグルが2005年に買収した米
バイル
(ドイツ)
、テレフォニカ
(スペイン)
な 国アンドロイドが開発していたもの
ど、世界の通信事業者や携帯電話メーカー である。アンドロイドの共同創設者
らが名を連ねている。発表会に列席したモ であるアンディ・ルービン氏は、現
トローラやTモバイルの親会社であるドイ 在グーグルでモバイル・プラット
ツ・テレコムのCEOは、
今後Androidをベー フォーム担当ディレクターを務めて
スとした製品を積極的に開発すると明言し おり、今回の発表会にも出席した。
た。  ルービン氏によると、Android
 グーグルによると、
Androidの技術を使っ のOSコンポーネントはLinuxをベー
Androidの詳細情報はOHAのWebサイトから入手できる
た携帯電話は、2008年後半に登場する スにしており、PC向けのWebブラ (http://www.openhandsetalliance.com/)

●モバイル市場大激震──グーグル、携帯電話プ ●グーグル、SNSサイト向けアプリのAPIプロジェ ●IBMとアルカテルがユニファイド・コミュニケー


N E W S H E AD L I NE

ラットフォーム 「Android」を発表。パートナー33 クト「OpenSocial」


を発表(11/1) ションで提携、マイクロソフトに対抗へ (10/30)
社とアライアンス 「OHA」 を設立、携帯電話アプ ●デル、約4年間の決算修正報告書をSECに提出 ⇒20ページ
リの開発を推進 (11/5)⇒16ページ (11/1) ●
「時間、場所、使用する機器に依存しない情報ア
●日立、主要IT機器の省電力化プロジェクト 「Har ●マイクロソフト、柔軟なSOA構築を目指す新構 クセスを実現する」 ──EMCのトゥッチCEOが
monious Green」
を始動 (11/5)
⇒19ページ 想「Oslo」
を発表 (10/31) 情報インフラ戦略をアピール (10/30)
⇒21ページ
●ミクシィ、グーグルのOpenSocialプロジェクト ●イージェネラ、仮想化管理ソフトをOEM提供へ ●米国連邦地裁、グーグルによるアメリカン航空訴
への賛同を表明 (11/3) (10/31) 訟取り下げ要求を却下 (10/30)
●今夏に猛威を振るったPDFスパム、パワーアッ ●株価操作をねらう 「音声スパム」 、10月にボット ●需要減少のベクトル型コンピュータ――スパコン
プして蔓延の兆し (11/2) ネットが1,500万通を送信 (10/31)⇒23ページ 市場ではクラスタが優勢 (10/29)
●IBM、顧客のサーバ統合による省エネ成果を証明 ●ODFの推進団体、W3C推進のフォーマットに “鞍 ●IBM、ストレージ関連ソフトを提供するノバスを
する業界初のプログラムを発表 (11/2)
⇒19ページ 替え”(10/30) 買収(10/29)

16 Computerworld January 2008


O c t o b e r, 2 0 0 7

“スマイル・カーブ”
「IT業界の に注目」
──経済学者の伊藤元重氏、

EVENT REPORT
“フラット化する世界”で日本企業が勝ち残るための条件を説く
Cognos Performance 2007コンファレンスの基調講演で語られたビジネス戦略論

 コグノスは10月17日、東京コンファレン 2つの大きな要因がある」
とする、ベストセ がって、日本が中流層の領域で中国に対
スセンター品川で年次ユーザー・コンファ ラー『フラット化する世界』
(原題:
『The 抗してもかなわないことが想像できる。そ
レンス
「Cognos Performance 2007」
を World Is Flat』
)で、著者のトーマス・フリー こで、上流および下流層の市場でどのよう
開催した。基調講演には、経済学者で東 ドマン氏が行った指摘を紹介した。同氏に な戦略を組むのかが重要になってくる、と
京大学大学院経済学研究科教授の伊藤元 よると、その要因の1つは2000年問題、 いうのが伊藤氏の見解だ。
重氏が登壇、ITを中心とした技術革新やグ もう1つはITバブルの崩壊だ。ITバブルの  伊藤氏はまず、上流層においてはグロー
ローバル化の進展の中で、日本企業が目 崩壊が90年代に登場した新しい技術やイ バルな視点を持つことが大切だと強調し
指すべきビジネス戦略のあり方について ンフラの低価格化をもたらし、人件費の安 た。例えば、日本の携帯電話は技術面で
語った。 いインドを中心にアジアのIT企業が世界で は世界のトップ・クラスだが、世界市場の
 Cognos Performanceコンファレンスは、 重用されるようになった。その結果、グロー シェアを見ると、ノキアやモトローラ、サム
世界各国の34都市で開催されるコグノス バル化の流れが大きく進んだという。 スンなどの海外メーカーに大きく水を開け
のイベントで、ビジネス・インテリジェンス  では、グローバル化や新興工業国の台 られている。これは日本の携帯電話メーカー
(BI)
および企業業績管理
(EPM)
製品/ソ 頭の中で日本企業が生き残るためには、ど が国内市場のみに注力し、グローバル市場
リューション/事例が紹介される。 のようなビジネス・モデルが必要になるの に目を向けてこなかったからだと同氏は指
 伊藤氏は講演の冒頭で、
「インドのITが か。伊藤氏によれば、
この考察で1つのキー 摘した。
世界に取り込まれるようになった背景に、 となるのは
「スマイル・カーブ」
と呼ばれる現  一方、下流層で成功を収めるためには、
象だという。 iPodの成功が大きなヒントになる。伊藤氏
 スマイル・カーブとは、上流層 によれば、
下流層で勝ち残るポイントは、
「製
(提供者側の層)
と下流層
(利用 品
(性能)
」「ビジネス・モデル」
「ブランド」

者側の層)
の利益率は高いが、 3つをすべそろえることだという。国内メー
中流層
(組み立て業者など中間の カーのポータブル音楽プレーヤーは、性能
層)
では低いという現象を指す製 に関しては世界トップ・クラスだが、ビジネ
造業界の用語である。IT産業に ス・モデルやブランド戦略の面ではiPodに
おいても、このスマイル・カーブ 及ばないのは明らかだ。
現象が近年の国内市場において  
「現実問題として、グローバル化が進ん
きわめて顕著だという。 だ現代においては、中流で日本企業が勝ち
 興味深いことに中国では、逆 残るのは難しい。上流か下流か、いずれに
に中流層の利益が大きいという せよ、メリハリのある戦略が必要だ」
「製造業で見られるスマイル・カーブ現象が近年のIT業界でも顕著」

語る経済学者の伊藤元重氏 現象が生じているらしい。した (杉山貴章)

●特許改革法案を巡って米国議会でロビー活動が ナー料金を40%値下げ。担当幹部は 「使った分 ●ITU-R、WiMAXを国際標準規格として勧告


過熱(10/25)
⇒23ページ だけ支払えばよい」 とオンデマンド・モデルへの注 (10/19)
⇒18ページ
●NECが新スパコンを投入──1コアで100GFLO 力をアピール (10/23)⇒22ページ ●シマンテック委託調査――企業のディザスタ・リ
PS超の性能を持つ世界初のCPUを搭載 (10/25) ●SAPジャパン、SOA対応のアイデンティティ管 カバリ対策は不十分 (10/19)
⇒18ページ 理ソフト「NetWeaver Identity Management」 ●
「IT業界の “スマイル・カーブ” に注目」 ──経済学
●フェースブック株争奪戦でマイクロソフトがグー を発表(10/23)⇒21ページ 者の伊藤元重氏、 “フラット化する世界” で日本企業
グルに勝利 (10/25) ●マイクロソフトが欧州委の反トラスト判決を受諾 が勝ち残るための条件を説く (10/17)
⇒17ページ
●インテルとトランスメタ、1年にわたる特許侵害訴 (10/23) ●マイクロソフト、ユニファイド・コミュニケーショ
訟合戦に幕 (10/25) ●日本IBM、100V電源対応のブレード・サーバ用 ン製品群を正式発表 (10/17)
⇒20ページ
●オラクル、オペレーション・プランニング・ソフト シャーシを発表 (10/22) ●富士通中部システムズがSaaS市場に本格参入、
のインターレースを買収へ (10/25) ●シスコ、 ユニファイド・コミュニケーション製品パー 統合CRMの 「CRMate」をSaaSモデルで提供開
●マイクロソフト、次期Dynamics CRMのパート トナーの支援を強化 (10/22) 始
(10/10)⇒22ページ

January 2008 Computerworld 17


NECが新スパコンを投入
PRODUCTS
──1コアで100GFLOPS超の性能を持つ世界初のCPUを搭載
1ノード当たりの演算性能は従来機種
「SX-8」
の13倍に

 NECは10月25日、新CPUを搭載した ラ・ユニットの1チップ化も図っている。 れたこと、SX-9の迅速な導入・実行をサ


ベクトル型スーパーコンピュータ
「SXシ  SX-9は、1ノード当たり最 大16個の ポートするOS、ソフトウェアが用意されて
リーズ」
の新製品
「SX-9」
を発表、同日より CPUを搭載することが可能だ。これにより、 いるなどの特徴がある。
提供を開始した。同製品は、大学や研究 演算性能は1.6TFLOPSまで拡張される。  価格は、最小構成で1ノード
(4CPU搭
機関、気象・気候機関向けのHPC
(High 13ノードで1.6TFLOPSを発揮したSX-8 載)
当たり約1億5,000万円となる。
Performance Computing)
サーバ
「SX-8」 と比べると、SX-9では単純計算で1ノード (Computerworld)
の後継機。 当たり13倍の性能向上が図られたことに
 SX-9の最大の特 徴は、1コア当たり なる。また、1CPU当たり256Gbpsのメ
102.4GFLOPSの演算性能を実現した新 モリ帯域幅も有しているため、1ノード当た
CPUを搭載したこと。NECによれば、1コ りの総メモリ帯域幅は4Tbpsに達する。
アで100GFLOPS以上を実現したのは世 共有メモリは1ノード当たり1TB、ノード間
界初という。 を接続するインターコネクトは128Gbps
 新CPUは、従来からのアーキテクチャ の高速性を実現することで、最大512ノー
を継承しつつ、演算器の追加、ベクトル・ ドの接続
(総合演算性能は839TFLOPS)
パイプラインの増強といった複数の改良が を可能にしている。
施されている。65ナノメートル
(nm)
製造  ほかにも、
SX-8
(13ノード)
に対して面積・
プロセスにより、ベクトル・ユニットとスカ 消費電力がそれぞれ4分の1程度に削減さ 新CPUを搭載したスパコン
「SX-9」

ITU-R、WiMAXを国際標準規格として勧告
NEWS

基盤技術
「OFDMA」
への支持を投票で採択

 国際 電気 通 信 連 合の無 線 通 信 部門 MAXは、WiMAX採用製品の相互運用性 (Long-Term Evolution)


などの次世代技術
(ITU-R)
は10月19日、高速無線通信技術 を認定する業界団体
「WiMAXフォーラム」 でも利用される予定。
「WiMAX」
を3G携帯電話の国際標準規格 において認定作業がすでに行われている。  なお、ある調査では2012年までに世界
である
「IMT-2000」
の1つとする勧告を採択 同団体はモバイルWiMAX製品についても 中で6,600万人がWiMAXを利用するよう
した。ITU-Rによる 勧 告 名は
「OFDMA 2008年から認定を開始する計画だ。 になると予測している。今回の決定で、こ
TDD WMAN」
。これによりWiMAXは、  WiMAXフォーラム代表のロン・レスニッ の数字がどこまで増えるかは未知数だ。
W-CDMAやCDMA-2000といった世界で ク氏は、
「WiMAXがIMT-2000技術として (IDG News Service)
広く普及している3G方式に対抗できるよう 承認されたことは、WiMAX
WiMAXへの加入者予測
になる。 フォーラムにとって大きな 6
Consumer
 各国政府は無線周波数の割り当てを行う 勝利だ」
とコメントしている。 5
Business
加入者︵千万人︶

際、技術的要件としてITU規格を指定する  ITU -Rは今回、WiMAX 4


場合が多い。WiMAXは今後、IMT-2000 の基盤技術となっている
3
が要件とされた場合に、選択肢に加わるこ OFDMA
(直交周波数分割
2
とになる。 多重アクセス)
への支持を
 WiMAXはIEEE 802.16規格をベースに 投票で採択した。OFDMA 1

しており、2種類の規格
(固定WiMAXとモ は、GSMからの移行を想 0
2007 2008 2009 2010 2011 (年)
2012
バイルWiMAX)
に分けられる。固定Wi 定して開発されているLTE *資料:インフォーマ・メディア&テレコム

18 Computerworld January 2008


O c t o b e r, 2 0 0 7

IBM、顧客のサーバ統合による省エネ成果を証明する

SERVICES
業界初のプログラムを発表
エネルギー削減総量を計算し
「効率証明書」
を発行。炭酸ガス排出権取引市場での売買も目指す

 米国IBMは11月2日、顧客企業が行っ 力と冷却のエネルギー削減総量を計算し、 る取り組みはこれまでにもある。例えば、


たサーバ統合などの省エネ活動の成果に メガワット時の単位で省エネルギー成果を パシフィック・ガス&エレクトリック
(PG&
応じて証 明 書を発 行する
「Ef ficiency 割り出したうえで、証明書を発行する。 E)
は同業の大手公益企業と協力して、サー
Certificates」
(効率証明書)
プログラムを  ちなみにIBMは現在、同社が保有する バの削減台数1台につき150〜300ドルを
発表した。同プログラムでは、炭酸ガス排 3,900の分散システムを33台のメインフ 企業に支払うプログラムを展開している。
出権取引市場でこの証明書を売買できるよ レームに統合するプロジェクトを進めてお  IBMのプログラムでは、取得した効率証
うにもする。 り、同プログラムによる試算では年間11万 明書を、省エネという企業責任を果たして
 IBMによると、同プログラムは業界初の 9,000メガワット時の省エネルギーにつな いるあかしとして利用できる点が強調され
試みであり、まずはメインフレームの顧客 がる見通しだという。 ている。しかし、販売目的で証明書を取得
を対象に実施する。将来的には同社のす  このIBMの例では、発行される証明書 する企業が出てくる可能性もある。
べてのサーバ、ストレージ・システムの顧 の価値は市場環境に応じて30万〜100万  レチナー氏は、
「自社でエネルギー消費を
客に対象を広げるという。 ドル規模になると、IBMのIT最適化担当 削減できない企業は、第三者から効率証
 このプログラムでは、分散したシステム 副社長、リッチ・レチナー氏は語った。同 明書を購入し、炭酸ガス排出権を追加取
の統合による省エネの成果を、独立系企 氏によると、証明書の発行はプロジェクト 得しなければならなくなるだろう。証明書
業のニューウィング・エナジー・ベンチャー 期間を通じて毎年受けられるという。 の発行を受けた企業には、こうした企業に
ズがリファレンス・データを基に検証して  同プログラムのように、金銭的インセン 証明書を販売するという選択肢もある」

数値化する。そして、データセンターの電 ティブによって省エネルギー化の促進を図 語っている。 (Computerworld米国版)

日立、主要IT機器の省電力化プロジェクト
「Harmonious Green」
を始動

NEWS
製品開発のロードマップを策定し、5年間で33万トンのCO2削減を目指す

 日立製作所は11月5日、同社が提供する ルでは、
長時間利用されていないハードディ を発表している。同プロジェクトは、今後5
サーバ/ストレージ/ネットワーク機器な スクの回転を停止する
「MAID(Massive 年間でデータセンターの消費電力量を最大
ど、主要IT機器の省電力化を推進する新 Array of Idle Disks)
」技術の採用やテープ・ で50%削減するというものだ。日立は、IT
プロジェクト
「Harmonious Green」
を発表 メディアの活用、熱交換を効率化する新た 機器レベルで省電力化を進めるHarmoni
した。同プロジェクトに基づき、日立は今 なヒートシンク技術の開発などを行う。部 ous Greenの成果を、データセンター・レ
後5年間で累計約33万トンの二酸化炭素 品レベルでは、電源モジュールおよび半導 ベルで省電力化を進めるCoolCenter50へ
(CO2)
削減を目指す。 体において省電力化に向けた技術開発を も適用し、シナジー効果を図っていく構え
 新プロジェクトでは、日立の主要IT機器 進める。 である。 (Computerworld)
に対してCO2削減のロードマップを策定し、  また、日立は新プロジェクトを具現化す
それに即した形で製品開発を進めていく。 るための新製品として、低消費電力版ク
具体的には、省電力化を推進するレベルを アッドコアXeonプロセッサを搭載したブ
「運用レベル」

「装置レベル」

「部品レベル」 レード・サーバ
「BS 320 es サーバブレー
に分けて実行する。 ド」
と、テープ・ライブラリを接続/制御可
 運用レベルでは、サーバ/ストレージ/ 能なディスク・アレイ装置
「Hitachi Tape
ネットワークの仮想化技術を利用して、シ Modular Storage」
を同時に発表した。
ステム全体としての電力量の動的な制御や  なお、日立は9月27日にデータセンター
「Ha r m o nio u s Gr e e n」
と同時に発表された省電力仕
使用リソースの最適化を進める。装置レベ の省電力化プロジェクト
「CoolCenter50」 様の
「BS 320 es サーバブレード」

January 2008 Computerworld 19


マイクロソフト、ユニファイド・コミュニケーション製品群を正式発表
PRODUCTS
「ビジネス・コミュニケーションを飛躍的に進化させる製品」
とゲイツ氏

 マイクロソフトは10月17日、音声、ビ  OCS 2007は音声、ビデオ、インスタ を早期導入したユーザー事例として日産自


デオ、Web会議などの連携を実現する、 ント・メッセージング
(IM)
、会議、プレゼ 動車が紹介された。同社の執行役員CIO
ユニファイド・コミュニケーション
(UC)
製 ンス
(在席)
情報などのコミュニケーション グローバル情報システム本部長の行徳セ
品群の発表イベントを開催した。 機能をリアルタイムで提供するサーバであ レソ氏は、
「OCS 2007を活用することで、
 この発表イベントは全世界で開催され、 る。 国内外を問わず会議を開催できる。複数
米国サンフランシスコでのイベントには、  Office Live Meeting 2007は、会議 の拠点を持つグローバル企業には、必要
同社会長のビル・ゲイツ氏が登壇。
「ビジ の開催をはじめ、文書、映像、アプリケー 不可欠なシステムだ」
と語った。
ネス・コミュニケーションを飛躍的に進化 ションの 共 有といった 機 能を、SaaS (Computerworld)
させる製品群だ」
とアピールした。 (Software as a Service)
モデルで提供
 今回発表されたのは、UCの中核となる するサービスである。
サーバ・ソフトウェアの
「Office Communi  RoundTableは、OCS 2007および
cations Server
(OCS)2007」
、OCS  Office Live Meeting 2007に対応した
2007のクライアント・ソフトウェアである Web会議用パノラマ・カメラで、会議室全
「Office Communicator 2007」
、ホステッ 体を単一の画面に表示することが可能だ。
ド型Web会議サービスの
「Office Live 発売開始は11月中旬で、価格は40万円前
Meeting 2007」
、Web会議用パノラマ・ 後の予定だという。 サンフランシスコでの発表イベントに登壇した米国マイ
クロソフト会長のビル・ゲイツ氏
(左)とビジネス部門社
カメラの
「RoundTable」
である。  日本での発表イベントでは、OCS 2007 長のジェフ・レイクス氏

IBMとアルカテルがユニファイド・コミュニケーションで提携、
NEWS

マイクロソフトに対抗へ
Lotus Sametime用のOmniTouchプラグインを開発

 米国IBMとフランスのアルカテル・ルー Click-to-Conference
(クリック&会議通 コミュニケーション関連のパートナーシッ
セントは10月30日、
「Fall VON」
コンファ 話)
できる機能を提供するとともに、Same プを結んでいる。
レンスにおいて、
ユニファイド・コミュニケー timeを通じて音声会議のスケジューリング  今回の提携はIBMの対マイクロソフト戦
ション分野で提携したと発表した。両社製 と管理を可能にする。 略を明確に打ち出すものである。IBMは、
品の連携強化を図り、マイクロソフトのユ  アルカテル・ルーセントの
「OmniTouch Sametimeをはじめとする自社のコラボレー
ニファイド・コミュニケーション製品に対 Unified Communication」
とSametime ション製品を、マイクロソフトのユニファ
抗することが目的だ。今回の提携発表に の両ソフトを有するユーザーであれば、同 イド・コミュニケーション製品に対するオー
合わせ、アルカテル・ルーセントは
「Lotus プラグインを利用することができる。なお プン標準の代替選択肢と位置づけている。
Sametime」用の音 声 会 議プラグイン このプラグインは、数週間以内にSame  一方マイクロソフトは、ユニファイド・コ
「OmniTouch My Teamwork for Lotus timeのパートナー向けサイトで公開される ミュニケーション戦略の要となる
「Office
Sametime」
を披露した。 予定だという。 Communications Server 2007」
を10
 このプラグインは、
Sametimeのユニファ  両社がユニファイド・コミュニケーショ 月17日に発表した
(上段記事参照)
。さら
イド・コミュニケーション機能を拡張する ン分野で協力関係を結んだのは今回が初 にマイクソフトは、同サーバのサポート・ベ
「Lotus Sametime Unified Communi めてだ。ちなみにIBMは、アルカテル・ルー ンダーを増やすべく、電気通信会社やネッ
cations and Collaboration API」
をベー セントのほかにシスコシステムズやアバイ トワーキング/無線携帯端末プロバイダー
スに開発されたもの。Sametimeとグルー ア、ノーテル・ネットワークスなどのネット に対し、積極的に接触を図っている。
プウェア
「Lotus Notes」
の両方から直接 ワーキング・プロバイダーともユニファイド・ (Computerworld米国版)

20 Computerworld January 2008


O c t o b e r, 2 0 0 7

SAPジャパン、SOA対応のアイデンティティ管理ソフト

PRODUCTS
「NetWeaver Identity Management」
を発表
非SAP製品が混在するシステム環境でID情報へのアクセスを一元的に管理

 SAPジャパンは10月23日、SOA
(サー 保を支援する。具体的には、SAPおよび でSAP以外のシステムまでサポートしてい
ビス指向アーキテクチャ)
ベースの異機種 SAP以外の人事管理システムと連携して、 なかったが、NetWeaver Identity Mana
混合環境におけるセキュリティ向上を支援 人事データの変更をトリガーに各システム gementを導入することで、複数システム
するアイデンティティ  管理ソフトウェア
(ID) のID情報を自動的に更新するといったこと が混在する環境下で、アプリケーション・
「S A P N e t W e a v e r I d e n t i t y M a n a が可能になるという。 レベルとシステム・レベルの両方のID管理
gement」
を発表した。  SAPジャパンのバイスプレジデントで を共通のプラットフォーム上で実現し、全
 同製品は、SAPが今年5月に買収した GRC事業開発室室長を務める桐井健之氏 社レベルのID管理をサポートできるように
ノルウェーのID管理ソフトウェア・ベン によると、同社はこれまで
「SAP ERP」
に なる」
と強調した。 (Computerworld)
ダー、マックスウェアの技術をベースに開 ロール・ベースの権限設定機能やビジネス・
発されたもの。ユーザー・プロビジョニン トランザクション・レベルのアクセス管理
グやID情報の同期、ならびにアプリケー 機能を追加し、アクセス管理自動化ツー
ションとシステム・リソースのためのアクセ ルとして
「SAP GRC Access Control」

ス権限管理をサポートする各種機能を備 提供してきたが、こうした
「アプリケーショ
え、複数システムに存在するID情報を統 ン・レベルのID管理」
と非SAP製品による
合的に管理するとともに、管理者の負担軽 「システム・レベルのID管理」
を連携させる
減およびITの総体的な運用コスト削減を には多大な労力を必要としていたという。
SAPジャパンのバイスプレジデントでGRC事業開発室
実現し、SOA環境におけるセキュリティ確  桐井氏は、
「ID管理に関しては、これま 室長を務める桐井健之氏

「時間、場所、使用する機器に依存しない情報アクセスを実現する」

NEWS
──EMCのトゥッチCEOが情報インフラ戦略をアピール
ヴイエムウェアに代表される同社の買収戦略にも自信を示す

 
「データが情報となり、情報が知識とな 語った。 長している点を強調。
「2002年は、54億
り、最終的にビジネスにつながっていく。  基調講演でトゥッチ氏は、EMCの基本 ドルを売上げながら利益面では赤字だっ
そうした流れの中で、EMCはインフラ部分 戦略である
「情報インフラストラクチャ」
構 た。しかし、2007年では14億ドルを超え
を支えていく」――。EMCジャパンが10 想を重点的に説明した。同戦略は、現在 る利益を予想している」
(トゥッチ氏)
月30日に開催したプライベート・コンファ の情報インフラ環境を8つのテーマ
(スト  また、同社の買収戦略についてトゥッチ
レンス
「EMC Forum 2007」
では、基調講 レージ、可用性、セキュリティ、アーカイ 氏は、
「(情報インフラ戦略に基づく)8つの
演に 登 壇した 米 国EMCのCEOである ブ化、知的情報管理、エンタープライズ・ 技術を強化するために買収を行っている。
ジョー・トゥッチ氏が、同社の役割をこう コンテンツ管理、仮想化、リソース管理) 大手ベンダーの買収にはこだわっていな
に分けて、EMCがテーマごとに最適化し い」
と語った。今年8月にヴイエムウェアが
た製品を提供していくというものである。 IPO
(新規株式公開)
し、それによりEMCも
トゥッチ氏によれば、
「情報がどこにあって 多額の配当を受けているが、そのことに関
も、ユーザーがどこにいても、時間や場所、 しては、
「RSAセキュリティの買収当時の売
使用するデバイスに依存しないでセキュア 上げは4億ドル、ヴイエムウェアに関して
な情報へのアクセスを実現する」
ことを目 は買収当時の売上げが5,000万ドル程度
指しているという。 だった。われわれは比較的小さな会社を買
 講 演の後に行われた記 者 会 見では、 収し、それが後に有機的に結びついた結
「EMC Forum 2007」
の基調講演に登壇したEMCの
CEO、ジョー・トゥッチ氏 トゥッチ氏はこの5年間でEMCが大きく成 果だ」
と説明した。 (Computerworld)

January 2008 Computerworld 21


富士通中部システムズがSaaS市場に本格参入
PRODUCTS
統合CRMの をSaaSモデルで提供開始
「CRMate」
1ユーザー当たり月額5,500円で、システム導入時の初期費用が不要。段階的な拡張導入も可能に

 富士通中部システムズは10月10日、同 ている。さらに多くの入力項目が選択式と  なお、


オプション・サービスを追加すれば、
社の統合CRMアプリケーション・サービス なっているので、利用者の入力負荷が大 携帯電話からでも利用できる。NTTドコモ、
「CRMa te」を、SaaS
(Sof tware as a 幅に軽減されているという。 au、ソフトバンクなどの動作環境はクライ
Service)
モデルで提供すると発表した。  今回発表されたSaaSモデルのCRMate アントOSがWindows Vista/XP/2000、
すでに11月より提供が開始されている。 は、システム導入時の初期費用や設計/ 対応ブラウザは
「Internet Explorer 6.0」
 CRMateはコンタクト・センターなどの 環境設定が不要だ。同社は
「従来の業務 以上となっている。
カスタマー・サポート業務をはじめ、営業 システムは、顧客の個別要件に応じてシス (Computerworld)
スタッフのスケジュール管理や活動実績 テム開発を行っていた。そのためシステム
報告などの営業業務を支援するアプリケー 導入期間の長期化や、運用/保守にコス
ションである。顧客情報を一元管理する トがかかるという課題を抱えていた。しか
機能や、顧客対応のスピードを向上させる しSaaSモデルのCRMateを利用すること
機能が多数備わっているのが特徴だ。
また、 で、ユーザーは初期投資をはじめ、運用コ
商談の種類などに応じ、あらかじめ営業活 スト/負荷を大幅に低減できる」
とその優
動のプロセスを設定することもできる。同 位性を強調する。
社は、
「営業活動のプロセスを標準化する  価格は1ユーザー/ 1カ月当たり5,500
ことで営業担当者どうしが経験値を共有 円で、組織規模に合わせた段階的な拡張 「CRMate」 のポータルサイト。導入を検討しているユー
ザーは30日間の無料版を試用してみよう (http://crm.
し、組織としての対応力を向上できる」
とし 導入も可能だ。 fjcl.fujitsu.com/)

マイクロソフト、次期Dynamics CRMのパートナー料金を40%値下げ
SERVICES

担当幹部は「使った分だけ支払えばよい」 とオンデマンド・モデルへの注力をアピール
「ユーザーが支払う料金は値引きされないのでは」
と懸念する声も

 米国マイクロソフトは10月23日、CRM ター、ブライアン・ニールソン氏は、
「当社 といった大手ベンダーは、ここ数年のセー
ソフトウェアの次期バージョン
「Microsoft が前もってソフトウェアを提供し、パート ルスフォース・ドットコムの成功に刺激を
Dynamics CRM 4.0」
(開発コード名: ナーは利用シート数に基づいて毎月支払 受け、ホステッド製品への投資を強化して
Titan)
のパートナーが支払うサブスクリプ う。つまり、実際に使った分だけ料金が発 いる。今のところホステッドCRM分野で
ション・ライセンス料金を40%引き下げる 生する」
と語る。同氏によると、シート数に のマイクロソフトの勢力は大きなものでは
と発表した。これに伴い、従来バージョン 関係なく、最初に料金を支払うことをパー ないが、
「同社はほかの大手ベンダーよりも
のDynamics 3.0の価格も40%引き下げ トナーに要求するベンダーもあるという。 SaaSを重視している」
(オーブムPLCの主
られる。  しかし、パートナーの支払い額が40% 任アナリスト、デビッド・ブラッドショー氏)
 Dynamics CRMは、SaaSモデルでの 値下げされても、ユーザーがこれらのパー という。 (Computerworld米国版)
提供形態にも対応したCRMソフトウェア トナーに支払う料金も相応に引き下げられ
である。同社のCRMチャンネル戦略担当 るとは限らない。パートナーには、独自に
シニア・ディレクター、マーク・コーリー氏 料金を設定する権限が与えられる。これに
によれば、料金は国によって異なるという。 対しマイクロソフトの広報担当者は、
「論理
 パートナーが支払うライセンス料金は、 的に考えれば、パートナー側のコストが下
顧客先でインストールしたシート数がベー がった場合、顧客に請求する料金も値下
スとなる。同社のDynamics CRMワール げできるはずだ」
と語っている。
D y n a mi c sの 詳 細 情 報 が 入 手できる 「D y n a mi c s
ドワイド製品マーケティング担当ディレク  マイクロソフトに加え、SAPやオラクル Online Service」 のWebページ (http://www.micro
soft.com/japan/dynamics/default.mspx)

22 Computerworld January 2008


O c t o b e r, 2 0 0 7

株価操作をねらう「音声スパム」

RESERCH
10月にボットネットが1,500万通を送信
PDF、Excelに続くスパムの巧妙化が新局面を迎える

 
「Storm Worm」
というボットネットが10 も儲かる手口の1つになっているという。
月に1,500万通の
「音声スパム」
を送信した  今回の音声スパムは、Storm Wormに
ことが、英国のスパム対策ベンダー、メッ 感染したPCを介して10月17日から約36
セージラブズの調べで明らかになった。 時 間 に わ た っ て 送 信 され た。St orm
 音声スパムとは、受取人が添付ファイ Wormは、昨年までに1,500万台ものPC
ルをクリックすると、株の売り込み口上な に感染したと考えられているが、最近、感
どの音声を再生するというものだ。今回送 染PCのネットワーク規模は縮小しつつあ
信されたのは
「カナダのオンライン自動車 る。カリフォルニア大学サンディエゴ校の
販売会社エグジット・オンリーへの投資を 研究者らは、その数を約16万台、任意の
勧めるもの」
がほとんどだったという。メッ 時間にアクセス可能なものは、そのうち2
セージラブズは
「大きな被害があったとは 万台と見積もっている。
考えにくい」
との見方を示している。  なお、エグジット・オンリーは、今回の
 この種の詐欺は、株価の変動が激しい 音声スパムの送信に一切関与していないと
投機的な低位株の価格を、偽情報によっ 主張している。同社の株は、音声スパム
て1〜2セントほどつり上げたところで売り が送信された翌日の10月18日に約41セン
抜くというもの。観測筋によると、こうし トにまで上昇したが、10月30日の終値は
た株価操作は現在、スパマーにとって最 20セントだった。 (IDG News Service)

特許改革法案を巡って NEWS
米国議会でロビー活動が過熱
「特許相場師」
が問題視される一方、特許の価値下落という懸念も

 米国議会で特許改革法案を巡る攻防が 特許侵害訴訟で裁判所が損害賠償額を算
激しさを増しており、連邦議会の議事堂で 定する方法を改めるという条項の2点だ。
は10月25日、賛成反対双方のグループが  現在、裁判所は製品の一部が特許を侵
相次いで記者会見を開いた。 害している場合でも、製品全体の価値を
 ヒューレット・パッカード
(HP)
、シスコ 考慮して賠償額を算定している。特許改
システムズ、SAPの弁護士などが加盟す 革法が成立すれば、特許侵害が発生して

「Coalition for Patent Fairness
(特許 いる部分の価値だけを考慮して賠償額を
の公正さを求める連合)
」は、特許を持つ企 算定できるようになる。
業を訴える
「特許相場師」
の問題を解決す  反対派の
「Innovation Alliance
(革新連
る必要があると訴えた。HPの総合弁護士 合)
」は、特許改革法が成立すれば、多く
マイケル・ホルストン氏によると、今年同 の特許の価値が大幅に下落すると主張し
社は、特許訴訟への対応に約7,500万ド ている。
同団体に属する医療機器ベンダー、
ルを支出する見通しで、その半分以上は、 マシモのCEO、ジョー・キアニ氏は
「中国
特許相場師が起こしたものだという。 などの国々が、わずかなコストでわれわれ
 特許改革法において争点となっている の技術をコピーし、米国に輸出することが
のは、承認された特許に異議を申し立てる できるようになる」
との懸念を示した。
ための新たな手段を設けるという条項と、 (IDG News Service)

January 2008 Computerworld 23


特集 最注目トピックの今を知り、
ベストな導入を!

仮想化テク
アップデート
今、企業コンピューティングの世界で最も注目されているテクノロジー・トピックの1つである仮想化
。サーバ統合の切り札として紹介されることの多いサーバ仮想化をはじめ、早期から
(Virtualization)
実用化が進んだストレージ仮想化、技術/製品の進展が著しいアプリケーション仮想化やデスクトップ
仮想化といったように、ITの全領域にかかわるキー・テクノロジーとして期待されている。本特集では、
構成済みソフトウェア・パッケージの新形態である仮想アプライアンス、 「インテルTXT」
「Viridian」
「KVM」 など新世代の仮想化技術、そして、こうした “仮想化時代”の先にある自律コンピューティングな
ど、このトピックの最新動向を追う。

42 Computerworld January 2008


ノロジー

January 2008 Computerworld 43


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

1
Part
グリーンIT /プロビジョニング/
自律コンピューティング

「仮想化時代」 に到来する
3つのテクノロジー・トレンド
企業の情報システムにおける仮想化技術の活用が着実に進むにしたがい、新しいテクノロジー・トレンドが出現して
いる。本パートでは、グリーンIT、プロビジョニング、そして、自律コンピューティングという、仮想化技術を前提と
した3つのトレンドについて、これらがユーザー企業にどのような価値をもたらすのか考察してみたい。

栗原 潔
テックバイザージェイピー 代表

仮想化──古くて新しい 成要素に関連するものだが、今日において仮想化技

テクノロジー 術と言った場合には、サーバ仮想化およびストレージ
仮想化を指すことが多い。
 仮想化技術とは、物理的なハードウェア・リソース  サーバ仮想化、ストレージ仮想化のどちらもその歴
を抽象化した論理的
(仮想的)
なハードウェア・リソー 史は古い。特に、メインフレームの世界ではおよそ30
スをユーザーに対して提供することで、物理リソース 年以上にわたり、これらの仮想化技術が活用されて
と論理リソースを疎結合化し、システムの柔軟性・俊 きた。オープン系システムの世界においても、仮想化
敏性、そして、ハードウェア・リソースの利用率を大 技術が製品化されてから10年以上の期間が経過して
幅に向上させるための技術の総称である
(図1)
。仮想 いる。近年になり、仮想化技術への注目度が急速に
化の考え方自体は、企業の情報システムのあらゆる構 高まった理由としては、システムの処理能力上の問題

図1:仮想化技術の概念

論理的(仮想)
リソース

●物理的リソースと同等の挙動
●より高い柔軟性
●ソフトウェアによる構成変更

抽象化(仮想化)機能

物理的リソース
ユーザー
(エンドユーザー、
プログラマー、
オペレーターなど)

44 Computerworld January 2008


Part 1 「仮想化時代」
に到来する3つのテクノロジー・トレンド

と比較してシステムの柔軟性・俊敏性の重要性が相 画面1:グリーン・グリッド・コンソーシアムのWebサイト
(http://www.thegreengrid.org/)
対的に高まってきたこと、および、PCサーバやデス
クトップPCの世界でも安価な仮想化技術が利用可
能になってきたことが挙げられるだろう。
 本誌2007年6月号の特集
「仮想化技術の価値と活
用指針」
において、
仮想化技術の基本について述べた。
本稿では、前回の記事では触れられなかったトレンド、
ないしは、それ以降に注目度が増してきているトレン
ドについて考察していきたい。そうした新しいトレンド
とは、
「グリーンIT」
「プロビジョニング」
「自律コンピュー
ティング」
の3つである。それでは以下、順に取り上げ
ていくことにしよう。

仮想化とグリーンITの関係

グリーンITとは 請となる可能性が高まっている。つまり、単なるコス
 グリーンITとは、環境保護の観点からIT基盤を見 ト削減以上の問題になるということだ。
直そうという活動の総称である。具体的には、データ  この種の課題への対応は、往々にして、企業の経
センターにおける機器類の電力消費量と発熱量を低 営層からトップダウン型で突然に現場に要請されるこ
減するための取り組みにフォーカスが当てられること ともある。一般企業のIT部門、そして、当然ながら
が多い
(注1)
。 IT基盤技術を提供するベンダーも、データセンター
 特に、非製造業企業においては、IT基盤に要する の電力消費量と発熱量の低減に対する注目度を今ま
電力が、企業が消費する電力の中でもかなりの割合 で以上に高めておく必要があるだろう。また、企業に
を占めており、環境保護の観点から見たグリーンIT よっては、データセンターの電力容量あるいは冷却容
の重要性は高い。実際、欧米では多くのIT調査会社 量の限界により、システムの拡張が困難になっている
がグリーンITを今後、ユーザー企業が注目すべき重 場合もある。この場合には、
グリーンITはより差し迫っ
要な案件の1つとして位置づけている。また、経済産 た課題となろう。
業省も
「日本政府としてグリーンITに本腰を入れて取
り組んでいく」
との見解を示している
(注2)
。 グリーンITの推進における仮想化技術の役割
 しかしながら、今までのところ、日本国内の一般的  欧米のIT業界におけるグリーンITに向けた取り組
なユーザー企業のIT部門におけるグリーンITに対す みの1つに、グリーン・グリッド
(http://www.the
る関心は今ひとつのようである。その最大の理由は、 greengrid.org/、画面1、注3)
というコンソーシアム
電気料金や空調コストなどが必ずしもIT部門の予算
注1:当然ながら、機器の製造段階におけるエネルギーの最小化、廃棄された
管理の範囲内にないということであると思われる。だ 機器の産廃処理なども、環境保護の観点からはきわめて重要であるが、
本稿ではデータセンターにおける電力消費と発熱量の低減に的を絞った
が、グリーンITの問題は単なる経費削減というレベ 議論を行うこととする

ルで語られるべき問題ではない。CSR
(Corporate 注2:日本AMD主催
「グリーンITシンポジウム2007」
(2007年10月4日)
で講
演した経済産業省商務情報政策局参事官、星野岳穂氏の発言より
Social Responsibility: 企業の社会的責任)
という観
注3:グリーン・グリッド・コンソーシアムの
「グリッド」
は、グリッド・コンピューテ
点から企業のグリーンITへの取り組みが社会的な要 ィングとは直接の関係はない

January 2008 Computerworld 45


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

の結成がある。グリーン・グリッド・コンソーシアムは、 適切に活用して大型サーバ1台へのサーバ統合を行
エネルギー効率性にすぐれたCPUやサーバ、ネット うことで、電力消費量の合計をおよそ5分の1に低減
ワークその他の技術の開発を推進し、データセンター 可能という試算が成り立つ
(注5)
。その際には、必然
運用のベスト・プラクティスを普及させることを目的と 的に発熱量も同程度に低減できるだろう。
した組織として、2007年2月に発足した。現在、同コ  もちろん、データセンターの個別の機器において省
ンソーシアムには多数のベンダー、SIer、データセン 電力型の製品を採用することは重要である。しかし、
ター施設関連企業が参加している
(注4)
。 それだけでは、この試算にあるような5分の1という大
 ここで注目したいのが、同コンソーシアムのボード・ 幅なレベルの電力量カットを実現することはできない。
メンバーとして、CPUベンダーのAMD、インテルや、 CPU、ハードディスク、電源、冷却ファンなどの構成
システム・ベンダーのヒューレット・パッカード
(HP)
、 要素は休眠状態にあっても一定の電力を消費し、熱
IBM、サン・マイクロシステムズ、デルなどという当然 を発している。ゆえに、機器の利用率が低い状態で
に想定されるベンダーに加えて、ヴイエムウェアが含 いることは、
グリーンITという観点からは望ましくない。
まれている点だ。なぜ、仮想化技術の専業ベンダー 意外に感じられるかもしれないが、
「大型サーバ+仮
である同社がグリーンITに強いコミットメントを行っ 想化技術」
は、“地球にやさしい”
システム形態なので
ているのか。それは、仮想化技術がデータセンターの ある。
電力消費量と発熱量を低減するうえで、きわめて有  例えて言うなら、仮に低燃費/電力駆動対応のエ
効なアプローチであることが理由であろう。 コ・カーが普及したとしても、だれもが1台につき1人
 大型サーバの電力消費量は、絶対値で見れば小 しか乗車しないような状態
(つまり、リソース利用率が
型サーバと比較してはるかに大きく、電力効率が悪い 低い状態)
ではエネルギー効率は高くない。最もエネ
ように見える。
しかし、
仮想化技術を活用して大型サー ルギー効率が高いのは、100%に近い乗車率の公共
バにワークロードの集約を行うことは、処理能力と相 交通機関を利用することである。公共交通機関1台と
対的に見た電力消費と発熱量の最小化という点では
最も有効な戦略の1つである。 注4:残念ながら、本講執筆時点
(2007年10月)
では、日本のベンダーの参加
はないようである
 具体的な例で見てみよう。図2に示すように、利用
注5:この試算は、実在の製品のスペックの概算値を使用した理論値であり、
率が低い小型サーバ群に対してサーバ仮想化技術を 実際の環境の測定値ではない点に注意していただきたい

図2:仮想化技術によるサーバ統合時の電力消費量低減効果
(試算)
小型サーバ 大型サーバ(+仮想化)
電力消費量 300W 電力消費量 20,000W
処理能力指数 1 処理能力指数 60
プロセッサ使用率 15% プロセッサ使用率 90%

小型サーバ
360台を
大型サーバ1台に
集約可能

電力消費量:300W×360台=108,000W 電力消費量:20,000W

電力消費量がおよそ5分の1に
*現実の事例とおおよその仕様に基づいた試算値であり、
実際の数値ではないことに注意されたい

46 Computerworld January 2008


Part 1 「仮想化時代」
に到来する3つのテクノロジー・トレンド

エコ・カー 1台を比較すれば、エコ・カーのほうが環 には、単なるリソースの動的な割り当てに加えて、関


境にやさしいかもしれないが、利用率が低いままでは 連作業も同時に行われるというワンストップ性が提供
十分な効果が上げられないということだ。 されるケースが多い。例えば、
サーバの世界では、
サー
 一般に、仮想化技術の採用によるメリットとして バのハードウェア・リソース
(CPU、メモリ)
の割り当
ハードウェア・リソースの利用率向上が挙げられるこ てと併せて、OSなど関連ソフトウェアの導入設定作
とが多い。そして、これに対する反論として、
「ハード 業も同時に行い、ユーザーが直ちに利用可能な状態
ウェアは十分安価であり、これらからも価格低下が進 にする機能をサーバ・プロビジョニングと呼ぶことが
行していくのであるから、利用率を上げる苦労などせ 多い。
ず、どんどん購入してしまえばよい」
という意見が聞か  なお、仮想化技術を採用せずにプロビジョニング
れることがある。これは、確かにハードウェアのコスト を行うことも原理的には可能である。物理的サーバ
(あ
だけを考えれば正論かもしれないが、上述したとおり、 るいは、ブレード・サーバにおけるブレード)
を未使用
グリーンITという観点からは適切な考え方とは言えな 状態で備蓄しておき、ユーザーの要求に応じて立ち
い。さらに、
システム管理のための人件費や設置スペー 上げ、利用可能にする場合もプロビジョニングと呼ぶ
スも含めたTCO
(総所有コスト)
も考慮すれば、利用 ことができよう。とはいえ、仮想化技術による物理リ
率の低いサーバやストレージが乱立する状況は決して ソースと論理リソースの疎結合化が実現されて初め
望ましいとは言えない。解決策としてのサーバ統合と て、プロビジョニングは、柔軟性・俊敏性の面での価
仮想化技術の採用を検討すべきだろう。 値を発揮できるようになる。その意味で仮想化技術と
プロビジョニングは表裏一体の関係にある。

プロビジョニングが
もたらす価値 ストレージのシン・プロビジョニング
 プロビジョニング関連で最近、注目度が高まってい
プロビジョニングとは る技術の1つ、シン・プロビジョニング
(Thin Pro
 仮想化の延長線上にある重要なテクノロジーにプ visioning)
について、ここで紹介しておこう。
ロビジョニングがある。ただし、IT業界においてプロ  シン・プロビジョニングとは、ストレージのプロビジョ
ビジョニングという用語の定義は、かなりの期間にわ ニングにおいて、より細かい単位でのプロビジョニン
たって安定していなかった。この用語が登場した当初 グを行い、ストレージ・リソースの利用率を大きく向上
は、通信事業者においてネットワーク関連設備を事 させるための手法である。この分野では、3PARがパ
前に用意しておき、顧客の回線開設の要求に迅速に イオニア的存在にあるが、日立製作所
(および、同社
対応できるようにすることを意味していた。また、
「収 のOEMパートナーであるHPとサン)
、EMCなどの大
容設計」
という訳語が当てられることもあるが、英語 手ストレージ・ベンダーも、シン・プロビジョニング機

「provision」
のもともとの意味として
「備蓄する」
とい 能を備えるストレージ製品の提供を開始している。
うものがあり、それに由来する用法と考えられる。  ストレージの世界において従来型のプロビジョニン
 しかし、時の経過とともに、メインの意味は
「準備」 グを行う際に典型的に見られる問題の1つが、
「オー
ではなく
「提供」
に変わっていったようだ。今日のIT業 バープロビジョニング」
である。つまり、
業務アプリケー
界において、プロビジョニングと言えば、ほとんどの ションの運用管理担当スタッフがITインフラ運用管理
場合、リソースの動的な割り当てという意味で使われ 担当スタッフに対して、必要以上に余裕を持ったスト
ている。
「ダイナミック・アロケーション」
という用語の レージ容量を要求してしまうために、全体として
(割り
ほうがなじみのある方も多いかもしれない。 当てはされているが)
利用されていないストレージ容量
 また、プロビジョニングという用語が使われるとき が大量に発生し、ハードウェア・リソースの利用率向

January 2008 Computerworld 47


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

図3:シン・プロビジョニングの概念と効果
従来型プロビジョニング シン・プロビジョニング

アプリケーションAが300GBを要求
300GB
100GB
A (実際の使用は100GB)
バッファ 100GB

アプリケーションBが200GBを要求
200GB
(実際の使用は50GB) A
50GB B 100GB
50GB
B
150GB
アプリケーションCが400GBを要求
C
400GB
C (実際の使用は150GB)
150GB

100+50+150 100+50+150
実質利用率=
300+200+400
=33% 実質利用率=
100+100+50+150
=75%

上という仮想化技術の本来のメリットを相殺している 本当に必要になるタイミングまで先延ばしにすること
状況である。 が可能になる。
 従来型のプロビジョニングだけでは、物理容量に  価格が継続的に低下していくことが確実なストレー
対する割り当て済み容量の割合という数値で見た利 ジ・ハードウェアの購入を早め早めに行うことの必然
用率を上げることはできても、物理容量に対する実際 性は低い。ストレージの購入は、必要な時に必要な
の利用容量の割合という数値で見た利用率は必ずし 容量だけを確保するジャストインタイム型の購買が基
も向上できないことがある。シン・プロビジョニングは、 本だ。シン・プロビジョニングにより、これに近い購
このような問題を解決するものだ。 入のタイミングが実現できる。また、リソースの利用
率が高いということは、前節で行った説明と同様に、
ジャストインタイム型の購買を実現 グリーンITにも貢献する。アプリケーションに割り当
 図3に、シン・プロビジョニングの仕組みと効果を てられているだけで実際には使われていないディスク
示した。 が無駄な電力を消費したり、熱を発生したりすること
 シン・プロビジョニングでは、要求に対してストレー が抑制されるからである。
ジ容量の割り当てを行う際に要求されたスペースをす  実のところ、シン・プロビジョニングの考え方は、
べて物理的に割り当てず、
その一部だけを割り当てる。 メインフレームにおけるストレージ割り当ての手法に
残りの容量の物理的割り当ては、実際にアプリケー 類似している。メインフレームの世界ではジョブ
(プロ
ションがストレージ容量を使用した時
(最初の書き込 セス)
がストレージ・リソースを要求するときには、一
みが行われた時)
に初めて行うのである。つまり、使 度にすべての容量を要求するのではなく、初期容量
われていない部分に対して物理的な割り当てが行わ と段階的な追加容量
(エクステント)
を指定して要求す
れることがない。これにより、
真の意味でのストレージ・ ることが可能である。そして、ジョブが実際に追加ス
リソース利用率を高めることができる。各アプリケー トレージ容量を必要とするまでは追加の割り当ては行
ションの追加ストレージの要求に迅速にこたえるため われない。このような仕組みは、ストレージが比較的
に、ある程度の共通バッファ容量は用意しておく必要 高価であった時代において最大限のリソース利用率
があるが、ストレージ・ハードウェアの購入、あるいは を達成することを目的としていたわけだが、同様の仕
オフラインになっていたストレージのオンライン化を、 組みが今日においても価値を発揮していることは興味

48 Computerworld January 2008


Part 1 「仮想化時代」
に到来する3つのテクノロジー・トレンド

深い。 図4:自律コンピューティングの構成要素

 なお、
シン・プロビジョニングの実装形態によっては、
副次的効果としてストレージ・システムの性能向上が
プロビジョニング 自己修復 自己チューニング
得られることがある。シン・プロビジョニングを実現す 機能 機能 機能
るためには、ストレージ容量を細かい単位
(チャンク)
で管理する必要がある。そして、論理的
(仮想的)

は連続して見えるストレージ領域が、物理的には多数
のドライブに分散したチャンクから構成されることにな 仮想化機能
(ワイド・ストライピングと呼ばれる、注6)
る 。この結果、
データ・アクセスを複数のドライブに対して同時並行 物理的リソース
的に行うことができるようになり、性能を向上できる
可能性があるのだ。

シン・プロビジョニングの考慮点
 シン・プロビジョニングは、仮想化技術の特徴を十
分に活用した将来有望なテクノロジーと言えるが、も 再び訪れる
ちろん考慮すべき課題はある。 自律コンピューティングの波
 第一に、ストレージ容量不足のリスクがある。シン・
プロビジョニングのポイントは、実際に使用されてい 自律コンピューティングとは
る容量だけを割り当て、各アプリケーションで共通の  仮想化技術やプロビジョニングが情報システムにも
バッファ領域を用意することで全体的なリソース利用 たらす価値は明確だが、これらが脚光を浴び、普及
率を向上させる点にある。しかし、ほとんどのアプリ が進んでいくことで、
さらに
“その先”
のテクノロジーが、
ケーションが同時に追加のストレージ容量を大量に要 以前より具体性を帯びた形で見え始めている。
それは、
求した場合には、バッファ領域が不足し、物理的な 自律コンピューティングである。
ストレージ容量が不足してしまうリスクがある。スト  自律コンピューティングは、システム自体がみずか
レージ管理者は従来型プロビジョニングの場合より らの構成管理やチューニングを行い、自動的に障害
も、念入りなSRM
(Storage ResourceManagement: から復旧できるようにすることで、システム運用管理
ストレージ・リソース管理)
を行う必要があるだろう。 にかかる負担を大幅に軽減し、柔軟性・俊敏性を飛
通常は、ストレージ製品を提供するベンダーが適切な 躍的に向上させるための技術/手法の総称である。
SRMツールや容量不足を事前に通知するためのア 本誌の読者であれば、5年ほど前に、ほとんどのシス
ラート機能を提供している。 テム・ベンダーが自律コンピューティングのビジョンを
 また、前述のとおり、ストレージ領域は、実際には 提唱していたのを記憶している方も少なくないだろう。
不連続な形で多数のドライブに分散している。このこ  自律コンピューティングの構成要素をおおまかに図
とは、アクセスの並列性向上による性能向上の可能 示すると、図4のようになる。言うまでもないが、物
性ももたらすと同時に、特定のドライブにアクセスが 理リソースの制御
(設置や導入作業)
は人手の介在を
集中する
“ホットスポット”
の発生による性能劣化も発 要するが、仮想リソースの制御はソフトウェアのみで
生させてしまうリスクがあることを意味する。よって、 実現することができる。ゆえに、自律コンピューティ
このような状況を回避するためのチューニング作業が
注6:図3では、このようなワイド・ストライピングの仕組みを描写できていない
通常より複雑になる可能性がある。 が、作図の都合上、ご容赦いただきたい

January 2008 Computerworld 49


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

ングを実現するためには、仮想化技術が全面的に採  仮想化とプロビジョニングについては今までに説明
用されていることが大前提となる。 したとおりだ。自己修復機能については、クラスタリ
ングやディザスタ・リカバリの分野ですでに実用化さ
時代のニーズに伴って重要性が増す自律化 れている。自己チューニング機能については、OSの
 今後、望むと望まざるとにかかわらず、情報システ ワークロード管理機能がこれに相当する。ワークロー
ムの複雑性は必然的に増大していく。どこかのタイミ ド管理とは、OS下で稼働する多数のプロセスの性能
ングで、人海戦術だけに頼ったシステム運用管理が とリソースの使用状況を常にモニタし、総合的に最善
限界を迎える可能性が高い。そのときに、自律コン のパフォーマンスを提供するためにリソースの割り当
ピューティングの採用は、ユーザー企業にとって
(お ての優先順位を動的に変更していくための機能であ
よび、ITベンダーにとって)
重要な差別化要素になる る。ワークロード管理により、例えば、特定のプロセ
だろう。現在、システム・ベンダーは、マーケティング・ スがシステムのリソースを使い切り、他のプロセスが
メッセージとして自律コンピューティングをかつてほど ほとんど稼働しなくなってしまうというような状況
(ス
喧伝していない。しかし、これは自律コンピューティ ターべーションと呼ばれる)
を防ぎながら、高いスルー
ングが相当に長期的なレンジで考えるべき戦略的案 プットを実現できる。
件であり、短期的なメリットを求める顧客企業にとっ  メインフレームの世界においては、ワークロード管理
てのアピール度が低いというマーケティング的な判断 機能が古くからOSの組み込み機能として利用されて
によるものであり、このテクノロジーの長期的な重要 いるが、オープン系システムの世界においてもワーク
性が減少したということではないと見ることができる。 ロード管理機能の普及が進み、ベンダー間の差別化
 図5に、IT基盤に求められる要件の変化を示した。 要素の1つになっている。今後、自律コンピューティン
今後、情報システムが備えるべき重要要件は柔軟性 グの本格的な普及に必要なブレークスルーは、これら
と俊敏性へシフトしていくと見られる。システムの複 のワークロード管理的な機能を特定のマシンや特定の
雑性がより増していく中で、この目的を果たすために ベンダーの閉じた世界ではなく、複数の多様なシステ
は人手に頼った運用管理では十分ではないのは明ら ムをまたがったオープンな世界で実現することである。
かだ。
 なお、自律コンピューティングを、実用化はまだま 自律コンピューティングがもたらす
だ先の非現実的なテクノロジーであるとの印象を持つ 次世代データセンター・ビジョン
方もいるかもしれないが、その基本的な技術はすでに
広範に利用されている。  本稿の締めくくりとして、自律コンピューティング

図5:IT基盤に求められる要件の変化
1970年代 1980年代 1990年代 2000年代

変化への対応
柔軟性と俊敏性を備えたい

実装スピード:できるだけ早く実装したい

コスト:できるだけ安く実装したい

性能: 人手の処理をできるだけ速く実行したい

50 Computerworld January 2008


Part 1 「仮想化時代」
に到来する3つのテクノロジー・トレンド

図6:HPの次世代データセンター・ビジョン

ビジネス部門

ビジネス・ユーザーに対する
サービスの発注 サービスの提供 標準ITサービスの提供

自動化された
情報サービス
ITプロセスによる管理
アプリケーション・サービス

基盤サービス

コントロール室

共用されたIT構成要素の
データセンター 定義済み構成

構成 発注 プロビジョニング 監視 変更
*資料 :ヒューレット・パッカード

に関するビジョンと製品体系において網羅性が高いと 想化・自動化することで、あたかも製造業におけるサ
思われるHPの基盤戦略を例に挙げ、これからの自律 プライチェーンのようなイメージで、ビジネス部門に対
コンピューティングが具体的にもたらすであろう次世 してITサービスを提供する環境の構築を目指すという
代データセンターの姿について考察してみたい。 のが、HPのNGDCビジョンの中心にある
(図6)

 HPのIT基盤の基本戦略は、
「アダプティブ・インフ  もちろん、このようなビジョンは理想的なものであり、
ラストラクチャ」
(変化適応型IT基盤。以下、AI)
と呼 実現には長期間を要する。一般的な企業のIT部門に
ばれている。過去5年間において、HPではCEOを含 おいては、IT基盤の構成要素を完全に標準化するだ
む主要経営陣の交代があり、IT基盤ビジネスへの再 けでも相当に困難な課題となろう。しかし、理想の実
フォーカスなど多くの戦略的変化があったが、AIへの 現は不可能であっても、理想につながるベクトルを理
フォーカスは変わっていない。これは、同社が自律コ 解しておくことは重要だ。現時点では、そのようなベク
ンピューティングという言葉こそ直接的には使ってい トルに向かうための最初のステップの要素として仮想
ないものの、それを長期的に重要な基盤戦略と見な 化技術があるということを認識しておくべきであろう。
していることの表れだろう
(注7)

 AIに基づくHPの次世代データセンター(NGDC)
の  以上、グリーンIT、プロビジョニング、そして、自
ビジョンにおいて顕著な特性の1つは、
「24×7 Lights 律コンピューティングという3つのトレンドについて見
Out」
の運用にある。
“24×7”
は、言うまでもなく日24時 てきた。
これらはすべて仮想化技術を基盤として、
ユー
間、週7日間を無停止で稼働するということを指す。 ザー企業に新しい価値を提供するテクノロジーであ
“Lights Out”
とは、電灯を消したままの運用、つまり、 り、CIOやITマネジャーは、仮想化技術の価値を大
人手を介さない運用を行うということだ。こうした理 局的かつ長期的な視点からとらえるべきだ。単に1台
想の実現のために、IT基盤の構成要素を標準化・仮 のサーバで複数のOSイメージを稼働するための技術、
あるいは、複数のストレージを集約するための手法と
注7:AIの上位レイヤであったアダプティブ・エンタープライズのビジョンは改訂 考えていたのでは、のちのち重要な機会を見失うこと
され、BTO (Business Technology Optimization)
とBIO
(Business
Information Optimization)
という構成要素が加えられている になるだろう。

January 2008 Computerworld 51


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

2
Part
仮想化環境で即座に実行できる
アプリケーションの新配布モデル

注目の
「仮想アプライアンス」
がもたらすメリット
仮想化ソフトウェアを導入し、仮想マシン上で各種アプリケーションを稼働させるとなると、セッティングにそれ相応
の手間がかかってしまう。そこで注目を集め出したのが仮想アプライアンスである。仮想アプライアンスは、OSを含
む動作環境のセットアップを事前に済ませた状態で配布されるため、
ユーザーはファイルをダウンロードし、
インストー
ルするだけで仮想インフラ上でアプリケーションを即座に実行できる。本パートでは、仮想アプライアンスの基本や
メリットを押さえるとともに、その最新動向も併せて解説していく。

渡邉利和

仮想アプライアンスとは 「イメージ・バックアップ」
がよく使われるようになって

何か いるが、仮想マシンが読み込む仮想HDDは、こうした
イメージ・バックアップとほぼ同様のものだと考えれば
 
「VMware」
など仮想化ソフトウェアを実際に利用し わかりやすいだろう。
ているユーザーであればよくおわかりのことと思うが、  こうして作られた仮想HDDは、システムが動作す
仮想化されたシステム環境は、ホストOSからは単一 るために必要なファイルをすべてまとめたものであり、
のファイルとして見える。仮想アプライアンスの根本 完全なシステム・イメージになっている。仮想化ソフト
的なアイデアは、端的に言えば、このファイルをソフ ウェアを利用して1つの物理コンピュータ上に複数の
トウェアの配布手段として利用するというものだ。 仮想マシンを動作させる場合、このファイルを必要な
 もう少し詳細に説明してみよう。物理的なコン だけ用意して仮想マシンに読み込ませればよいのであ
ピュータ上に仮想化ソフトウェアをインストールする る。システム起動用のHDDを複数用意しておき、必
と、仮想化ソフトウェアは新たに仮想マシン
(Virtual 要に応じてHDDを交換し、複数のシステム・イメージ
Machine)
を作り出す。仮想マシンは、ユーザーから を物理コンピュータ上で切り替えて利用することも可
見ればOSすらインストールされていない裸のハード 能だが、仮想化ソフトウェアを利用すれば、複数のシ
ウェアに見え、この上にOSをインストールし、さらに ステム・イメージを同時に実行することで、1台の物理
必要なアプリケーションなどをインストールすることで コンピュータ上に複数の仮想マシンを並列的に動作
ソフトウェア環境を作り上げる。それにより、実運用 させることができるようになる。
可能な仮想システムを構成することになる。  さて、
ここでもう1つ仮想HDDのメリットを挙げたい。
 ここでインストールされるOSやソフトウェアは、仮想 それは、仮想HDDに書き込まれたシステム・イメージ
マシンから読み出し可能な仮想的なハードディスク・ド は、
物理的なハードウェア構成に依存していない点だ。
ライブ
(HDD)
上に書き込まれることになる。この仮想 実際にシステム・イメージが記録されたHDDを交換し
ストレージは、実体としてはホストOSのファイルシステ た経験があるユーザーならわかると思うが、システム・
ム上に作られるファイルである。最近のバックアップ・ イメージを作成した時点でのハードウェア構成と異な
ソフトウェアでは、HDDのイメージを丸ごとコピーする るコンピュータに接続して起動しようとすると、最悪

52 Computerworld January 2008


Part 2 注目の
「仮想アプライアンス」
がもたらすメリット

の場合システムの起動が不可能になる。変更個所が スとして配布することには、どのようなメリットがある
ごく軽微な場合は、デバイス・ドライバの更新などで のだろうか。
運用可能な状態にまでもっていけるが、作業には手  まずは、逆にデメリットから考えてみると、配布サ
間を要する。 イズが大きくなることが挙げられる。特にアプリケー
 仮想化ソフトウェアの利用を前提に作成した仮想 ションの場合に顕著になるが、これはアプリケーショ
HDDのシステム・イメージは、仮想マシンの構成に対 ンのみでなく、OSも含めたシステムの起動イメージ全
応してデバイス・ドライバなどを組み込んでいるため、 体を配布することになるためだ。OS自体を配布する
仮想マシンの構成が同じであれば、実際のハードウェ ような場合には問題にならないが、アプリケーション
アに搭載されているデバイスとは関係しない。つまり、 の配布が目的の場合は、ファイル転送に要する時間
仮想HDDのシステム・イメージは、同じ仮想化ソフト が長くなるというデメリットが生じる。
ウェアがインストールされ、かつ同じ構成の仮想マシ  一方、メリットは、ファイルを入手したユーザーに
ンが動作している環境であれば、どの環境に移行し とってインストールも実行もきわめて容易であるという
てもそのまま動作することが期待できる。仮想HDD 点だ。このメリットがファイル・サイズの増大というデ
によるシステム・イメージは可搬性が高く、どのような メリットを補って余りあると考えられているからこそ、
物理コンピュータでも同じように動作すると言えるの 仮想アプライアンスが普及し始めているのだとも言え
である。 る。その背景として、ブロードバンド接続の普及によ
 この特性は、ユーザー・レベルで活用することも当 るユーザー・レベルでのインターネット接続帯域の拡
然できる。システムを仮想インフラ上に構築しておき、 大も重要な意味を持っているだろう。
その仮想HDDファイルをコピーしておけば、ハード  ソフトウェア単体で入手した場合、プラットフォー
ウェア障害などで運用継続が不可能になった場合に、 ムとなるOS上にインストールし、稼働環境を整えると
別のハードウェア上で同じシステム・イメージを起動 いう作業が必要になる。ソフトウェアによっては、OS
することができる。通常、こうしたバックアップ・シス 側の設定をアプリケーションに合わせて最適化するな
テムでは本番環境と同じ構成の予備ハードウェアを ど、ある程度の技術力を要することもある。Windows
用意する必要があり、コスト面での負担が大きかった の場合はレジストリに新たなエントリが追加されたり、
のだが、仮想化ソフトウェアを利用することにより、 既存のエントリの内容が変更されたりすることもあり、
予備のハードウェア構成を厳密に一致させる必要が こうした積み重ねによって、アプリケーションのインス
なくなるという大きなメリットが得られる。この場合は、 トール/削除を何度も繰り返すとシステムが不安定に
ユーザーが自分で構成した仮想HDDを他のマシンで なると考えているユーザーも多い。テストにしか利用
転用するという使い方だ。 しないマシンを日常作業用のマシンとは別に用意して
 仮想アプライアンスは、異なる物理コンピュータで いるユーザーであれば問題ないが、そうでないユー
作成された仮想HDDのシステム・イメージを、より広 ザーにとっては、日常使用しているマシンの安定性が
い環境に向けて提供するものだ。単純に言ってしまえ 損なわれたり、場合によっては起動しなくなったりす
ば、ソフトウェアの配布手段として、仮想HDDのシ るなどのトラブルにつながるリスクもあるため、
「ソフト
ステム・イメージを利用するということになる。 ウェアを追加でインストールして試してみる」
という作
業は、手間もさることながら心理的にも抵抗感のある

仮想アプライアンスの 作業だと言える。

メリット  仮想アプライアンスのインストールは、ホストOSか
ら見れば、単にデータ・ファイルを1つコピーするだけ
 仮想HDDのシステム・イメージを仮想アプライアン の作業である。当然だが、ホストOSの環境設定を変

January 2008 Computerworld 53


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

更する必要もない。さらに、仮想アプライアンスでは、 トールに伴うトラブル発生の可能性を事実上ゼロにで
ファイルの提供側があらかじめOS環境まで含めてシ きる。そもそも仮想アプライアンスでは、物理的なデ
ステム環境を最適化しておくこともできるので、ユー バイス構成の違いを仮想化ソフトウェアが吸収してく
ザー側で何も設定しなくとも、すぐにシステムを稼働 れるため、インストールの際に想定すべき環境は標準
することが可能だ。あたかも家庭用ゲーム機にカート 的な仮想マシン環境の1種類だけで済むわけだ。この
リッジやディスクをセットするような感覚で、PC上に ことがインストールを容易にしている面も無視できな
新たなシステム環境を導入し、動作させることができ いだろう。
るのである。インストールの際にホストOS側の環境を
一切変更しないため、不要になった場合にもアンイン
ストールなどの作業は不要で、ファイルシステム上に 仮想アプライアンスの流通
コピーした仮想HDDファイルを単に削除するだけで
済む。既存の環境に与えるインパクトの小ささは、仮  仮想アプライアンスは、技術的な視点で見れば、
想アプライアンスの大きなメリットとなっている。 ユーザーが作成する仮想システム・イメージと何ら違
 ソフトウェア配布側の視点では、サポートの負担が いはない。では、何をもって仮想アプライアンスと呼
大幅に軽減されることも見逃せないだろう。パッケー ぶのだろうか。もちろん厳密な定義があるわけではな
ジ・ソフトウェアのサポートでも、インストールに関す いが、公式な流通チャネルが存在することが、仮想
るトラブルへの対応は大きな比重を占めている。イン アプライアンスと個人的に作成したファイルの自主的
ストールがうまくいかないという状況は珍しくはないの な交換とを区別するポイントと見ることができるので
だが、仮想アプライアンスでは、ソフトウェア配布側 はないだろうか。
があらかじめOSを含む動作環境のセットアップを済  仮想アプライアンスに関する取り組みで先行してい
ませ、確実に動作する状態で配布できるため、インス るヴイエムウェアの 場 合、
「Virtual Appliance
Marketplace」
と呼ばれる仮想アプライアンスのダウ
画面1:ヴイエムウェアが運営する仮想アプライアンスのダウンロード・サイト ンロード・サイトを運営している
(http://www.vm
「Virtual Appliance Marketplace」
ware.com/appliances/marketplace.html、画面1)

もっとも、これはヴイエムウェアのビジネスというわけ
ではなく、あくまでも公式な入手先となるサイトを
“場”
として提供しているというスタンスだ。実際の仮想ア
プライアンスは、ソフトウェア・ベンダーなどが自発的
に作成し、提供している。ダウンロードに際してユー
ザー登録を求めるものや、有償配布のものなど、さま
ざまな配布形態となっている点も、ヴイエムウェアが
ビジネスとして厳格に運用しているわけではないこと
を反映していると言えるだろう。
 ヴイエムウェアによれば、仮想アプライアンスの登
録数はすでに600を超えており、内容も評価版から製
品版までさまざまだという。ジャンルも傾向も多岐に
わたり、およそあらゆる種類のソフトウェアが集積さ
れつつあるという状況のようだ。ダウンロード数の多
いものを見てみると、Linuxディストリビューションが

54 Computerworld January 2008


Part 2 注目の
「仮想アプライアンス」
がもたらすメリット

上位を占めているのだが、マイクロソフトが提供して の登録はないという。その点もあって、日本市場での
いる
「Windows Server 2003 R2 Enterprise Edi 認知はまださほど高くないと言わざるをえないが、今
tion Virtual Appliance」
も5位以内に食い込んでい 後、仮想アプライアンスがソフトウェアの配布手段と
るのが興味深い
(筆者が見たタイミングでの話だが)
。 して無視できない重要な存在になることは間違いない
その気になりさえすれば既存の環境にインストールし だろう。
て試すことができるアプリケーションよりも、やはり既
存の環境を劇的に変革してしまうOSのほうが、仮想 仮想アプライアンスの
アプライアンスとして試すには人気があるということだ 最新動向
ろうか。また、マイクロソフトがWindows Serverを
提供していることからもわかるとおり、ヴイエムウェア 業界標準フォーマット
「OVF」
の登場
のVirtual Appliance Marketplaceは、ソフトウェア  仮想アプライアンスに関しては、ソフトウェアの標
の試用版配布チャネルとしては完全に認知された存 準的な配布手段の1つとして積極的に活用していこう
在だと見てよさそうだ。 という動きが見られる。この場合、問題になるのは、
 なお、ヴイエムウェアが全ファイルのダウンロード 仮想アプライアンスが本質的には仮想化ソフトウェア
を管理しているわけではないため、厳密な数ではない が独自に作成した仮想HDDのイメージ・ファイルであ
ようだが、
2006年8月末から現在までの1年少々の間に、 ることだ。当然だが、仮想化ソフトウェアが異なれば
80万件以上の仮想アプライアンスがダウンロードされ ファイルの形式も異なり、直接的な互換性はない。こ
ているという数字もある。 のため、仮想アプライアンスに関しても、仮想化ソフ
 最近では、個人レベルで利用するクライアントPC トウェアごとに仮想HDDのイメージ・ファイルとして
でもマルチコア・プロセッサを搭載することが珍しくな 用意する必要がある。
くなってきている。マルチコア・プロセッサでは、複数  これは当然のことでもあるのだが、やはり仮想アプ
のプロセスを同時に実行する際の効率が向上する一 ライアンスを提供する側からみれば、この点は煩雑で
方、単一プロセスの実行では複数コアを活用できず、 面倒である。ユーザーにとっても、自分がインストー
目立った性能向上が体感できないことになる。それを ルした仮想化ソフトウェアに対応するアプライアンス
考え合わせれば、
クライアントPCでも仮想化ソフトウェ かどうかを意識しなくてはならないのは面倒だろう。
アを活用することで、ともすれば余剰となりかねない  この点を意識してか、
「DMTF
(Distributed Mana
マルチコア・プロセッサの処理能力を有効活用する道 gement Task Force)
」は2007年9月10日、
デル、
ヒュー
が開けることになる。ユーザーが使用しているPCの レット・パッカード
(HP)
、IBM、マイクロソフト、ヴイ
OSを入れ替えるとなるとおおごとだが、仮想アプライ エムウェア、ゼンソースの6社から提案されたOVF
アンスとしてゲストOSを実行するのはごく簡単なこと (Open Virtual Machine Format)
のドラフト仕様を
だ。さらに、マルチコア・プロセッサによって目立った 受け入れたと発表した。主要PCベンダーおよびx86
性能劣化もなしに複数のシステム・イメージを同時に プラットフォーム上で仮想化技術を提供する主要ベ
稼働できるようになれば、PCの利用スタイルが大きく ンダーが一丸となって、業界標準フォーマットの確立
変化する可能性もある。そうした点からも、仮想アプ に取り組んだ形だ。
ライアンスが広く流通し、ユーザーにとっても利用し  OVFは、各社の仮想HDDイメージ・ファイルを同
やすい環境が整うことの意味は大きいだろう。 一にしようというものではなく、あくまでも仮想マシン
 なお、Virtual Appliance Marketplaceが英語サ のパッケージングと配布のためのフォーマットである。
イトのみである点からもうかがえるとおり、現時点では 端的に表現してしまえば、OVFは仮想アプライアン
日本のソフトウェア・ベンダーから仮想アプライアンス スのためのフォーマットだと言ってしまってもよいだろ

January 2008 Computerworld 55


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

う。x86環境では主要な仮想化ソフトウェアの開発元 OSは、ハードウェアを抽象化し、アプリケーションに
であるマイクロソフト、ヴイエムウェア、ゼンソースの 対する一貫したインタフェースの提供を根本的な目的
3社が参加しているため、まだドラフトの段階ではある としているのだが、仮想化ソフトウェアの利用を前提
が、現時点では事実上、業界標準として確立するの とするなら、その上で動作するOSがさらにハードウェ
は約束されたようなものだと考えられる。正式な仕様 アを抽象化するのは無駄であると言える。ハードウェ
が固まれば、その後は各社の仮想化ソフトウェアが、 アの抽象化の部分は仮想化ソフトウェアに任せ、OS
OVF形式でのファイルの読み書きをサポートすること はアプリケーションの実行環境としての機能やユー
になるだろう。そうなれば、ユーザーはOVFで配布さ ザー・インタフェースの実装に専念すれば、無駄なオー
れた仮想アプライアンスを、自分が使用している仮想 バーヘッドを減らすことができるし、OSのサイズを小
化ソフトウェア上で自由に実行できるようになる。 さくすることで仮想アプライアンスのサイズの肥大化
 OVFは、各社の仮想化ソフトウェア上に仮想アプ を避けることにもつながる。
ライアンスをインストールするために必要な情報を付  ヴイエムウェアでは、仮想アプライアンスを作成す
加した、配布パッケージ作成用のメタフォーマットだ る際に利用できる
「ソフトウェア開発キット」
の1つとし
と位置づけられる。これが標準として確立しても、仮 て、Ubuntu Linuxベースの軽量OSを独自のJeOS
想化ソフトウェア間の競争には特に影響を与えず、ベ 実装として配布する計画もあるという。こうした流れ
ンダー間の競争に関してはニュートラルな標準として が認知を得れば、仮想アプライアンスを利用したアプ
利用されることになると期待できる。そのため、仮想 リケーション実行環境の配布がより現実的なものと
アプライアンスの普及を促す環境の整備に貢献する なっていくことは間違いないし、現状の肥大化した
と考えられる。 OSの構成を見直し、コンポーネント化を推し進めて
いく原動力にもなっていくだろう。
仮想アプライアンス専用の軽量OS
「JeOS」  実のところ、仮 想アプライアンスの 成 立には、
 このほか興味深い動向としては、仮想化ソフトウェ LinuxをはじめとしたオープンソースOSの存在が事
ア上で実行することを前提に、OS自体の軽量化を図 実上不可欠となっている。というのも、アプリケーショ
る動きがある。ヴイエムウェアではこれをJeOS
(Just ン・ベンダーがOSを含めた実行環境を丸ごと仮想ア
enough OS、
“Juice”
と発音)
と呼んでいる。 プライアンスとして配布するためには、ライセンス問題
 JeOSは、具体的なOSのインプリメンテーションとい が生じない再配布可能なOSが必要であり、現時点で
うよりは、概念的な存在と位置づけられている。実際 はLinuxといったオープンソースOSがその役割を担っ
ヴイエムウェアは、JeOSの具体例として、BEAが開発・ ているからだ。OSとして必要最低限のモジュールだ
配布しているJavaアプリケーションのためのプラット けを組み合わせるなど、任意にカスタマイズできる点
フォーム
「BEA Liquid VM」や、マイクロソフトが も、こうしたOSのメリットである。
Windows Server 2008で導入する
「Server Core」
*  *  *
をJeOSの例として挙げている。このほか、
ヴイエムウェ
ア自身も、Debian GNU/Linuxをベースに、必要な  仮想アプライアンスは、仮想化技術の発展はもちろ
モジュールだけを組み合わせてサイズを20MB程度に んのこと、LinuxをはじめとするオープンソースOSの
抑えたOS環境を
「VMware ACE 2」
で使用している 普及と成熟があってはじめて実現できた新しいスタイ
という。 ルだと言えるだろう。相互に独立して発展してきたさ
 現在のOSは、
膨大なユーザーランド・アプリケーショ まざまな技術を統合した仮想アプライアンスは、まさ
ンに加え、さまざまなハードウェア構成に対応するた に現在のITシステムにとっての1つの大きな到達点だ
めのドライバやユーティリティを含んでいる。そもそも と言っても過言ではないように思われる。

56 Computerworld January 2008


Part 2 注目の
「仮想アプライアンス」
がもたらすメリット

Side Story

相次ぐ仮想アプライアンスの
ダウンロード・サイト開設の動き Computerworld編集部

 仮想アプライアンスのダウンロード・サイトを開設する動 めている。ストリーミング配信を実現すれば、ファイルをダ
きがここ1年で相次いでいる。 ウンロードしながらアプリケーションを実行できるため、ファ
 まず、米国ヴイエムウェアが2006年11月7日に、仮想ア イル・サイズが大きくてもダウンロード時間はさほど問題には
プライアンスのダウンロード・サイト
「Virtual Appliance ならないというわけだ。
Marketplace」
の開設を発表した。米国バーチャルアイアン
も2007年1月24日、Windows/Linuxベースの検証済み仮 画面A:バーチャルアイアンが運営する
「Vir tual Appliance
Exchange」
想アプライアンスをダウンロードできる
「Virtual Appliance
Exchange」
(画面A)
を開設。さらに今年4月26日には、米国
パラレルズが
「Parallels Technology Network」
(画面B)

いう上記2社と同様のサイトを開設している。
 これらの仮想化ソフト・ベンダーは、仮想アプライアンス
の正規流通チャネルを構築することで、仮想化技術をより
普及させ、全体的な仮想化市場の底上げをねらっている。
しかも各ベンダーは、仮想アプライアンスのダウンロード・
サイトを、アップルが提供する
「iTunes Music Store」
のよ
うに位置づけているようだ。
 バーチャルアイアンのCMO
(最高マーケティング責任者)

マイク・グランディネッティ氏は、企業が新規にアプリケー
ションを導入する際に感じる最大の不満は、物理的なインフ
ラの整備に時間がかかることだと指摘したうえで、同社が提
供する仮想アプライアンスについて、次のように語っている。 画面B:パラレルズの
「Parallels Technology Network」

(アップルの)
iTunes Music Storeから曲をダウンロードし、
iPodで聞くのと同じくらいシンプルなものだ」
 ヴイエムウェアもまた、同社が主催する仮想化関連のユー
ザー・コンファレンス
「VMworld 2007」
(2007年9月11日〜
13日開催)
のプレス向けセッションの中で仮想アプライアン
スの話題に触れ、同社のVirtual Appliance Marketplace
をiTunes Music Storeに例えて紹介していた。
 先行するヴイエムウェアが運営するVirtual Appliance
Marketplaceは、発表の時点で仮想アプライアンス数がお
よそ300であった。しかし、現在ではその数は600以上に増
加しており、仮想アプライアンスが着実に認知されてきてい
ることをうかがわせる。ただし、仮想アプライアンスは、本
文中で指摘しているように、ファイル・サイズが大きくなり、
ダウンロードに時間がかかるケースもある。
 そうした場合の対応としてヴイエムウェアは、現在、仮想
アプライアンスのストリーミング配信に向けて技術開発を進

January 2008 Computerworld 57


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

3
Part
マイクロソフトの
「Viridian」/
「インテルTXT」/ Linuxカーネル標準
「KVM」

新世代仮想化技術の
実力を探る
ここにきて、
「VMware」
や「Xen」
に対抗する技術として、既存の仮想化資産を引き継ぎながら、新たなインフラスト
ラクチャへと発展する可能性を秘めた新世代の仮想化技術がいくつか登場し始めている。本パートでは、そのうち、
マイクロソフトの仮想化ハイパーバイザ
「Viridian」
、インテルの次世代仮想化応用技術
「インテルTXT」
、そして
Linuxカーネル標準の仮想化機能
「KVM」
の3つを取り上げ、核技術の仕組みや特徴、メリット、課題などを探る。

山市 良/大原久樹/森若和雄

■Windows Server Virtualization


(開発コード名:Viridian)
山市 良
ハイパーバイザ型を採用し、一新された仮想化プラットフォーム

Windows Server 2008に ゲストOSを同時実行することを可能にする仮想マシン・

組み込まれる標準機能 モニタ
(VMM)
であり、物理サーバのホストOS上で複
数の仮想マシンをホストする。この仮想マシンは、x86
 マイクロソフトの次期サーバOSであるWindows ベースのレガシーなコンピュータと標準的な周辺装置
Server 2008(開発コード名:Longhorn)
には、次世 をソフトウェア的にエミュレートしたもので、ゲストOS
代仮想化製品
「Windows Server Virtualization」
(開 の変更なしに任意の32ビットOSを実行できるというメ
発コード名:Vridian)
が標準機能として組み込まれる リットがある一方で、プロセッサの切り替え処理やI/O
計画だ。開発コード名が別であることからもわかるよう 処理のオーバーヘッドが大きく、ゲストOSのパフォー
に、Windows Server 2008とは別のラインで開発され マンスに影響するというデメリットがある。
ており、同製品の出荷後180日以内に追加提供される  一方、Viridianは、Virtual Serverの競合である
予定となっている。 「VMware ESX Server」
や「Xen」
でもすでに採用され
 マイクロソフトは現在、仮想化テクノロジーとして、 ている、ハイパーバイザ型の仮想化レイヤを持つVMM
デスクトップ向けの
「Virtual PC 2007」
と、サーバ仮 に生まれ変わる見通しだ。Viridianでは、この仮想化
想化のための
「Virtual Server 2005 R2」
を無償で提 レイヤを
「Windows Hypervisor」
と呼んでいる。
供している。ViridianはVirtual Server 2005 R2の  Windows Hypervisorは、物理的なコンピュータと
後継という位置づけになるが、現在の提供形態から、 OSを切り離し、
複数のOSの並列実行のためにパーティ
Windows Server 2008の1つの機能という位置づけに ション分けを行うだけの非常にシンプルな実装になっ
変更されるほか、アーキテクチャ自体も根本から大きく ている。Windows Hypervisorは、インテルVTや
変更される見込みだ。 AMD-Vといったハードウェア仮想化支援機能が用意
 Virtual Serverは、1台のコンピュータ上で複数の する特別なモードで動作し、ハイパーバイザ上で動作

58 Computerworld January 2008


Part 3 新世代仮想化技術の実力を探る

図1:ハイパーバイザ型を採用したViridianのアーキテクチャ。デバイスへのI/OアクセスはVMBusで高速化される
Parent Partition Child Partitions

アプリケーション アプリケーション アプリケーション ユーザー


モード
Virtual Machine Management Ring 1∼3
サービス

Windows Server 2008 x64 Windows Server 2003/2008 x86/x64 Xen-enabled Linux kernel
ストレージVSP ストレージVSC ストレージVSC

カーネル
ネットワークVSP ネットワークVSC ネットワークVSC モード
Windows Ring 0
カーネル Windowsカーネル

VMBus VMBus
Enlightenment
IHVドライバ
Hypercall Adapter

Windows Hypervisor Ring -1

ハードウェア仮想化支援機能(インテルVT / AMD-V)

“Designed for Windows”x64サーバ・ハードウェア

ネットワーク・アダプタ ストレージ
(VHD) ビデオカード キーボード・マウス

するゲストOSに対して、1台1OSの環境と同じRing 0 Service Providor)


」というコンポーネントを通してデバ
〜Ring 3の特権レベルでの動作環境を提供する。また、 イスにアクセスするため、オーバーヘッドが小さく、高
Virtual Serverとは異なり、
ホストがゲストOSのプロセッ いI/Oパフォーマンスを実現する。
サ命令を監視、トラップする必要がないため、処理の
オーバーヘッドは非常に小さい。 64ビット/マルチコア/
 Windows Hypervisorは、ストレージやネットワーク、 大容量メモリをサポート
ビデオなどのI/Oの仮想化や、仮想マシンの管理機能
は持たない。この点は、ハイパーバイザ内に仮想デバ  Viridianは、インテルVTまたはAMD-Vに対応し
イスを含むVMware ESX ServerやXenハイパーバイ たx64プロセッサ搭載コンピュータのみをサポートす
ザの実装と大きく異なる部分だ。Windows Hyper るため、ペアレント・パーティションには64ビット版の
visorが持たないこうした機能は、仮想マシン
(チャイル Windows Server 2008がインストールされていなけ
ド・パーティション)
をホストする1つ目のパーティション れ ばならない。ただし、GUIを 持 たない 最 小 の
(ペアレント・パーティション)
が担当する。ペアレント・ Windows Server 2008である
「Server Core」
への組
パーティションとチャイルド・パーティションは、 み込みをサポートしているため、メンテナンス・コスト
「VMBus」
と呼ばれる仮想的なバスで橋渡しされ、この を削減し、より多くのリソースを仮想マシンへ割り当
仮想バスを通して、ゲストOSは物理的なデバイスに対 てることが可能となっている。
してI/Oを行う。ゲストOSは、サードベンダー(IHV)  チャイルド・パーティションの仮想マシンは、
x86ベー
のデバイス・ドライバではなく、
「VSP
(Virtualization スからx64ベースのコンピュータに拡張され、任意の

January 2008 Computerworld 59


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

32ビットおよび64ビットOSを動作させることが可能 の投資が無駄になることはない。
になる。仮想マシンに割り当て可能なプロセッサは従
来のシングルプロセッサから最大8コアの仮想プロ 展開のしやすさと
セッサに、メモリは3.6GBから32GBに拡張される。 統合管理に期待
これらの拡張により、大量のメモリを必要とする大規
模アプリケーションやマルチスレッド・アプリケーショ  Viridianのハイパーバイザ、64ビット・ゲスト、マ
ンの仮想化が可能になる。 ルチコア・ゲストへの対応は、他の競合製品に比べる
 Windows Hypervisorの環境下でVMBusによる とやや遅れ気味だ。当初の計画では、オンラインのま
I/Oパフォーマンスの恩恵を得るためには、32ビット ま仮想マシンを移動できるライブ・マイグレーション機
または64ビット版のWindows Server 2003または 能やオンラインでのリソースの追加、
削除が可能なホッ
Windows Server 2008が必要となるが、マイクロソ トアド機能がサポートされる予定であったが、最初の
フトはゼンソースおよびノベルと共同で、Xen対応の リリースへの実装は見送られた。
LinuxカーネルをWindows Hypervisor上で動作可  しかしながら、ViridianへのゲストOSの展開は非
能にする
「Hypercall Adapter」
と、VMBusによるI/ 常に容易であり、既存環境の移行もサポートされる。
Oを可能にするLinux用VSCを開発中であり、Linux また、Viridianに標準装備されるライブ・バックアッ
ゲストOSもネーティブに動作させることが可能になる プ機能や、ネットワークを含めたリソース割り当て機
予定だ。 能、
「System Center」
による大規模環境向けの統合
 こうしたアーキテクチャの大幅な変更にもかかわら 管理機能は、管理者にとって非常に魅力的なものと
ず、Viridianと現行のVirtual Serverとの互換性は なるだろう。
維持される見通しだ。Virtual Serverの仮想ハード  マイクロソフトと関係の深いシトリックスが、ゼン
デ ィスクで ある
「VHD
(Virtual Hard Disk)
」は ソースを買収したことも気になるところだ。マイクロソ
Viridianでも採用されており、互換性が完全に保た フトは仮想環境の相互運用性を高めるために、ゼン
れている。したがって、Viridianが正式にリリースさ ソースと共同で作業を進めてきたが、その成果が将
れる前に、Virtual Serverで仮想化を進めても、そ 来の製品に反映されることはまちがいないだろう。

■インテル トラステッド・エグゼキューション・テクノロジー(インテルTXT) 大原久樹


システム全体のセキュリティ強化を支援する仮想化応用技術 インテル

想化支援がサポートされてから、PCクライアントとサー
インテルTXT誕生の背景 バの仮想化環境は大きく変わった。例えば、
Linuxでは、
Xenによる完全仮想化によりWindowsをゲストOSとし
 インテルTXTを理解するには、まず、インテルが提 て実行できるようになり、KVMやlguestといったイン
供するハードウェアによる仮想化支援技術と、業界標 テルVTを前提とする新しい仮想マシン・モニタ
(VMM)
準化団体のトラステッド・コンピューティング・グループ がLinuxカーネルに取り込まれるようになった。また商
(TCG)
において定義される関連技術を知っておく必要 用VMMでは、従来の仮想化手法に加えてVT-xを用
がある。 いることで、サポート対象となるゲストOSの多様性を
 2005年に発表された、
インテル バーチャライゼーショ 深める一助となった。
ン・テクノロジー(VT-x)
によってハードウェアによる仮  セキュリティの観点から見ると、VT-xを用いてゲス

60 Computerworld January 2008


Part 3 新世代仮想化技術の実力を探る

トOS間のアドレス空間を分離することで、よりセキュ 能であるし、ソフトウェアによるVMMの検出はそのソ
アなゲストOSを実現できるようになったと言える。アド フトウェア自身が改竄される危険性が高い。
したがって、
レス空間は、通常、仮想アドレスから物理アドレスへの VMMが立ち上がる前のハードウェアによるサポートが
変換に用いられるページ・テーブルによって管理される VMMの改竄検出には不可欠であり、この基盤技術を
が、
仮想化環境の場合は、
VMM内で管理されたページ・ 提供するのがインテルTXTである。
テーブルによってゲストOSのアドレス空間が分離され  以下、インテルTXT対応のハードウェアが、何をど
る。このように、VMMはゲストOSのアドレス空間の
“防 のように検査
(メジャーメント)
することで正しい検査を
波堤”
として、
セキュリティ上、
重要な役割も担っている。 保証
(トラストチェーン)
するのかについて述べる。
 VMMにおける主要なセキュリティの課題としては、
①DMA
(Direct Memory Access)
を用いたドライバの TCGが定義する
脆弱性、②VMMそのものの脆弱性の可能性、の2つ 2つの重要な概念
が挙げられる。
 ネットワークやハードディスクのように性能が求めら メジャーメント
れる物理デバイスは、通常、CPUを介さず物理メモリ  メジャーメントとは、ソフトウェア・コンポーネント
に直接アクセスするDMAの仕組みを用いている。 (BIOS、ブートローダ、カーネルなど)
のハッシュ値を
DMAでは仮想アドレスではなく物理アドレスを使うた 計算し、セキュアなハードウェアに格納することである。
め、DMAを用いたドライバやVMMに脆弱性があると ここで言うセキュアなハードウェアとはセキュリティ・
物理アドレスに自由にアクセスできてしまう。だが、 チップのTPM
(Trusted Platform Module)
を指す。
2007年8月にダイレクトI/O対応インテル バーチャライ TPMの仕様はTCGによって策定されており、最新版
ゼーション・テクノロジー(VT-d)
が発表されたことで、 はTPM1.2で あ る。TPMに はPCR
(Platfor m
ゲストOSにとっての物理アドレスからシステムの真の Configuration Register)
と呼ばれるレジスタがあり、
物理アドレスへの変換はチップセット内で自動的に行 TCGのPC Clientの仕様では24個のPCRが定義され
うことが可能になった。このように、VT-xとVT-dを ている。PCRは仕様によってそれぞれ各ソフトウェア・
用いることで、ゲストOSはI/Oを含めてメモリ空間の コンポーネントに結び付けられている。
分離を実現し、ゲストOS内に仮に脆弱性があったとし  メジャーメントでは、ソフトウェア・コンポーネントの
ても、他のゲストOSが影響を受けることはなくなった。 ハッシュ値はTPMに渡され、該当するPCR値の既存
 しかしながら、肝心のVMMに脆弱性があった場合、 のデータとビット演算が行われたあとで再度ハッシュ値
VMM上のすべてのゲスト・ドメインが影響を受けるおそ が計算される。TPMでの計算はすべてハードウェア内
れがある。通常のウイルスやマルウェアでも同様だが、 で行われるため、
任意の値にPCR値を設定したり、
ユー
脆弱性への対策として重要なことは、改竄の検出であ ザーがPCR値を改変したりすることは不可能である。
る。ソフトウェアの改竄を検出する方法としては、ハッ
シュ関数を用いて、利用中のソフトウェアと正常なソフ トラストチェーン
トウェアのそれぞれのハッシュ値を比較することが一般  システムを起動しVMMが立ち上がるまでの順番は、
的に知られている。ハッシュ関数は電子署名などにも 一般的に
「BIOSによるシステム情報の取得→ブート
用いられていて、ハッシュ関数がセキュリティ的に強固 ローダーの起動→VMMの起動」
となる。
こうしたブート・
であればあるほど異なるデータに対して同じハッシュ値 プロセスの中で用いられるソフトウェア・コンポーネント
を出力することがまれになる。VMMの場合、改竄を検 の中で1つでも改竄の可能性があると、VMMそのもの
出するためにVMMのハッシュ値を取得しようとしても、 の改竄を否定できなくなってしまう。逆に、ブート・プ
VMMの支配下にあるゲストOSからの検出は当然不可 ロセス中に実行されるすべてのソフトウェア・コンポー

January 2008 Computerworld 61


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

図1:インテルTXTのトラストチェーン

インテルTXT インテルTXTで有効に

プロセッサ AC アプリ
チップセット MLE OS
モジュール ケーション
TPM

*資料 :インテル

ネントのハッシュ値を取得
(メジャーメント)
できれば、 してAC
(Authenticated Code)
モジュールから構成さ
そのシステムを信用できるかどうかを判断できる。これ れている。ACモジュールとは、プラットフォームの構
が、TCGで定義されたトラストチェーンと呼ばれる仕 成オプションを検証するためのソフトウェア・モジュー
組みが生まれた動機である。図1のように、メジャーメ ルであり、CPU内 のACEA
(Authenticate Code
ント済みのソフトウェア・コンポーネントが、次に起動さ Execution Area)
という呼ばれる領域内でのみ実行さ
れるソフトウェア・コンポーネントをメジャーメントする。 れる。ACモジュール自身は電子署名されていて、そ
これを連鎖的に実行することで、カーネルやドライバな の公開鍵のハッシュ値はあらかじめチップセット内に記
どが立ち上がるまでに、すべてのコンポーネントがメ 録されている。
ジャーメントされたことが保証される。
 トラストチェーンにおいて重要なのは、最初に実行さ インテルTXTのトラストチェーン
れるコンポーネント自身のメジャーメントの取り扱いで  インテルTXTでは、前述したDRTMによるトラスト
ある。最初のコンポーネントをメジャーメントすることは チェーンが構築される
(図1を参照)
。インテルTXT向
できないからである。TCGではこの最初のコンポーネ けのCPUの新しい命 令セットであるSMX
(Safer
ントをRTM
(Root of Trust for Measurement)
と定義 Mode Execution)
のGETSEC
[SENTER]
という命令
している。そしてこのRTMをどこに置くかでトラスト がRTMを構成する。この命令はメジャーメント環境の
チェーンは2種類に分類できる。1つはSRTM
(Static 構築プロセスを起動する。次のソフトウェア・コンポー
RTM)
で、システムの起動直後に実行されるBIOS内 ネントであるACモジュールのメジャーメント結果は、
の書き換え不能な領域からトラストチェーンが構築され TCGの仕様に基づいてPCR17番に格納される。次に、
る。もう1つはDRTM
(Dynamic RTM)
と呼 ば れ、 ACモジュールが起動し、プラットフォームの構成オプ
CPUの命令など特定のイベントを契機としてトラスト ションの検証が行われる。検証結果に問題がなければ、
チェーンが構築される。SRTMではシステムの起動時 次のソフトウェア・コンポーネントであるMLE
(Measured
のみにしかトラストチェーンを構築できないのに対し、 Launched Environment)
のメジャーメント結果が
DRTMではシステムを再起動しなくてもトラストチェー PCR18番に格納される。
MLEとは、
具体的にはメジャー
ンを理 論 的には 再 構 築できる。インテルTXTは メントされるVMMのことである。
DRTMを実現している。  ここまでが、インテルTXTによって構築されるトラ
ストチェーンである。必要があればOSブート時に起動

インテルTXTが実現する されるサービス・プロセスや、ドライバ、ユーザー・アプ

堅牢なセキュリティ環境 リケーションなどをメジャーメントし、トラストチェーン
を延長すればよい。なお、インテルTXTそのものがメ
インテルTXTの構成要素 ジャーメントの対象とするのは、ACモジュールとVMM
 インテルTXTは、CPU、チップセット、TPM、そ の2つである。

62 Computerworld January 2008


Part 3 新世代仮想化技術の実力を探る

図2:リモート検証

プラットフォーム AIK CA局

TPM CA秘密鍵 CA公開鍵


1
PCR

2 6

4 検証者 7
3 PCR値
5 8
①プラットフォームが検証者に(ネットワークなどの)
サービスを要求する
AIK秘密鍵 AIK公開鍵 ②検証者がPCRの送信を要求する
③TPM内のAIK秘密鍵を用いてPCR値に対する電子署名を作成する
④電子署名付きのPCR値と、AIK公開鍵が含まれたAIK証明書を検証者に送信する
⑤検証者は電子署名の妥当性を確認する
AIK証明書 ⑥検証者は送信されたAIK証明書の妥当性をAIK CA局から確認する
⑦問題がなければ、 機器認証とPCR値に改竄がないことが確認でき、検証者はPCR値
に基づいた行動をとることができる
*資料:インテル

メジャーメントを用いたプラットフォームの検証方法 点から、セキュリティ強度は高いと言えよう。また、
 メジャーメントされた結果のPCRの値を用いて、ト MACアドレスやUUIDのようにソフトウェアによって偽
ラストチェーン内で改竄が行われたかどうかを検出する 造が可能な手法と異なり、TPMを用いることで、より
ための方法としては、ローカルで実施する方法と、別 堅牢な機器認証を実現できる。さらに、PCR17番以
のシステムからリモートで実施する方法がある。 降を確認することで、インテルTXTが導入された機器
であることを認識することも可能である。そのほか、イ
■ローカル検証 ンテルTXTでVMMを検証し、検証済みのVMMが管
 正しいと期待されるハッシュ値をあらかじめTPM内 理するVT-xおよびVT-dを用いて、ゲストOSのアドレ
のNVRAMに格納し、トラストチェーン内でメジャーメ ス空間が分離された機器だけネットワークへの接続を
ントされたPCR値との比較を行う。比較結果が同一で 許すなど、ネットワークを含めたさまざまな応用例が考
あれば次のコンポーネントの実行を許可し、異なって えられる。
いればポリシーに応じてシステムダウンなどのアクショ
*  *  *
ンを実行する。
 従来、セキュリティの運用として行われてきたウイル
■リモート検証 ス/マルウェア対策、ソフトウェア・ベースの機器認証
 他のプラットフォームからネットワーク越しに検証を とは異なり、インテルTXTでは、TPMという汎用デ
行う際には、TPM内に保存されている情報が改竄さ バイスを最大限に活用しながら、機器やOS、アプリケー
れないことと、検証先の機器そのものの認証を行う必 ションを認証するための基盤を提供する。また、イン
要がある
(図2)
。 テルTXTはインテルVTの拡張として導入される。
VT-xとVT-dによってハードウェア・レベルでゲスト
OSの分離をしつつ、VMMの改竄を検出可能な技術
セキュリティ面から見た利点 を採用することが、次世代セキュリティの基盤になる
からである。
 インテルTXTのリモート認証の場合、AIK秘密鍵  本稿をきっかけに多くの方がインテルTXTに興味を
がTPM内に保存されている点や、ハッシュ値や暗号 持ち、インテルTXT上のソリューションの発展につな
化の計算が物理メモリ上ではなくTPMで実行される がれば幸いである。

January 2008 Computerworld 63


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

■KVM
(Kernel-based Virtual Machine) 森若和雄
Linuxカーネルに統合された仮想マシン環境 レッドハット

Linuxカーネル標準の をCPUの仮想化支援機能を利用して行うことで、処

仮想化機能 「KVM」 理の大幅な高速化を実現している。


 KVMは、Linuxカーネルのモジュールとして実装
 KVMとは
「Kernel-based Virtual Machine」
の略 されており、CPUの仮想化支援機能
(インテルVTま
であり、Linuxカーネルにハイパーバイザの機能を追 たはAMD-V)
にアクセスするためのインタフェース
加する仕組みである。完全仮想化による仮想マシン (/dev/kvm)
を提供する。これにより、カーネル・モー
環境を提供し、仮想マシンを動作させたまま実マシン ド、ユーザー・モードに加えて、ゲスト・モードという
間を移動するライブ・マイグレーションにも対応する。 新しい動作モードが追加されることになる
(図1)

 KVMはもともと、イスラエルの仮想化ベンダー、ク  ゲスト・モードではI/O以外の動作は自由に行える
ムラネットが独自に開発したもので、2006年10月にア が、I/O動作の命令はトラップされて、カーネル・モー
ナウンスされ、同年12月にLinuxカーネルにマージさ ドに遷移する。そしてユーザー・モードで動作するハー
れた。現在は公開から間がないため、今すぐ企業で ドウェア・エミュレーション層に制御が移る。
ハードウェ
利用することは難しいと思われるが、次期Red Hat ア・エミュレーション層は、
必要に応じてエミュレーショ
Enterprise LinuxのベースとなるFedoraにも導入さ ン処理、システムコールによる実デバイスへのリクエ
れ注目を浴びており、コミュニティ(http://kvm. ストを行う。
qumranet.com/kvmwiki/)
においても活発に開発が  このようにKVMには、CPUの仮想化支援機能を
進められている。 活用する仕組みが実装されている。
 KVMの基本的な実装はほぼ完成し、現在はゲスト
OS上で動作するパラドライバ
(Para-virtualized De 完全仮想化に特化した
vice Driver)
の開発や、パフォーマンス・チューニング、 軽量なモジュール
IA以外のアーキテクチャへの対応が行われている。
 KVMでは独立したハイパーバイザが存在せず、

CPUの仮想化機能を活用し Linuxカーネルの1モジュールとして実装される。また、

「ネーティブ並み」の速度を実現 追加されるコードも1万2,000行程度とXenなどに比
べて非常に短いのが特徴だ。なお、メモリ管理や
 KVMでのI/Oエミュレーションは、従来から開発さ CPUスケジューラなど、通常のハイパーバイザとカー
れているユーザー・モードでの完全仮想化環境を提供 ネルのどちらにも必要な機能は、Linuxカーネルのも
するエミュレータ
「Qemu」
をベースとしている。Qemu のがそのまま利用される仕組みになっている。
の基本的な動作は、これから実行する命令をチェック  このように、KVMはカーネルに対する変更が小さ
し、I/O処理などの特権が必要な場合には、ソフトウェ くて済むこともあって、Linuxカーネル開発者の間で
アによるエミュレーション層に分岐して各種デバイス は非常に早く受け入れられた。
やCPU動作のエミュレーションを行い、
エミュレーショ  また、準仮想化に特化して開発されたXenとは対
ンが不要な場合には命令をそのまま実行する。 象的に、完全仮想化に特化しているのもKVMの特徴
 従来のQemuは、特権命令であるか否かの判定を の1つだ。
「完全仮想化+パラドライバ」
というKVMの
ソフトウェア・ベースで行っていたが、KVMではこれ 構成は、VMwareの構成に近いと言える。

64 Computerworld January 2008


Part 3 新世代仮想化技術の実力を探る

 一方、KVMのハードウェア・エミュレーション層で 図1:KVMのアーキテクチャ

は、
実績あるQemuのエミュレーション機能を利用する。 通常の 通常の ゲスト・モード ゲスト・モード
ユーザー・ ユーザー・
そのため、登場から間もない新しい実装であるにもか プロセス プロセス Qemu I/O Qemu I/O
かわらず、KVMで提供される仮想ハードウェア環境
の仕様は比較的安定していると言える。 Linuxカーネル KVMドライバ

シンプルなシステム構成で
ゲストOSは通常のユーザー・プロセスと同レベルにある。I/O以外のコードはゲスト・モード
で実行され、特権命令またはI/OはLinuxカーネルでハンドルされる。
ゲストのI/Oの処理

既存機能の利用も可能 は、ユーザー・モードのQemuによって行われる

 前述したように、KVMは独立したハイパーバイザ をゲストOS側から利用するためのパラドライバの開発
を提供するのではなく、Linuxカーネルにハイパーバ も待たれるところだ。
イザ機能を追加する。こうした構成には、ハイパーバ  例えば、KVMのI/Oエミュレーション層では、ハー
イザが存在するシステムと比べてシステム構成が単純 ドウェアのふるまいが非常に正確にエミュレーション
になる、
Linuxの既存機能を利用できるといったメリッ されるが、その分オーバーヘッドが大きくなってしま
トがある。 うのが課題になっている。そうしたI/Oエミュレーショ
 例えば、KVMによる仮想化環境では、ホストとな ン時のオーバーヘッドを回避するための技術として開
るLinuxカーネルが対応している各種デバイスの機能 発が進められているのがパラドライバである。I/Oエ
(省電力機能やUSBなど)
をそのまま利用することが ミュレーション層を経由せずにゲスト・カーネルが直
可能だ。また、通常の仮想化環境では、仮想マシン 接ホストとなっているLinuxカーネルにリクエストを発
を管理するためのツールを新しく用意しなければなら 行する。同様の技術は、VMwareやXenの完全仮想
ないが、KVMによる仮想化環境では、仮想マシンを 化でも採用されている。
単なるユーザー・プロセスとして扱えるので、従来の  ほかにも、ハイパーバイザとなっているLinuxカー
Linux管理ノウハウを生かすことができる。例えば、 ネルから特定のデバイスとのやり取りを仮想マシンに
仮想マシンを強制終了したいときにはkillコマンドで 委譲する
「passthrough」
の開発も検討されている。
終了できるなど、すでにUNIXに馴染んでいる管理  各種OSの対応状況は、クムラネットのWikiページ
者であれば導入は非常に簡単と言えるだろう。 に掲載されている。今のところworkaroundによる対
 管理ツールとしては、Qemu関連のツールをほとん 応が必要なものや、起動しないものもあるが、徐々に
ど変更なしで利用できるため、最低限必要なものはす 改善されていく見通しだ。
でにそろっているが、レッドハットでは、KVMだけで  対応作業の実例としては、x86のリアル・モードの
なくXenやQemuなど、複数の仮想化環境の管理用 ソフトウェアによる実装が進められていることが挙げ
API統一を目的にFedoraプロジェクトが開発中の られる。これは主にMS-DOSやWindows 95などの
「libvirt」
ライブラリをベースに、各種管理ツールの開 古い環境への対応において必要となる作業だ。
発を進めている。  また、現在のKVMの実装は、CPUの仮想化支援
機能の利用が必須の条件となるため、最新ハードウェ
アを用意する必要もある。そうしたことから仮想化支
残された課題 援を不要とするための機能も開発中だ。実装が公開
されてから約1年と短く、企業への導入の敷居は高い
 現在のKVMの実装は、パフォーマンス面でチュー ものの、LinuxコミュニティにおけるKVMの注目度は
ニングの余地が残されている。KVMのインタフェース 高く、今後が期待される。

January 2008 Computerworld 65


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

4
Part
ベスト・プラクティスを実践し、
悪意の攻撃からシステムを守る

自社での対策は十分か?
「仮想化環境のセキュリティ」
仮想化技術が企業コンピューティングの世界で着実に根づくのに伴い、仮想化環境におけるセキュリティの重要性
がクローズアップされるようになってきた。本パートでは、
仮想化環境におけるセキュリティをテーマに、
多くのユーザー
企業にとって参考になるベスト・プラクティスの紹介、および、この分野の最新技術動向をお伝えすることにしよう。

デブ・ラドクリフ
Network World米国版

クラッカーがハイパーバイザ よって構成されるセキュアな仮想化環境を実現して

を狙っている? おり、現在は主に、IBM製ブレード・サーバ上で仮
想Linuxマシンを稼働させている。同社が
「新データ
 米国ニュージャージー州に本拠を置くイントラは、 センター」
と呼ぶ新しいサーバ・インフラの基盤となっ
世界最大規模の海運団体によって設立された、B2B ているのは、インテル・プラットフォーム上で稼働する
の 海 上 貨 物 輸 送ポータル・サービス
「INTTRA」 ヴイエムウェアの仮想化技術である。
画面1)
(http://www.inttra.com/、 の提供プロバイダー  イントラのIT担当バイスプレジデント、ジョン・ドベ
である。同社では、数年前から、バックエンドのIBM ネデット氏は、仮想データセンター環境のセキュアさ
製メインフレームとシトリックス・システムズの製品に を保ちながら、立証されたベスト・プラクティスをエミュ
レートすることは不可能ではないと見ている。
画面1:B2Bの海上貨物輸送ポータル・サービス
「INTTRA」
のトップ・
ページ画面  しかしながら、今のところは、仮想Webサーバを
(http://www.inttra.com/)
DMZ
(Demilitarized Zone:外部ネットワークと内部
ネットワークの境界に位置する
“非武装地帯”
で、ファ
イアウォールの第3セグメントに相当する)
の外側に置
いたり、管理が難しいエンドポイントに仮想マシンを設
置したりといったリスクを冒そうとまでは思っていない。
 
「どんな企業でも、仮想化環境を構築し、業務に
利用することは可能だ。
しかしながら、
それは最終的に、
仮想化プラットフォーム・レイヤ自体に全幅の信頼を
置くということを意味する」
と、ドベネデット氏は、仮
想化環境に対するセキュリティ上の不安を隠そうとし
ない。
 ちなみに、ドベネデット氏が言う仮想化プラット
フォーム・レイヤとは、ハードウェアと仮想マシン環境

66 Computerworld January 2008


Part 4 自社での対策は十分か?「仮想化環境のセキュリティ」

(OSを含むすべてのデバイス・ドライバ)
の間に位置す 図1:仮想化環境におけるセキュリティ対策の実際

Q 自社の仮想化環境において、
る中間的なレイヤを指す。仮想化製品を提供するベン どのようなセキュリティ対策を
ダー各社は、このレイヤのことを、自社の製品の特性 行っているか?
今回のNetwork World米国版の調査では、回答者の約3分の2が「仮想化によってセ
に応じてハイパーバイザ、仮想カーネル、仮想化エン キュリティ・リスクは高まっていない」 と回答した。一方、「仮想化によってセキュリティ・リスク
が高まっている」 と答えた残りの約3分の1は、 さまざまな手法で対策を講じている。以下は、
ジン、仮想マシン・モニタなどと呼んでいる。 その具体的な対策である (複数回答)。
従来型のエージェント・ベースのスパム/マルウェア/
 現時点ではまだ、このレイヤの脆弱性を見つけ、悪 ウイルス対策フィルタを仮想マシンに組み込んでいる
用した例が報 告されているわけではない。だが、 56%
「RedPill」
のような仮想マシンを認識するマルウェア 仮想マシン群へのアクセスを遮断する仮想LANを設置している
や、
「BluePill」
のような仮想マシンを悪用するルート 56%
キット
(クラッカーがネットワーク経由で不正行為を行 仮想環境向けの侵入防止システム、 ファイアウォール、
あるいはモニタリング・ツールを導入している
うために利用するツールの総称)
の存在はすでに知ら
54%
れており、ドベネデット氏がこの部分のセキュリティを
セキュリティ機能を内蔵するよう仮想化製品ベンダーに求めている
危惧するのも無理からぬところだろう。専門家たちも、 34%
「ハイパーバイザは、仮想マシンをねらうマルウェアの その他
作成者が侵入を試みる際のターゲットになる」
と警告 8%
*資料:Network World米国版「テクノロジー・オピニオン・パネル」
している。
 こうした仮想化環境の運用に際しては、セキュリ
ティに関するベスト・プラクティスが必要不可欠となる。  さらに、回答者のおよそ3分の1が、仮想化プラッ
企業のIT/IS部門は、ベスト・プラクティスを参考に トフォーム・レイヤ自体に脆弱性が存在していると考
して、物理マシンだけでなく、仮想マシンにも十分な えている一方で、残りの約3分の2が、仮想化製品ベ
管理と保護対策を講じる必要がある。仮想化技術の ンダーはセキュリティ機能を必須機能として自社の製
普及が進む今こそ、ネットワーク上の仮想マシンへの 品に組み込もうという意識が欠けていると見ているこ
不正なトラフィックに目を光らせ、新手の攻撃を寄せ とが判明した
(図1)

付けない高度なセキュリティを備えた仮想化環境の  もっとも、現時点では、ベンダーにいろいろと注文
構築に努めなければならないのである。 をつけているユーザー企業の側も、みずからが行うべ
き、仮想サーバを保護するための最も基本的なセキュ

「仮想化のセキュリティ」 リティ・ポリシーさえ確立できていないというのが実情

に対するユーザーの意識 だ。その結果、企業は、十分に管理の行き届かない、
危険を内包した仮想サーバ群を多く抱え込んでし
 Network World米国版は2007年6月に、読者を まっている。
対象として仮想化環境に関する調査を実施している  
「こうした問題は、一般に、仮想マシンのスプロー
(有効回答者数707人)
。それによると、
「仮想化の導 ル
(無差別増殖)
として知られる」
と解説するのは、
『The
入によってセキュリティ・リスクが高まったと認識して Definitive Guide to Virtual Platform Manage
いる」
と答えた回答者が全体の36%にも上った。また、 ment』
の著者としても知られるコンサルタントのアニ
そう答えた回答者のうち半数強が、
仮想LAN内にファ ル・デサイ氏だ。同氏によると、
「ITの知識なしに仮
イアウォールとセグメント化された基幹ネットワークを 想化環境の構築が進んでしまうと、どのネットワーク
設置しており、残りの半数弱が侵入検知システム 上にどの仮想マシンが存在しているかを知ることさえ
(IDS:Intrusion Detection System)
上で仮想マシ 難しくなる」
という状況が生まれ、スプロールが引き起
ン向けトラフィック検知機能を有効にしていた。 こされるという。

January 2008 Computerworld 67


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

監視ツールを使って  なお、ノベルの製品ディレクター、リチャード・ホワ

仮想マシンの過剰な増殖を防ぐ イトヘッド氏によれば、仮想マシンを検知する機能は、
エンドユーザーのライセンス管理や製品サポートを行
 デサイ氏以外にも、顧客サイトにおける仮想マシン う際にも役に立つという。
の際限のない増殖を懸念するコンサルタントは少なく  
「ライセンスされていない仮想サーバは、ベンダー
ない。特に、フォーチュン500に入るような大企業、 からサポートを受けられない。つまり、パッチやアッ
有名企業では、そうした問題が報告されることが多い プデートが適用されず、セキュリティ・リスクにさらさ
ようだ。デサイ氏によれば、今、企業では次のような れてしまうことになるわけだ」
と同氏は説明する。
ことが起きているという。  ホワイトヘッド氏を含む専門家らは、仮想化製品に
 
「ソフトウェア開発者、イントラネット・ユーザー、そ 備わる、その他のセキュリティ/データ保護機能とし
してさまざま特権を持つデータセンターの管理者らが、 て、不必要な仮想マシンを強制的に停止させる機能
社内で仮想マシンをものすごい勢いで増やしている。 や、負荷バランス/ウイルス感染/ネットワーク攻撃
仮想マシンは特定の作業の処理に適しているうえ、 などに応じてセキュアなシステムにフェールオーバさ
導入が容易だからだ」 せる機能も、仮想化環境のセキュリティ強化に役立
 しかしながら、すべての企業がこのような状況を黙 つとしている。
認しているわけではない。例えば、
イントラのドベネデッ
ト氏は、こうした現象を
「理解できない」
と切り捨てる。 物理的な世界と同じように
優秀な企業であれば、ベスト・プラクティスに従って、 「分離作業」を怠らない
データセンターをしっかりと保護できるはずだというの
が同氏の主張だ。  仮想化環境のセキュリティでは、フェールオーバ機
 例えば、仮想サーバをIDSの監視対象とし、不正 能が1つのポイントになる。米国ベライゾン・コミュニ
侵入を検知すると警報を発するようにするといったベ ケーションズの子会社、ベライゾン・ビジネスでエグ
スト・プラクティスがあり、これを実践することにより、 ゼクティブ・コンサルタントを務めるトム・パーカー氏
仮想化の無秩序な拡大を阻止することも可能なはず によれば、なかでも、
「仮想マシンのフェールオーバを
だ、とドベネデット氏。 “いつ”
“どこで”
行うかが重要だ」
と指摘する。
 そういったことをみずから実践すべく、ドベネデッ  しかしながら、現在のところ、フェールオーバ・プ
ト氏は自社で、ヴイエムウェアの仮想化管理ツール ロセスの設定に関する企業IT幹部らの見解は、統一
「Virtual Center」
を用いて、不正に構築された仮想 されているというにはほど遠い状況にある。
マシンの自動検知を行っている。なお、ノベルの  例えば、現在、ある仮想マシンからのフェールオー
「ZenWorks」
や、マイクロソフトの
「System Center バ先を、別の仮想マシンあるいは別の仮想サブネット
Virtual Machine Manager」
といった主要な仮想化 にしている企業も、少なからず存在するはずだ。だが、
管理ツールは皆、Virtual Centerと同様の仮想マシ ベスト・プラクティスでは、フェールオーバ先は元の
ン自動検知機能が備わっている。 仮想マシンが構築されている物理サーバとは別の物
 ただし、こうしたツールを運用管理コンソールに統 理サーバにすることが推奨されている。物理サーバ自
合するのを嫌う管理者も少なくない。
そうしたユーザー 体にシステム障害が発生した場合、こちらの方法でな
に向けては、ここにきて、CA、ヒューレット・パッカー ければフェールオーバ機能を用いる意味がないからで

(HP)
、ネットワークジェネラルなどから、仮想マシ ある。また、仮想化環境においては、システムの分離
ンをさまざまな段階で認識可能な機能を備えた運用 やパーティショニングが、バックアップを考える際だ
管理ソフトが提供されるようになってきた。 けでなくDMZを構築する際にもカギとなる。

68 Computerworld January 2008


Part 4 自社での対策は十分か?「仮想化環境のセキュリティ」

 ところが、一般にIT部門は、そうした分離作業の のクラスタを仮想Webサーバのクラスタから仮想的に
必要性を見落としがちだ。パーカー氏は、そうした現 分離することになる。
状を、
「もし、データベース・サーバを仮想Webサーバ  仮想ファイアウォールと仮想スイッチを使えば、サ
群と同じ物理マシン上で仮想化したらどうなるだろう ブネットのあらゆる部分を分離できるため、ユーザー
か。少し考えればわかるように、そんなことをしたら、 は分離レベルを必要なだけ細かく設定することができ
Webサーバからデータベース・サーバへの侵入を許す る。ただし、その場合、仮想ネットワーク・デバイスと
リスクが極端に高まってしまう。だが、IT部門の不注 仮想ファイアウォールが、同じようにベスト・プラクティ
意のせいで、こうしたケースが実際にしばしばまかり スや自社のポリシーに沿って適切に管理されているこ
とおっている」
と嘆く。 とが前提になる。
 ベスト・プラクティスでは、こうしたタイプのシステ  ただし、パーカー氏自身は、上述したように、こう
ムは、DMZで分離することが推奨されている。DMZ したサーバ・ファームについては物理的に分離するこ
は、仮想的にも、物理的にも、あるいは仮想と物理 とを勧めている。つまり、Webサーバとデータベース・
の両方の要素を組み合わせた形でも構築することが サーバとを別々の物理サーバに構築するよう勧めてい
できる。 るのだ。そうすることにより、
「悪質な攻撃が
(仮想マ
 専門家らによれば、仮想DMZでは、仮想スイッチ シン)
サーバ・ファームの間に拡大するリスクを取り除
と仮想ファイアウォールを使って、
仮想データセンター くことができる」
(同氏)
からである。

Column

VMwareの脆弱性発見で、
仮想化環境のセキュリティへの関心が高まる ロバート・マクミラン
IDG News Service

 先ごろ、米国ヴイエムウェアの仮想化ソフトウェア
「VMware」
のコ セスできるようには構成されないからだ。
ンポーネントに一連の欠陥が発見されたことで、仮想化環境の運用  仮想化製品市場でのトップ・シェアを誇るVMwareは、セキュリティ
に伴うセキュリティ・リスクへの注目が一気に上昇した。 研究者にも広く普及している。PC上に仮想マシンをセットアップす
 今年9月、VMware製品とともに出荷されているDHCPサーバ・ソフト ることで、PCを危険にさらすことなく、悪意あるコードの疑いのある
ウェアに3つの深刻なセキュリティ・バグがあることが明らかになり、同 コードを検証できるからだ。しかし、残念ながら、こうした仮想化アー
社はただちにVMware製品をアップデートしてこれらのバグを修正した。 キテクチャを採用しているがゆえに、VMwareは攻撃者の格好の標
 問題のDHCPソフトウェアは、VMware上で動作する各仮想マシ 的にもなる。
ンにIPアドレスを割り当てるために使われている。IBMの研究員が、  
「重大な問題だと思う。VMwareベースの仮想化環境においては、
このソフトウェアの脆弱性を悪用することで、コンピュータを乗っ取 サーバ上で
(テストなどに使用する)
脆弱な仮想マシンが動作し、これ
ることが可能であることを発見した。 と隔離された別の仮想マシンに機密情報が保存されているといった状
 米国IBMのインターネット・セキュリティ・システムズ部門研究員、 況もよくあるからだ」
と、米国のセキュリティ・ベンダーのイミュニティ
トム・クロス氏は、
「これらの脆弱性が悪用されると、VMwareベース のCTO、デーブ・アイテル氏はメールでコメントを寄せてくれた。
の仮想化環境で動作する任意のマシンが完全に乗っ取られるおそれ  
「同社のESX Serverは、ホスティング環境用に急速に普及しつつ
がある」
と説明する。クロス氏によると、IBMの研究員は、現在は修 ある。今回のようなセキュリティのバグは、仮想マシンへのリモート・
正されているDHCPソフトウェアの3つの脆弱性を悪用する実証コー アクセスを許してしまう脆弱性を攻撃者が発見できた場合、深刻な被
ドを開発したという。だが、システムを攻撃するには、攻撃者はまず、 害につながる危険がある」
(同氏)
仮想マシン上で動作するソフトウェアにアクセスする必要がある。通  また、IBMは、DHCPの脆弱性は、LinuxまたはWindows上で動
常、VMwareのDHCPサーバは、ほかのマシン上のシステムからアク 作する
「VMware ACE」
ファミリーの製品に影響を与えるとしている。

January 2008 Computerworld 69


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

最下位レイヤを封鎖して プロセスをチップ・レベルで行う必要性があると説く。

マルウェアなどの攻撃を防ぐ  そういう意味で注目されるのが、セキュリティ標準化
  団体トラステッド・コンピューティング・グループ
(TCG)
 コンサルタントのデサイ氏によれば、ホストOSや が提唱しているTPM
(Trusted Platform Module)

ハードウェアに対する権限と特権を持ったVMware 含まれる
「Root of Trust」
コンポーネントである。
プラットフォームは、現在、マルウェア作成者の格好  TPMは、チップに書き込まれたシステムの認証コ
のターゲットになっているという。
同氏はこう警告する。 ンフィギュレーションのハッシュ値を収めた鍵を格納
 
「技術的に言えば、仮想化レイヤは、ハードウェアま するものだ。そしてコンピュータが起動すると、Root
たはハードウェア抽象化レイヤに直接アクセスして機 of Trustがこの鍵とチップのハッシュ値を照らし合わ
能する。つまり、物理マシンへの高レベルのアクセス せて、両者が一致しない場合には、一切の稼働を停
を許可して稼働しているというわけだ。ということは、 止することによって不正侵入を阻止する。
このアクセス・レベルで稼働するあらゆるアプリケーショ  インテルとAMDは、仮想マシン向けに、仮想マシン・
ンが攻撃のターゲットになりうるということを意味する」 モニタ/ハイパーバイザのハッシュ値を確認する
 言いかえれば、仮想マシンを狙ったマルウェアが仮 TPM/Root of Trustをサポートしている。もし、ハッ
想マシン間を飛び回り、ホストOSや仮想マシン監視 シュ値が変更されているときにコンピュータが再起動
レイヤといったコアの部分に到達するのも、もはや時 を試みた場合、Root of Trustは元のハッシュ値に
間の問題なのである。パーカー氏やマルウェアの研究 戻るか、あるいは起動を許可しない。
者らも、実際にこうした攻撃シナリオが開発段階にあ  インテルのスミス氏は、
「Root of Trustは、仮想マ
ることを確認しているという。 シン・プラットフォームの信頼性を保証し、その信頼
 
「攻撃者は、サンドボックスと仮想マシンのカーネ 性によって仮想マシン・プラットフォームの安全性を
ルから攻撃する手法を検討している」
と、その攻撃シ も保証することができる。なぜなら、プラットフォーム
ナリオの一部を紹介するのは、ファイアウォールや の
(最終的には仮想マシン自体の)
どんな変更も許可
HDDを手がける米国ドライブセントリーのCTO
(最高 されることがないからだ」
との表現で、この方式の優
技術責任者)
、ジョン・サファ氏だ。 位性を強調する。
 一方、米国ヴイエムウェアのプロダクト・マネジメン  一方、ノベルの製品マネジャー、ラリー・ラッソン
ト担当シニア・ディレクター、パトリック・リン氏は、同 氏によれば、最近は仮想TPMの開発も進められてお
社がいかにセキュリティ対策に力を入れているかを、 り、これが実用化されれば、信頼性の認証プロセス
自社製品に施しているテストや認証項目を列挙するこ は仮想ゲストにも広がることになるという。
とで強調してみせる。しかし、この分野でのベンダー  ラッソン氏は、インテルが採用する方式については
の姿勢に不信感を抱いているユーザーとしては、それ それほど評価しておらず、
「TCGのTPM/Root of
だけでベンダーを全面的に信頼する気にはなれないか Trustモデルの場合、トラスト認証プロセスで、すべ
もしれない。 ての仮想デバイスにおける変更をチップ・レベルで逐
一複製し、再ハッシュしなければならないため、コン

チップ・レベルでの認証を フィギュレーションの変更やパッチの適用が難しい」

仮想化環境に適用する試み と、同方式の欠点を指摘する。
 しかしながら、ラッソン氏の言うような変更管理を
 米国インテルでサーバ・セキュリティ・ストラテジスト 行うためには、チップにまったく新しいレイヤを生成
を務めるポール・スミス氏は、上記のようなユーザーの する必要があるとも見られる。いずれにしろ、早期の
不安を解消するためには、仮想化環境における認証 実用化が期待される。

70 Computerworld January 2008


Part 5 [仮想化テクノロジー]
Product Review

5
Part

[仮想化テクノロジー]
Product Review

サーバ仮想化

VMware ESX Server 3i ヴイエムウェア

サービス・コンソールを不要にした  すでにデル、ヒューレット・パッカード
(HP)
、IBM、
超軽量のサーバ仮想化ソフト 富士通、NECなど複数のサーバ・ベンダーが仮想化
 
「VMware ESX Server 3i」
は、ヴイエムウェアが 機能組み込み型のサーバを発売する意向を表明して
提供するハイパーバイザ型のサーバ仮想化ソフトウェ いる。

「ESX Server」
シリーズの最新版である。従来製
品である
「ESX Server 3」
では、容量が2GBに及ぶ 全体的な機能はESX Server 3と同じ
制御用インタフェースの
「サービス・コンソール」
が必  機能的な面では、ESX Server 3iは従来製品であ
要であったが、ESX Server 3iではそれを不要にし、 るESX Server 3と何ら変わらない。
仮想化機能をつかさどる専用カーネル
「VMkernel」
の  ESX Server 3の特徴的な機能である、1つの仮
みで仮想化環境を構築できるようにしている。それに 想マシンに複数の物理プロセッサ
(最大4CPU)
を割り
より、ESX Server 3と比べて容量を98%削減し、 当てる
「Virtual SMP」
や、ESX Server上で動作し
32MBへと軽量化を図っている。 ている仮想マシンを稼働させたまま別のESX Server
 サービス・コンソールは、
「Red Hat Enterprise に移動させる
「VMotion」
、各ESX Serverが稼働す
Linux 3」
をベースにしたLinuxディストリビューショ る物理サーバの状態を監視し、物理サーバに障害が
ンであり、これまでのESX Serverでは同ディストリ 発生したときには仮想マシンを他のESX Server上
ビューションへのセキュリティ・パッチの適用などを行 で再起動する
「VMware HA」
など、ESX Server 3
う必要があった。そのため、運用管理に手間とコスト でサポートしている各種機能を利用できる。また、各
がかかっていたが、ESX Server 3iではこうした運用 仮想マシンには最大16GBまでメモリを割り当てるこ
面での負担が軽減される。 とが可能だ。
 また、
32MBへと仮想化機能が軽量化されたことで、  なお、ヴイエムウェアは2007年内に最新のハイパー
USBメモリやSDカードなどの記録メディアへ格納が バイザ型仮想化ソフト
「ESX Server 3.5」
を含む新た
でき、そこから直接、ESX Server 3iを起動するこ な仮想化ソフトウェア・スイートを発売する予定である。
とも可能である。
 ESX Server 3iは、サーバへの組み込みを意図し 従来型ESX Serverではサービス・コンソールが全体の98%を占める

た仮想化ソフトでもある。サーバ・ベンダーは、ESX 98% 2%
Server 3iをあらかじめサーバに組み込むことで、仮
想化機能を盛り込んだサーバを提供できるようにな
る。これは、サービス・コンソールに依存しないで仮 ESX Server 3i
仮想マシン・ 仮想マシン・
想化環境を構築できるようになったことが大きく影響 ヘルパー
モニタ モニタ
している。 サービス・コンソール VMkernel
(Red Hat Enterprise
ストレージ ネットワーキング
Spec Sheet Linux 3ベース)
製品名 VMware ESX Server 3i リソース管理
開発元 ヴイエムウェア
HAL、
デバイス・ドライバ
稼働環境 要問い合わせ
価格 要問い合わせ
URL http://www.vmware.com/jp/products/vi/esx/ 2GB 32MB

January 2008 Computerworld 71


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

サーバ仮想化

Citrix XenServer シトリックス・システムズ・ジャパン

ゼンソースのサーバ仮想化ソフトの された組み込み型の
「XenServer OEM Edition」

特徴と機能をそのまま継承 バンドル販売するという。
 シトリックス・システムズ・ジャパンの
「Citrix Xen
Server」
は、データセンター内のサーバ・リソースを柔 Xenハイパーバイザが64ビット対応し
軟的に運用管理するためのサーバ仮想化ソフトウェア 高いパフォーマンスを発揮
である。シトリックスが2007年10月に買収を完了した  前述したように、XenServerは、ゼンソース製品
米国ゼンソースの製品/技術をベースとした仮想化 をそのままCitrixブランドに移行した製品であり、ベ
製品の第1弾となる。 アメタル・アーキテクチャ、
“10分で導入完了”
をうたう
 XenServerは、Xenハイパーバイザを核としたゼ インストーラ、Windows環境の高速処理を実現する
ンソースの企業向けサーバ仮想化ソフト製品を、同社 I/Oドライバなど、旧ゼンソース製品の特徴をそのま
の買収に伴い、特徴と機能はそのままにCitrixブラ ま引き継いでいる。
ンドに移行した製品である。  Enterprise Editionのバーションはv4で、
このバー
 同製品のエディション構成は、無料でダウンロード ジョンからXenハイパーバイザが64ビット対応となっ
できるシングル・サーバ用のExpress Edition
(旧ゼン ている。また、ある物理サーバ上のXenServerにお
ソースの
「XenExpress」
)、マルチサーバに対応した いて稼働中のゲストOSを他の物理サーバ上に移動す
Standard Edition
(旧「XenServer」
)、Enterprise ることを可能にする
「XenMotion」
機能や、直感的な
Edition
(旧「XenEnterprise」
)の3エディションが用 GUI操作で仮想マシンの作成や管理を行える管理
意される。 ツール
「XenCenter」
などが備わっている。
 なお、シトリックスは、XenServerの発表と同時に、
同製品の販売に関して米国ヒューレット・パッカード Citrix XenServerのGUI管理ツール
「XenCenter」
の管理画面

(HP)
およびデルとの提携を発表している。それによ
ると、
HPは
「HP ProLiant」
および
「BladeSystem」
サー
バのユーザーにEnterprise Editionの販売を行い、
デルは、
「PowerEdge」
サーバにおいて、専用に開発

Citrix XenServerのエディション構成と機能
Express Edition Standard Edition Enterprise Edition
対応サーバ数 シングル マルチ マルチ
対応物理メモリ 1GB∼4GB 1GB∼128GB 1GB∼128GB
CPUソケット数 2 2 無制限
疑似アクティブ・ゲスト数 4 4 無制限
仮想マシン当たりのメモリ 4GB 32GB 32GB
Spec Sheet
リソース・プール ─ ─ ○ 製品名 Citrix XenServer
共有ストレージ ─ ─ ○ 開発元 シトリックス・システムズ・ジャパン
XenMotion ─ ─ ○ 稼働環境 Windows、Linux
リソースQoS ─ ─ ○ 価格 要問い合わせ
VLAN設定 ─ ─ ○ URL http://www.citrix.co.jp/

72 Computerworld January 2008


Part 5 [仮想化テクノロジー]
Product Review

仮想化プラットフォーム

IBM Virtualization 日本IBM

ITインフラ全体の仮想化を支援する 想リソースを問わず一元管理できるシステム管理製品
統合プラットフォーム 群のことである。
 IBMの
「IBM Virtualization」
は、同社が提供する  サーバ、ストレージ、ネットワークなどのレイヤごと
ITインフラ全体の仮想化を支援する統合プラット に仮想化を実施していくと、リソースの最適化が図れ
フォームである。同プラットフォームは、サーバ/スト る一方で、システム管理が複雑になる面も否めない。
レージ/ネットワークなどを仮想化する各種ソフト こうした問題を解決するのがSystems Director製品
ウェアのほか、IBMのハードウェア製品を含む広範な 群であり、特に仮想化環境の統合管理において中心
ポートフォリオで構成されている。 的な役割を果たすのが
「IBM Virtualization Mana
 サーバ仮想化においては、メインフレームで培った ger」
である。
技術を同社のサーバ製品
「System i」
や「System p」
に  Virtualization Managerは、ヴイエムウェアやマ
適用している。これらのサーバ製品には、サーバ仮想 イクロソフト、ゼンソースといった主要ベンダーの仮
化機能として、パーティショニングを動的に制御する 想化ソフトウェアに対応している。そのため、同ソフ
LPARや、1つのプロセッサを最大で10分割し、仮 トを用いることでさまざまな仮想化ソフトが混在した
想マシンに最適なリソースを配分するマイクロ・パー 環境を容易に管理できるようになる。ヴイエムウェア
ティショニングなどが実装されている。 製品においては、複数の仮想マシンを一元管理する
 ストレージ仮想化においては、複数ベンダーのスト 「VMware Virtual Center」
をVirtualization Mana
レージを統合する
「IBM System Storage SAN ボ gerに統合することも可能である。
リューム・コントローラー」
の提供、ネットワークの仮  Virtualization Managerを導入することで、これ
想化についてはシスコシステムズと協業するなど、仮 までサーバの運用管理に必要だった管理ツールの多
想化をプラットフォームとして提供するための基盤強 くが不要になり、その数を大幅に削減できるという。
化を推進している。 また、Virtualization Managerのダッシュボード機
 数ある仮想化関連ソフトウェアの中でも特徴的な製 能は、Webベースのインタフェースで提供される。
品は、仮想化環境にあるさまざまなハードウェア/ソ
物理/仮想リソースの一元管理を実現する
「IBM Virtualization Manager」
フトウェアの統合を実現する管理ツール製品群
「IBM
Systems Director」
である。

「IBM Virtualization Manager」



物理/仮想リソースを一元管理
 Systems Directorは、IBM製品はもちろんのこと
他社製品のハードウェア/ソフトウェアを、物理/仮

Spec Sheet
製品名 IBM Virtualization
開発元 日本IBM
稼働環境 要問い合わせ
価格 要問い合わせ
URL http://www-06.ibm.com/jp/solutions/virtualization/

January 2008 Computerworld 73


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

ストレージ仮想化

Data ONTAP 日本ネットワーク・アプライアンス

多様な利用規模/形態に対応する 同社では、
「FlexVol」
と呼んでいる。
ストレージ専用OS  FlexVolでは、複数のハードウェアにまたがるスト
 日本ネットワーク・アプライアンスの
「Data ONTAP」 レージ・リソースを単一のストレージ・プールに集約、
は、同社のストレージ・ハードウェア製品群
「FAS」
シ そのうえで、必要に応じた容量の論理ボリュームを複
リーズに搭載されるOSである。現行バージョンの
「7G」 数作成することができる。ストレージを利用するアプ
は、2004年より提供されている。 リケーションがアクセスするのは論理ボリュームとなる
 FASシリーズには、最大4TBのエントリー・モデル ため、運用開始後でもハードウェアの追加や変更なし
「FAS250」
から、最大504TBのエンタープライズ・モ に容量を増やすことができる。
デル
「FAS6070」
まで、さまざまな利用規模に応じた多  加えて、実際にデータが書き込まれたときに初めて、
くの製品がラインアップされており、また、FC-SAN、 物理ストレージ容量が消費されることになる。これら
IP-SAN、NASといった利用形態に対応している。 により、ストレージの柔軟な運用を可能にし、物理容
同シリーズの特徴は、利用規模/形態が異なってい 量の利用効率を向上させることができる。
ても運用管理は同一の手法で行える点にあり、そのた
めに統一的なアーキテクチャを提供し、技術的な基 容量を抑えてクローンを作成できる
盤となっているのがData ONTAPである。 仮想クローニング機能
「FlexClone」
 ほかには、ディスク容量の消費を抑えながら、論理
シン・プロビジョニング技術の ボリュームのクローンを作成できる仮想クローニング
「FlexVol」
を2004年から実装 機能の
「FlexClone」
も、Data ONTAPに備わる特徴
 ストレージ仮想化という観点からData ONTAPを 的な技術である。
見た際に、特に重要な特徴として挙げられるのは、  FlexCloneにおけるクローンが単なるコピーと異な
物理的なストレージ容量にとらわれずに論理ボリュー るのは、コピーが元のボリュームと同一のストレージ
ムを作成できるシン・プロビジョニング機能に7Gのリ 容量を消費するのに対し、クローンはいくつ作成して
リース時点から対応しているという点だ。この機能を もほとんど容量を消費しないという点だ。それは、ク
ローンを構成するデータには元データと同一のものが
物理容量にとらわれない論理ボリュームを作成できるシン・プロビジョニング機能
「FlexVol」 使用され、クローンが存在していることはメタデータ
1TB
500GB 300GB で示されるだけだからだ。
論理ボリューム
(総容量2TB) 100GB 100GB  また、クローンに対して変更が加えられたときには、
その部分だけが別途記憶されることになる。そのため、
クローンであっても通常のボリュームと同様に扱うこ
とが可能になっている。
ストレージ・プール
Spec Sheet
製品名  Data ONTAP
開発元  日本ネットワーク・アプライアンス

ストレージ・ハードウェア 稼働環境 FASシリーズ
(総容量1TB) 価格   要問い合わせ
400GB 300GB 300GB URL    http://www-jp.netapp.com/products/software/ontap.html

74 Computerworld January 2008


Part 5 [仮想化テクノロジー]
Product Review

ストレージ仮想化

Hitachi Universal Storage Platform V/VM 日立製作所

仮想化機能を重視した 化コントローラと接続することで、パフォーマンスの
エンタープライズ・ストレージ 向上という効果が期待できる。
 日 立 製 作 所 の
「Hitachi Universal Storage  なお、SANRISE時代には、仮想化コントローラ部
Platform V
(USP V)
」および
「同VM
(USP VM)
」は、 分だけを抜き出し、ストレージ部分を搭載しないモデ
ストレージ仮想化に重点を置いたストレージ・ハード ルもラインアップされていた。このモデルは新ブランド
ウェアである。最大物理容量が850TBのUSP Vは の下に現在も販売されているが、USP V/VMの仮
エンタープライズ・モデル、177TBのUSP VMはエ 想化コントローラと同等のものは、今のところライン
ントリー・モデルと位置づけられている。 アップになく、今後の製品化が待たれる。
 同社は以前、
「SANRISE」
(海外では
「TAGMA
STORE」
)というブランド名でストレージ製品を展開し ストレージ利用の効率化を図る
ていたが、2007年5月の
「USP V」
の発表と同時に、 ボリューム容量の仮想化機能
「Hitachi Storage Solutions」
という新ブランドに移  USP V/VMが備える仮想化関連機能の中でも特
行した。この名称変更は、同社が、ハードウェアだけ に注目すべきは、同社が
「ボリューム容量の仮想化機
ではなく、ソフトウェアやサービスも含めたトータル・ 能」
と呼ぶシン・プロビジョニング機能である。これは、
ストレージ・ソリューションを提供していくという姿勢 物理ストレージの容量という制約にとらわれずに仮想
を明示することをねらったものだ。 ボリュームの容量を設定可能とするものだ。この機能
を使えば、物理ストレージよりも大きな容量の仮想ボ
ストレージ本体に仮想化機能を リュームを作成することができる。
搭載するアプローチを採用  ボリューム容量の仮想化機能によって、ストレージ
 ストレージ仮想化を実現するアプローチには、SAN にアクセスするアプリケーションを開発する際などに、
(Storage Area Network)
内に仮想アプライアンスを 複雑なボリューム容量設計が不要となり、ストレージ
配置する手法や、SANスイッチに搭載した仮想化コ のキャパシティを見積もる作業が簡素化される。また、
ントローラを利用する手法がある。 外部ストレージにも適用できるため、ストレージ環境
 これらに対してUSP V/VMでは、ストレージ・ハー 全体で容量を効率的に利用できるようになる。
ドウェア自体に仮想化コントローラが備わっている点
が大きな特徴だ。この仮想化コントローラは、USP ボリューム容量の仮想化機能を備えたエンタープライズ・ストレージ
「Hitachi Universal Storage Platform V」
V/VMに接続された外部ストレージも仮想化環境に
含めることができる。特に、性能が低い旧モデルのス
トレージを利用するケースでは、USP V/VMの仮想

Spec Sheet
製品名 Hitachi Universal Storage Platform V/VM
開発元 日立製作所
稼働環境 ──
価格 USP V:1億1,052万3,000円〜
USP VM:4,887万円9,600円〜
URL http://www.hitachi.co.jp/products/it/storage-solutions/

January 2008 Computerworld 75


特集 仮想化テクノロジー・アップデート

アプリケーション仮想化

Microsoft SoftGrid Application Virtualization マイクロソフト

ストリーミングで仮想アプリを配信し 同社のSoftGrid Data Storeに設定されているポリ


PC管理コストを大幅に削減 シーに基づいて自動的に配布され、セッション終了時
 マイクロソフトの
「Microsoft SoftGrid Appli には削除される。また、アプリケーションのインストー
cation Virtualization」
(以下、SoftGrid)
は、アプリ ル・ルーチンが行うシステムの変更は、シーケンサー・
ケーションをネットワーク上で配信可能な仮想化され ユーティリティによってカプセル化されて、アプリケー
たサービスに変換することで、動的なソフトウェアの ション・イメージと一緒にクライアント上のSystem
配信を可能にするソフトウェアである。もともと、米 Guardに配信される。
国ソフトリシティが提供していた製品であったが、  この環境では、アプリケーションをインストールす
2006年にマイクロソフトが買収したことで、現在は同 る必要もなければ、競合という問題が発生することも
社のデスクトップ管理ソフトウェア製品群
「Microsoft なく、アプリケーションの互換性テストに伴う費用が
Desktop Optimization Pack for Software 最小限に抑えられる。また、従来のようにユーザーや、
Assurance」
に含まれる1製品として提供されている。 ユーザーが使用するアプリケーションの環境が特定の
 SoftGridの特徴は、ストリーミング配信で仮想ア PCに束縛されることもなくなる。その結果、IT部門
プリケーションを提供する点にある。同製品では、ア のビジネス・ニーズに対する柔軟性と即応性が向上し、
プリケーションのイメージをサーバに格納しておき、そ 最終的にはアプリケーションやOSの移行といったPC
れを仮想化して
「SystemGuard」
と呼ばれる仮想ラン 管理コストの大幅な削減がもたらされるとしている。
タイム環境を搭載したクライアントに配信し、そこで実
行させるという仕組みがとられている。アプリケーショ ビジネスの継続性を確立し
ン・イメージは、マイクロソフトのActive Directoryや デスクトップを保護する環境を提供
 SoftGridでは、仮想アプリケーションを他の企業
SoftGridによるアプリケーション・ストリーミング データと同様に複製することで、瞬時にフェールオー
SoftGridサーバ バを実施することができる。また、SoftGridユーザー
管理
SoftGrid Sequencer
コンソール のプロファイルをネットワーク上に保管するように設
定することで、ユーザー固有のアプリケーション設定
SoftGrid対応 通常の をバックアップ・サイトに簡単にコピーすることも可能
アプリケーション Windows
アプリケーション となっている。
 ほかにも、読み取り専用モードなど、アプリケーショ
通 常 のWindowsアプリケーションを ンのアクセス許可を一元管理し、不正な使用や変更
「SoftGrid Sequencer」
がSoftGrid対
応にパッケージング。 それをSoftGrid
を防ぐ機能も備わっている。
サーバが各クライアントに対してスト
リーミングで配信する Spec Sheet
製品名 Microsoft SoftGrid Application Virtualization
開発元 マイクロソフト
稼働環境 Windows 2000 Server/Advanced Server、
Windows Server 2003 SP1/R2
価格 要問い合わせ
SoftGridクライアント URL http://www.microsoft.com/japan/systemcenter/softgrid/

76 Computerworld January 2008


特別企画 ラボ発! ハードウェア・テクノロジー最新情報

ナノテク研究の前線から
CPU/HDD/メモリの
明日を読む
ナノテクという言葉が使われるようになって久しいが、その進歩は今なお、とどまることを知らない。本企画では、ナ
ノテクが生み出そうとしている近未来のCPU、ハードディスク、メモリの姿を紹介する。パート1では、45nmプロセ
ス技術や3Dトランジスタといった、CPUの高性能化を実現するための最新の技術動向に迫る。パート2では、大容
量化が著しいハードディスクを、さらに容量アップさせるパターンド・メディア技術を中心に紹介しよう。最近では、ハー
ドディスクの代わりにフラッシュメモリを搭載するPCが注目を集めているが、大容量となるとハードディスクの役割は、
今後さらに重要になると考えられる。パート3では、次世代DVDのさらに先を行く新方式の光メモリとして編集部が
注目するホログラム・メモリを紹介する。近い将来、これらの次世代ハードウェア・テクノロジーが企業コンピューティ
ングの根幹を支えることになるかもしれない。
後藤弘茂/土屋 勝/井上光輝

January 2008 Computerworld 77


     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む

Part

1 45nmプロセス技術、3Dトランジスタ、EUV技術……

スパコン並みの性能を
PCにもたらすCPU
CPUに代表される半導体製品は、プロセス技術と呼ばれるナノテクの革新とともに進歩を続けている。その指標となっているの
が有名な
「ムーアの法則」
だ。この法則が今後も続いていくとすると、やがてはスパコン並みの性能を持つPCが実現する可能性
があるという。本パートでは、高性能化に向けて微細化を続けるCPUの歩み、そしてさらなる微細化・高速化を実現に導くとさ
れる
「3Dトランジスタ」
技術や
「EUV技術」
などの次世代ナノテクを紹介しよう。

後藤弘茂

「ムーアの法則」に従う いく。コンピュータ業界の指数関数的な発展は、ムー

コンピュータ産業の発展 アの法則を源泉としているのだ。
 ムーアの法則で伸びるのはトランジスタの数だけで
 コンピュータ産業は、
「ムーアの法則」に従って躍進 はない。以前は、ムーアの法則に伴う
「CMOSスケー
を続けている。ムーアの法則は、半導体チップ上のト リング」
(注1)
に沿って、半導体以外の要素も指数関
ランジスタの集積度が18〜24カ月で倍増するというも 数的に変化してきた。半導体チップの集積度が2倍に
のだ。インテルの共同設立者であるゴードン・ムーア 上がることは、チップ上のトランジスタの幅と長さがそ
氏が提唱し始めた半導体製造の経験則であり、ここ れぞれ0.7倍に縮小することを意味する。トランジスタ
10年ほどは、約2年で2倍のペースで集積度が上がっ が小型化すれば、トランジスタのスイッチ速度が速く
ている。 なり、チップが高速になる。また、トランジスタの小
 2倍ごとの半導体技術の節目をプロセス
(集積回路 型化は、トランジスタを駆動する電圧の低減を可能に
の線幅のこと)世代と呼び、現在はナノメートル(nm) する。
単位を使っている。例えば、インテルのCPUの場合  従来は、半導体のプロセスが1世代進んで、搭載
は2004年に90nmプロセス、2006年に65nmプロセス、 できるトランジスタ数が2倍になると、動作周波数は
2007年末には45nmプロセスに達しており
(写真1)
、 1.4倍になり、電圧は0.7倍になった。チップの消費
ほぼ2年ペースで、プロセス世代を移行させている。 電力は「トランジスタの電気容量(電気のたまりやす
 ムーアの法則では、半導体チップの集積度は、指 さ)
×電圧の2乗×動作周波数」に比例する。そのため、
数関数的に伸びてゆく。 トランジスタ数が2倍になり、周波数が1.4倍になるこ
 例えば、メモリ・チップでは、2年ごとに32MB、 とで消費電力が上がっても、トランジスタが小型で低
64MB、128MBと容量が倍増する。CPUでは、プロ 電圧になることで相殺されていた。
セッサ・コアの数が1コア、2コア、4コアと、2年ごと  つまり、チップの消費電力を増やすことなく、2倍
に倍増する。そのため、コンピュータの性能とコン の規模のチップを1.4倍の速度で動かすことが可能
ピュータに搭載できるメモリ量が指数関数的に増えて だったわけだ。

78 Computerworld January 2008


Part1 │ スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU

鈍化するムーアの法則と
写真1:45nmプロセス技術を採用した「Penryn
(開発コード名) 」ウェ
ハを掲げるインテルCEOのポール・オッテリーニ氏 (2007年9月)
「モア・ムーア」
の流れ
 ところが、2000年代に入り130nmプロセス以降、
こうしたCMOSスケーリングがうまく働かなくなってき
た。まず、トランジスタを駆動する電圧は、従来は1
世代ごとに0.7倍にスケールダウンしていたのが、現
在では0.9倍以下に下がってしまった。そのため、半
導体チップの動作時の消費電力がぐんぐん上昇を始
めたのだ。また、トランジスタ自体の高速化もペース
が落ち、動作周波数を上げにくくなった。
 さらにリーク
(漏れ)電流が増大し始めた。トランジ
スタがより微細化されたことで無駄な電流が流れるよ
うになり、チップの動作時の消費電力がさらに上昇、
待機時でさえ多くの電力を消費するようになった。
 現在、半導体技術は、こうした問題に直面しており、
岐路にさしかかっている。しかし、半導体技術上の
根本的な改革が次々と進みつつあり、特に45nmプロ  さらにその先の展開として、半導体技術をマイクロ
セス以降は、1世代ごとに技術的な飛躍が起きると言 センサーやバイオチップ技術と融合させることで多様
われている。 化させる
「モアザン・ムーア
(more than moore)
」や、
 そのため、半導体の最先端プロセスの開発は、非 現 在 のCMOS以 外 の 技 術を模 索 する
「ビヨンド
常にハードルが高いものになりつつある。1世代ごとに、 CMOS
(Beyond CMOS)
」と呼ばれる技術の流れも
これまでよりも開発費用と時間がかかると予想される。 広がっている。延命してもムーアの法則が2020年ご
(注2)
実際、半導体業界のロードマップ「ITRS」 の最 ろには限界に当たると見られているからだ。
新版「ITRS 2006 Update」では、メモリもCPUも、
今後は1世代の移行に3年かかると予想している。ムー
High-k材料の導入で
アの法則が鈍化しつつあるのだ。 45nmプロセスが飛躍する
 その一方で、鈍化するムーアの法則を延命させよ
うとする技 術の流れがあり、
「モア・ムーア
(more  半導体チップの製造は大きく2つの工程に分けられ
moore)
」と通称されている。その技術革新分野は多 る。シリコン上にトランジスタを形成する前工程と、
岐に渡り、トランジスタや配線への新しい材料の導入、 その上に配線を形成する後工程だ。前工程では、ト
トランジスタの構造や配線の生成方式の革新、回路 ランジスタの小型化が進むにつれて漏れ電流が大きく
パターンなどを焼き付ける露光技術の改革などが進 なるという問題があるが、それを解決する新しい技術
められている。 が投入されつつある。
 また、ムーアの法則が鈍化した場合でも、半導体  トランジスタは、ソース電極とドレイン電極の間にシ
製品の容量増大や性能アップを継続するために、半 リコン基板が挟み込まれる構造となっている
(図1)

導体チップを複数重ね合わせる3D化の技術も、中間
注1:Complementary Metal Oxide Semiconductor
解として浮上している。 注2:International Technology Roadmap for Semiconductors

January 20 08 Computerworld 79
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む

図1:一般的なシリコン・トランジスタ 電流が流れ始める。これがオン状態で、オンとオフの
スイッチが高速であればあるほど、チップの動作を速
くできる。
 電流は、トランジスタの動作に必要な分しか流れな
シリコン・ゲート
SiO2ゲート いのが理想だ。ところが、現在のトランジスタは、動
絶縁膜
作とは関係なく電流が漏れ出している。まるで、水道
の蛇口がしっかり締まらなくなり、水が常にポタポタ
とこぼれ落ちているような状態だ。高速のCPUでは、
ソース ドレイン 消費電力の3分の1が漏れ電流になってしまっている
のである。
 トランジスタから電流が漏れ始めた原因は、トラン
シリコン基板
ジスタが原子レベルにまで小さくなったことにある。
例えば、現在のトランジスタは、ゲートとチャネルの
間を絶縁する
「ゲート絶縁膜」が5〜6原子分程度の
厚みしかない。そのため、絶縁膜を介して電流が流
*資料:インテル
れるようになってしまった。また、絶縁膜の原子1個
分のばらつき
(厚みの増減)で、より多くの電流が漏
図2:
「High-k」ゲート絶縁膜を導入したトランジスタ れるようになった。トランジスタを小さくする限界に近
づきつつあるのだ。
 この問題を解決するため、45nmプロセスでは、イ
ンテルやIBMが「High-kゲート絶縁膜」
を導入した
(図
メタル・ゲート
High-k 2)

ゲート絶縁膜
 High-kとは誘電率が高い
(電気がたまりやすい)材
料という意味で、膜を厚くしても電流を流しやすい。
つまり、漏れ電流を抑えながら、トランジスタを速く
ソース ドレイン 動かすことができる。これは、消費電力をある程度抑
えながらチップを高速化できることを意味する。

シリコン基板
トランジスタの構造は
2Dから3Dへと向かう
 High-kはトランジスタの材料を変えることで、漏れ
*資料:インテル
電流を抑える技術だが、現在のトランジスタが抱える
問題を、もっと根本的に解決しようという動きもある。
ソースとドレインの間は、トランジスタがオフ状態では 「3Dトランジスタ」と呼ばれる、これまでとはまったく
電流は流れない。しかし、ソースとドレインの間の上 構造の異なるトランジスタだ
(図3)

に配置されたゲートに電圧をかけると、ソースとドレイ  半導体の歴史が始まって以来、これまで、トランジ
ンの間に電子の通り道である
「チャネル」が形成され、 スタは基板上に平面的に作られていた。今もトランジ

80 Computerworld January 2008


Part1 │ スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU

図3:3Dトランジスタの構造

ダブル・ゲート トライ・ゲート

ドレイン
絶縁膜 ゲート3 ドレイン

ゲート1

ゲート1
ゲート2
ソース

ソース ゲート2

*資料:インテル

スタは、2D構造をしており
「プレーナ型」
と呼ばれる。 ルを挟み込むため、ゲートの面積が大きくなる。その
プレーナ型は平面に積み上げて作るため、構造が単 ため、チャネルの駆動電流を上げやすくなり、トラン
純で製造しやすい。 ジスタがより高速になる。その一方で、短チャネル効
 だが、微細化の結果、薄くしなければならない絶 果を抑えることも可能になり、消費電力も抑えられる。
縁膜などが限界に来て、漏れ電流という問題を抱え また、トランジスタを立てたことで、平面上の面積を
込んでしまった。 小さくすることも容易なので、チップの集積度を上げ
 今後、さらにトランジスタが小さくなると、ソースと やすい。
ドレインの両電極の距離が短くなり、ゲートがオフの  つまり、3Dトランジスタは「より高速、より低電力、
状態でも漏れ電流が流れてしまう
「短チャネル効果」 より高集積」
という理想的なデバイスなのだ。
が大きくなる。短チャネル効果を抑えようとすると、  ただし、問題もある。それは、ゲートを立体的に構
トランジスタを高速化しにくくなってしまう。High-k 築するため、生成が非常に難しいことだ。
でゲートの漏れ電流を抑えても、すべての問題を解  2000年ごろから各社が試作を行っているが、難度
決することができない状況にある。 が高いため、まだ量産には至っていない。また、一口
 そのため、16〜22nm以降のプロセスからは、プレー に3Dトランジスタと言ってもさまざまな方式があり、
ナ型では対応できなくなると言われてきた。 「FinFET」あるいは「ダブル/トライ・ゲート・トランジ
 従来の2Dトランジスタに対して、3Dトランジスタは、 スタ」などと呼ばれるものが考えられている
(図3)

名前のとおり立体構造となる。チャネルを基板上に  そのほかにも、トランジスタのチャネルの下を完全
立て、その回りをゲートで挟むか囲む構造を取る。プ に絶縁層でカバーしてしまう
「完全空乏型SOI
(silicon
レーナ型が絵に描いたようなトランジスタなら、3D型 -on-insulater)基板」
といったものが研究されている
は積み木のようなトランジスタだ。 が、いずれにしても、トランジスタ構造を立体化する
 3Dトランジスタでは、ゲートが両側や上からチャネ アプローチが注目を集めている。

January 20 08 Computerworld 81
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む

図4:配線間に用いる絶縁材料の革新

年度 2004 2007 2010 2013 2016 2020

誘電率 3.0 2.4 1.9 1.5 1.3 1.3以下

Low-k Ultra Low-k Porogens AirGap

真空の
透き間

*資料:IBM

究極の絶縁材料である 気容量)の積に比例するからだ。そのため、銅配線だ

真空を配線間に使う けでなく、誘電率の低い
(電気がたまりにくい)Low-k
膜をセットで導入しないと、遅延を減らすことができ
 プロセスが微細化すると問題が発生するのはトラン ない。
ジスタだけではない。トランジスタを結ぶ配線層も問  そこで、半導体ベンダーは、世代ごとにより誘電率
題となる。一般に、トランジスタが小さくなると、配線 の低い材料を導入してきた。しかし、比誘電率(真空
も細くなる。配線が細くなると、配線の抵抗が増して、 の誘電率に対する比)
が2以下で、かつ半導体に使え
信号が配線を伝達する速度が遅くなる。これは、道 る材料はなかなか見つからないのが現状であった。
路が細くなって車が通りにくくなり、交通渋滞が起き  そこで画期的な発表を行ったのはIBMだ。IBMは
るのと似ている。 配線の間に、真空の透き間を作り、絶縁する技術を
 配線の遅延が大きくなると、チップの性能が上がら 発表した。
なくなってしまう。つまり、渋滞のために、一定の時  真空は、最も誘電率が低い
(比誘電率1)究極の絶
間に車が走ることのできる距離が短くなる。すると、 縁体だ。IBMの技術では「AirGap」と呼ばれる
「真
車での荷物の輸送、
つまり信号の伝達が遅くなり、
チッ 空の透き間」を挟み込むことで、配線間容量が最低
プが性能を出せなくなってしまうのだ。 になる
(図4)
。IBMの発表では、その結果、配線の
 今後、プロセスの微細化が進んで行くと、トランジ 速度を35%アップするか、消費電力を15%抑えるこ
スタは小型化できるが、配線が追いつかないために、 とができるという。
微細化の効果が薄れてしまう可能性もある。  これまでも、配線の間に真空を使うというアイデア
 この問題を解決するために、半導体プロセスでは、 は出てきていた。配線間の絶縁膜に穴を開ける
「ポー
配線に抵抗の少ない銅(Cu)
、配線の間の絶縁膜に ラス」技術は日本の半導体「MIRAIプロジェクト」で
「Low-k」
(誘電率が低い材料)
を採用している。なぜ も開発されている。
なら、配線の遅延は、配線の抵抗と配線間の容量(電  しかし、透き間を大きく加工することは、製造上き

82 Computerworld January 2008


Part1 │ スパコン並みの性能をPCにもたらすCPU

図5:露光技術の革新

1000nm

248nm
露光の波長
193nm

100nm
プロセス技術のスケール 90nm

65nm

45nm

32nm

EUV
13nm

10nm
1980年 1990年 2000年 2010年 2020年

*資料:インテル

わめて難しく、そのため実際には採用されてこなかっ されればスタンダードになって行く可能性もある。
た。これまでは、積み木をぎっしりと並べて重ね合わ
せていたのが、積み木の間に透き間を作ろうとすると、
EUV露光技術が
積み上げにくいというわけだ。 いよいよ試作段階に
 IBMは、この問題を「自己組織化」によって解決し
た。自己組織化とは、自然界で雪の結晶が自発的に  モア・ムーアを推進するうえでの、もう1つの壁は、
できるのと同様のプロセスであり、IBMの技術では、 チップ上にパターンを刻む露光技術だ。トランジスタ
穴が自発的に形成される。穴の大きさはわずか20nm と配線が微細になれば、当然、回路を刻み込む露光
で、1枚のウェハ上に何兆個もの穴が開く。その穴の の波長も短くならなければならない。露光技術が追い
下の配線膜をエッチング(溶解)することで、真空の つかないと、太い筆で細い線を描くような状態になっ
透き間を作り出す。 てしまい、正確な露光ができなくなってしまう。
 AirGap技術は、究極の絶縁体であり、配線間の  ところが、現在のArF
(フッ化アルゴン)露光は波
構造としては理想的だ。そのため、製造方法が確立 長が193nmで、実際にはプロセスの回路のハーフピッ

January 20 08 Computerworld 83
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU/HDD/メモリの明日を読む

チ、つまり配線の一番細い部分の配線と配線間を足 やインテルをはじめ、各社がこぞって論文を発表して
した幅より太くなってしまっている。65nmプロセスな いるほか、今年2月に開催されたISSCC
(注3)でも、
らハーフピッチが65nmなので、現在は限界に近い。 3D統合化の特別フォーラムが開催されている。
そこで、45nmプロセスでは「液浸」
と呼ばれる技術で、  3D統合化では、先端プロセス技術を使わなくても、
解像度を上げることで対応するのが一般的になりつ より大容量化が可能なので、プロセス開発コストが高
つある。液浸は、水の屈折を利用して解像度を上げ 騰する場合にはコスト面で有利となる。これまでもワ
る技術だ。 ン・パッケージに複数チップを搭載する技術はあった
 問題はその先の32〜22nm世代で、22nm以降は液 が、現在開発されている3D統合化は、従来技術より
浸でも対応がきわめて難しいと言われている。 も密な統合を実現し、低コスト化だけでなく、高いパ
 そこで、次世代のEUV
(Extreme UltraViolet) フォーマンスも実現する。
露光が脚光を浴びている
(83ページの図5)
。EUVは、  半導体ベンダーは、プロセス技術の拡張を続けつ
波長が13.5nmと短い極紫外線を使う露光技術だ。 つ、中間解として3D統合化技術も導入してくると予
EUV露光を使うと、今後予想されている10nm台の 想される。現在予想されているとおりにムーアの法則
プロセスまでの技術に対応できるという。これは、極 が2020年まで継続されると、12〜16nmプロセスが実
細のペンで回路を描くイメージで、22nm以降のプロ 現可能な範囲に入る。
セスにとっては理想的な技術だ。  65nmから12nmへ微細化が進むと、原理的に32倍
 EUVは、最初は45nm前後の導入を目指してスター のトランジスタが搭載できるようになる。65nmでデュ
トしたが、
開発が難しいため計画が大幅に遅れていた。 アルコアのCPUは、
12nmでは64コアにできる計算だ。
しかし、最近になって試作機器の発表が相次いでお CPUコアを演算に特化した小型のコアとして設計す
り、実用化のめどがついてきた。 ると、65nmで16〜32コア、12nmでは512〜1,024コ
アが搭載できる計算となる。

ムーアの法則の継続で  実際には、チップすべてをCPUコアにできるわけ

1,000コアCPUも視野に ではないが、理論上は1,000コアCPUが見えてくる。
もし、動作周波数が4GHzにとどまるとしても、1,000
 こうした技術革新が順調に進んで行けば、今後も (注4)
コアの演算性能は約32TFLOPS に達する
(注
ムーアの法則は、鈍化しつつも継続されていく。しか 5)
。これは、大学や研究所に導入されている、科学
し、実用化につまづく技術が出ると、ムーアの法則が 技術演算用のスーパーコンピュータ・クラスの性能だ。
足踏みしてしまう場合も考えられる。また、技術難度 2020年には、現在のスパコンの性能が、デスクトッ
が上がったために、ムーアの法則の継続が可能であっ プPCやノートPCにやってくることになる。
ても、最新プロセス技術はコスト的に見合わないもの  その場合の問題は、膨大な演算リソースを活用で
になる可能性もある。そうした場合、ムーアの法則に きるだけの並列性のあるプログラムを作ることだ。OS
沿って発展してきたコンピュータ産業自体の勢いが鈍 やアプリケーションだけでなく、プログラミング言語の
化してしまうかもしれない。 レベルからの改革が必要となる。ムーアの法則の継
 そこで、こうした問題を解決する手段として、2006 続による半導体の進化は、最終的にソフトウェアの飛
年から、半導体の「3D統合化(3D Integration)
」と 躍も促すことになる。
いうアイデアが急浮上してきた。3D統合化は、複数
の半導体チップを積層化したり、1つのチップの上に 注3:IEEE International Solid-State Circuits Conference
注4:1秒間に32兆回の浮動小数点演算を行う処理速度
複数のトランジスタを積層する技術の総称だ。IBM 注5:各CPUコアが1個のSIMD型浮動小数点演算ユニットを備える場合

84 Computerworld January 2008


Part2 │ テラバイト領域に突入したハードディスク

Part

2 垂直磁気記録方式、
TMRヘッド、パターンド・メディア……

テラバイト領域に突入した
ハードディスク
ナノテクはハードディスクの分野にも大きな革新をもたらしている。私たちが高品質の大容量データを扱えるように
なったのも、ハードディスクを高密度化・大容量化させたナノテクがあってこそと言えるだろう。本パートでは、大容
量化に向かうハードディスクの歩みと現状、そして1平方インチ当たり1テラビットという超高密度の次世代ハードディ
スクを実現に導く
「パターンド・メディア」技術を紹介する。

土屋 勝

かつては自販機サイズで5MB える。どれか1つだけが突出して進化しても、製品と

しかなかったハードディスク しての小型・大容量ハードディスクは生まれないのだ。

 磁気円盤にデータを記録するハードディスクが登場
ハードディスクの構造と
して50年以上がたつ。世界最初のハードディスクは 記録原理をチェックしよう
1956年に公開された
「IBM RAMAC」
だ。これは直
径24インチ
(61cm)
ディスクを50枚重ねたもので、自  ここでハードディスクの構造をおさらいしてみよう。
動販売機より大きいにもかかわらず、たった5MBの 現在では、サイズや容量が違っても基本的に同じ構
記憶容量しかなかった。 造原理を持っている
(図1)

 それが、現在では手のひらに乗る3.5インチのハー  まず、磁気メディアである
「プラッタ」
という円盤が
ドディスクで1TB
(テラバイト:1,024GB)
、切手サイ 何枚か積み重ねられており、
「スピンドル・モーター」

ズの0.85インチでも4GB程度の容量を達成している。 よって高速回転する。プラッタはガラスやアルミニウ
かつてあった8インチ、5インチといった
“大型”
ハード ムなどに磁性体
(磁気を帯びる性質を持つ物質)
を塗
ディスクは今や生産されておらず、サーバ用、エンター 布したもので、その表面はきわめて滑らかである。
プライズ・ストレージ用としても3.5インチや2.5インチ  プラッタの各面には磁気データを記録/読み書き
のものが使われている。一般家庭においても、ハイビ する
「磁気ヘッド」
が位置する。磁気ヘッドとプラッタ
ジョン対応の大容量ハードディスク・レコーダーとなる の間隔は、タバコの煙粒子より小さい10〜30nm
(ナ
と数百GBから1TBといったものが珍しくない。また、 ノメートル)
程度しかない。磁気ヘッドは
「スイングアー
ディスク内部や、ディスクとCPUなどのインタフェー ム」
で支えられており、
「ボイスコイル・モーター」
でプ
スの高速化も進んでいる。 ラッタ上を瞬時に移動するシーク動作を行うことがで
 こうしたハードディスクの大容量化と小型化、高速 きる。
化は磁気メディアの高密度化、磁気ヘッドの微細化、  データはプラッタを同心円上に区切った
「トラック」
アーム制御の精密化といった技術進化の結晶とも言 と、それを扇状に区切った
「セクタ」
という単位で記録

January 20 08 Computerworld 85
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU / HDD /メモリの明日を読む

図1:ハードディスクの構造

スピンドル・モーター
セクタ
トラック
ボイスコイル・モーター
(アクチュエーター)

シリンダー

プラッタ
(ディスク)
スイングアーム
ヘッド

される。また各プラッタで同位置にあるトラックの集 き込む情報の密度を高めればよい。そのため、磁性
合を
「シリンダー」
という。セクタはディスクにおける物 体の粒子を細かくすることが求められる。
理的な記憶領域の最小単位であり、OSはいくつかの  従来、使われてきた磁気記録方式は、ディスク表
セクタをまとめたクラスタという単位でデータを記録 面に対して磁性体を水平方向に磁化する水平磁気記
する。 録方式
(面内磁気記録方式、長手記録方式ともいう)
 ハードディスクは、ビデオテープ、フロッピーディ である
(図2)
。表面から見て、磁石が横に並んだ状態
スクなどと同じ記録原理を持つ。すなわち磁性体粒 である。ところが、ある程度以上に磁性体粒子を細
子を、あるパターンに磁化する
(N極とS極を持つ棒 かくしていくと、隣り合った磁極どうしの反発などに
磁石のようにある方向に向かせる)
ことで、データを記 より、磁力が弱くなる問題が生じる。さらに密度を上
録する。 げていくと、熱によるゆらぎ
(熱ゆらぎ)
も無視できなく
 ビデオテープやフロッピーディスクでは、プラスチッ なり、記録密度向上の限界が出てきてしまう。
クのテープや円盤に磁性体粉末を塗布したものが使  これを解決したのが、面に対して垂直方向に磁化
われているが、ハードディスクはその名前のとおり、 することでデータを記録する垂直磁気記録方式であ
ガラスやアルミニウムなどの固い基板
(円盤)
に磁性体 る
(図3)
。垂直磁気記録方式は1975年、東北大学電
を蒸着したものが使われている。その構造は下から、 気通信研究所教授の岩崎俊一氏
(現在は東北工業大
約1mm厚の基板、約20nm厚の非磁性体下地層
(ク 学学長)
らにより、水平磁気記録方式に対する優位性
ロム系合金など)
、約20nm厚の記録層
(コバルト、ク が提唱された。1970年代には六角板状バリウムフェ
ロムなどの磁性体)
、数nm厚の保護膜
(カーボン)
と ライトを使った垂直磁気記録テープが実用化され、
いった階層になっている。 1980年代に入るとMOで採用された。
 ハードディスクへの応用はだいぶん遅れて、2005

現在のハードディスクでは 年になり東芝が初めて1平方インチ当たり130ギガビッ

垂直磁気記録方式が主流 トの製品化に成功した。現在は各社が大容量ハード
ディスクに採用しており、ここしばらくは主流になっ
 小型・大容量を実現するためには、同じ面積に書 ている記録方式と言える。

86 Computerworld January 2008


Part2 │ テラバイト領域に突入したハードディスク

記録密度の向上とともに磁気
図2:水平磁気記録方式

ヘッドにも進化が求められた
 ハードディスクの高密度化を実現するためには、記 磁気ヘッド

録と読み書きを行う磁気ヘッドの改良も不可欠であ
再生ヘッド
る。初期の磁気ヘッド
(電磁誘導型)
では、
ギャップ
(空
間)
のある磁気コアにコイルを巻き、ギャップから漏れ
る磁場によってデータを読み書きしていた。しかし、 磁場 磁性体

記録密度を上げるためにはヘッドの小型化が必要に S N S N S N S N S N
なり、機械的な加工方法では対応できなくなってきた。
そこで半導体技術を応用し、エッチングによって精
密加工した薄膜ヘッドが登場した。
 記録方式の高密度化によって、もう1つ大きな問題 図3:垂直磁気記録方式

が出てきた。それは磁性体粒子を小さくしたために磁
性体から発生する磁場が弱くなり、コイルとギャップ
を使ったこれまでの電磁誘導型ヘッドでは読めなく 磁気ヘッド

なってしまうというものだ。そこで開発されたのが磁
再生ヘッド
場の変化に応じて電気抵抗が変わるNi-Fe
(ニッケル-
鉄)
合金などの磁気抵抗素子
(MR素子)
を利用し、磁
場の変化を抵抗の変化として読み取ることで従来の 磁場 磁性体
S N S N S N S N S N
10倍以上の感度を持たせたMRヘッドである。この場
N S N S N S N S N S
合もデータの書き込みには薄膜電磁誘導型ヘッドを
軟磁性体
利用するハイブリッド構造になっている。
 MRヘッドは1990年代にハードディスク用磁気ヘッ
ドの主流となったが、1990年代後半には、さらなる高
密度化に対応するため、2倍以上の磁気抵抗効果を持
つコバルト系素材を使った巨大磁気抵抗素子
(GMR 的世界の現象)
によって電気の流れに変化が起きる現
素子)
を採用したGMRヘッドが製品化された。ちょう 象だ。この現象を利用することで、高密度用磁気ヘッ
ど2007年のノーベル物理学賞は、巨大磁気抵抗効果 ドに必要な高い磁気抵抗効果を得ることができる。
を発見したフランス・パリ南大学教授のアルベール・  また、TMRヘッドよりもさらに微細化が可能とされ
フェール氏とドイツ・ユーリヒ固体物理研究所教授の るCPP-GMRヘッド
(GMR素子の面に対して垂直に
ペーター・グリュンベルク氏に決まったばかりである。 電流を流す方式)
の開発も、一方で進んでいる。
 しかし、GMRヘッドもこれ以上の高密度化に対応
することは困難となり、2006年ごろからはトンネル磁
さらなる高密度化を実現する
気抵抗
(TMR)
効果を使ったTMRヘッドが主流となり 「パターンド・メディア」
つつある。トンネル磁気抵抗効果とは、強磁性体と
強磁性体の間に絶縁物の薄膜を挟み、磁場の影響に  垂直磁気記録方式の記録密度をさらに高める方法
よるトンネル効果
(絶縁物を越えて電流が流れる微視 として注目されているのが、磁性体を非磁性体で区

January 20 08 Computerworld 87
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU / HDD /メモリの明日を読む

図4:ナノホール・パターンド・メディア

ナノホール

S N S N S

プラッタ
磁性体

N S N S N

アルミナ

切ることで微細化する
「磁性ドット方式」
である。磁性 ホール・パターンド・メディアの完成となる。穴の周期
ドットを作成する方法としては、電子線描画/エッチ (ピッチ)
は、数百〜10nmまで、陽極電圧によって制
ング式、ポリマーの自己組織的な偏析
(物質中の不純 御することができる。
物などの分布が不均一になる現象)
を利用する方法な  現在、開発が進められている次世代大容量ハード
どが提唱されている。 ディスク・メディアの記憶密度は、1平方インチ当たり
 山形富士通では磁性ドットの作成にアルミナ
(酸化 1テラビットを目指している。これには25nm間隔でナ
アルミニウム)
の「ナノホール・パターンド・メディア方 ノホールを生成する必要がある。
式」
を採用、科学技術振興機構の助成を受け、富士  ただし、ナノホールの間隔以外にも問題はある。従
通研究所、神奈川科学技術アカデミー
(KAST)
、首都 来の方法で電解酸化を行うとナノホールが膜上に均
大学東京益田秀樹研究室と共同研究を進めている。 一に生成されてしまうのだ。これでは、
円周方向に沿っ
 この方式はアルミニウムの表面に微細な穴
(ナノ て磁気記録を行うハードディスクには適さない。
ホール)
を作り、
そこに磁性体を充填するというもの
(図  そんななか、電解酸化する前にアルミ表面にすじ
4)
。この穴はメディアに垂直方向に形成されるため、 状の窪み
(凹凸パターン)
を付けておくと、ナノホール
磁性体は垂直に磁化されやすい。また厚みを増すこ がその窪みに沿って成長するという発見
(1997年)

とでビット体積を大きくできるので、熱揺らぎに強い。 注目が集まった。つまり、特定の方向にナノホールを
さらに、ナノホールに充填された磁性体は相互に離れ 作ることができる秩序配列技術の発明である
(図5)

て存在するため、影響し合うことが少なくなる。  2006年には秩序配列技術に改良が加えられ、円周
 ナノホールは、アルミニウムを電解酸化
(陽極酸化) 方向に
(すじ状の窪みに沿って1列に)
ナノホールを並
させてできる酸化アルミニウム
(アルミナ)
の膜上に作 べる1列配列技術に成功した。
られる。このアルミナの穴は、日本で開発された
「ア
ルマイト処理」
として、古くからアルミニウム製品の表
ナノホールの2列配列技術で
面着色や耐食性向上のために用いられてきた。ナノ 25nmピッチを実現
ホールが生成されたアルミ板に磁性金属であるコバ
ルトを電気メッキで充填し、表面を研磨するとナノ  しかし、
1列配列技術では45nmピッチが限界であり、

88 Computerworld January 2008


Part2 │ テラバイト領域に突入したハードディスク

図5:ナノホールの分布

均一に生成されたナノホール 窪みに沿って1列に生成された
(方向性なし) ナノホール
ナノホール 窪み

ナノホール

25nmピッチの実現は困難だった。ところが、KAST 損傷も激しいので大量生産には適していない。研究
でこの限界を突破する技術が開発された。2007年1 グループではダイレクト・プリントに代わるナノ・インプ
月に発表された2列配列技術である
(図6)
。これは陽 リント・リソグラフィ法を用いることで、アルミ表面に
極酸化条件を操作することにより、窪みの壁に沿っ ナノメートルサイズの凹凸パターンを作ることに成功
て2列のナノホールを形成するものだ。つまり、50nm した。
間隔の凹凸パターンを作れば、25nm間隔でナノホー  これは、
アルミ表面に樹脂の皮膜を作り、
それにモー
ルを生成させることができる。 ルドで溝を切り、エッチングしてから電解酸化処理を
 この発表について富士通研究所ストレージ研究所 行うというものだ。工程が複雑にはなるものの加圧が
専任研究員兼山形富士通磁気媒体統括部統括部長 不要で、製品化に不可欠な大面積のアルミ板への処
付/厚木分室長の伊藤健一氏は次のように語る。 理も可能になるという。
 
「凹凸の間隔が50nmピッチで、溝の両側にナノホー  ただし、パターンド・メディア技術によって、ディス
ルが形成され、ナノホールの平均間隔は25nmピッチ ク円盤に1平方インチ当たり1テラビットの記憶容量を
を達成した
(写真1)
。長さ方向も平均25nmピッチに 実現したとしても、それがすぐに超大容量ハードディ
なっており、ナノホール形成のポテンシャルとしては1 スクにつながるわけではない。ハードディスクの大容
平方インチ当たり1テラビットを実現できるめどがたっ 量化にはメディアだけでなく、磁気ヘッド、制御系、
た」 電子回路などの改良が同時に実現されなければなら
 当初、この凹凸パターンはダイレクト・インプリント ない。
と呼ばれるプレス法によって生成されていた。凹凸が  現在製品化されている磁気ヘッドは100nmピッチ
逆になったSiC
(炭化シリコン)
製のモールドを作り、 までしか読み書きができない。1平方インチ当たり1テ
アルミ表面に1平方cm当たり数十トンという圧力で押 ラビットを実現するためには、磁気ヘッドも25nmピッ
し付けることによって微細な凹凸を刻印するのだ。 チの読み書きに対応したものが必要になる。
 だが、この方法では作業効率が低く、モールドの  また、その磁気ヘッドの位置の制御も重要だ。物

January 20 08 Computerworld 89
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU / HDD /メモリの明日を読む

図6:ナノホールの1列配列技術と2列配列技術

SiCモールド

1列配列

電解酸化
(陽極酸化)
アルミ

2列配列

理的にどのセクタを読み書きするかは、磁気ヘッドの も進められている。
位置とスピンドル・モーターの回転角で決まるからだ。
メディアが高密度化されるということは、当然ながら
市場に相次いで投入される
シリンダーの間隔も狭くなり、磁気ヘッド位置の制御 大容量ハードディスク
もきわめてシビアになる。こうした課題に向けた開発
 1平方インチ当たり1テラビットという高密度ハード
ディスクが製品化されることで、私たちの生活やビジ
写真1:ナノホールの電子顕微鏡写真 凹凸間隔:50nm
ネスはどう変わるのだろうか。
b a  1平方インチ当たり1テラビットという記録密度を持
つハードディスクが実際に商品化されるのは2011年
ごろではないかと伊藤氏は見ている。3枚のディスク
を使った2.5インチのハードディスクで2TBの記憶容
量が実現するという。
 伊藤氏はまた、
「1台で100本以上のハイビジョン映
c
像ライブラリーを保存できる10TBハードディスク・レ
コーダー、12時間以上の長時間にわたってハイビジョ
ン撮影が可能な600GBの記憶容量を持つ家庭用カ
ムコーダー、
2TBのハードディスクを内蔵し、
ハイビジョ
ン映像の編集も簡単にできるノートPCなども可能に
充填磁性体(コバルト) ナノホール列の平均間隔:25nm なる」
と語っている。
凹凸の溝に沿って25n m間隔で並ぶナノホール
(a)、富士通が試作したパターン  研究室レベルでは、すでに1平方インチ当たり1TB
ド・メディアの断面図
(b)と磁性体(コバルト)充填後のようす
(c)
※資料:富士通 を超える、さらなる大容量ハードディスクの研究も行

90 Computerworld January 2008


Part2 │ テラバイト領域に突入したハードディスク

われているという。 写真2:シーゲイトの1TBハードディスク
「Barracuda」の内部

 伊藤氏によれば、
「益田教授の研究室では13nmピッ
チ、1平方インチ当たり4テラビットのポテンシャルが
ある記憶メディアを、小さい面積だが、すでに実証し
ている」
ということだ。
 現在、市販されているものは記録密度で言えば1平
方インチ当たり200ギガビットといったもの。2007年1
月、日立グローバルストレージテクノロジー(日立
GST)
とシーゲイトは相次いで1TBの記憶容量を持つ
3.5インチ・ハードディスクを発表した。日立GSTの
「Deskstar 7K1000」
はディスク枚数が5枚、これに対
してシーゲイトの
「Barracuda 7200.11」
(写真2)
はディ
スク枚数が4枚である。よりいっそうの高密度化が進
んでいるとともに、ディスク枚数が減ることで消費電
力低減も実現している。
 ハードディスクの高密度化、大容量化は今後もとど
まることがなさそうだ。

Column
大量のデジタル情報を扱うハードディスク市場は拡大していく
2007年1月、ついに1TBの記憶容量を持つ3.5インチ・ハードディス ── 大容量化と小型化、どちらが主流になるのか。
クが登場した。編集部は、1TBハードディスクを投入したシーゲイト シーゲイト:エンタープライズ市場では小型化(2.5インチ)への移行
ジャパンから、大容量ハードディスクの今後の使われ方や次世代ハー が加速している。それは、サーバなどの運用に必要とされる電力消費
ドディスクの動向などについてコメントを得た。 の低減が昨今の環境問題、エネルギー問題を背景に、ユーザーの大
きな関心事となっているからだ。
── 大容量ハードディスクによってPCや情報家電はどう変わるか。
── 開発のうえで、どのような点に苦労したか。 シーゲイト:ユーザーが高品質の画像、映像、音楽などをより大量に、
シーゲイト:従来の長手記録方式では限界だった記録密度を高める 高速に扱うことができるようになる。ハードディスクへの需要も維持さ
ため、垂直磁気記録方式を採用したが、これまでとはまったく異なる れるだろう。最近のフラッシュメモリの台頭により、超小型(1インチ、
方式であるため、軌道に乗るまでは記録密度の伸び悩みや量産への 1.8インチ)市場でのハードディスクの劣勢は否定できない。しかし、
対応に苦労した。 大量のデジタル情報を収集、操作、流通、保存するストレージとして
── 市場の反応はどうか。 ハードディスク市場は拡大していくと思われる。
シーゲイト:デジタル・データは、企業よりも個人によって生成される ── 次世代ハードディスクの動向は。
割合の方が大きくなった。ストレージ容量は大きいほどよく、垂直磁 シーゲイト:ハードディスク1台当たりの容量競争が製品の優劣を決
気記録がもたらす記録密度はすでに不可欠だ。今後のハードディスク める唯一の判断尺度ではなくなり、ユーザーのニーズに対応した製品
は垂直磁気記録方式に確実にシフトする。弊社ではすでに、第2世代 開発がカギとなる。今後は、例えばフラッシュメモリを搭載したハイ
の垂直磁気記録製品を投入している。 ブリッド・ハードディスク、データの暗号化機能を備えるハードディス
── 今後のロードマップは。 ク、過酷な温度や湿度の環境下に耐えるハードディスク、低消費電
シーゲイト:垂直磁気記録方式の次の技術についてもさまざまな研究 力のエコ・ハードディスク、ストレージ用のニアライン環境を考慮した
が進められているが、しばらくは垂直磁気記録方式でさらに記録密度 ファームウエア設計など、多様な視点が求められる。なおかつ、より
の向上を目指すことになるだろう。 信頼性が高く、より低価格な製品が求められるだろう。

January 20 08 Computerworld 91
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU / HDD /メモリの明日を読む

Part

3 SLM、2光束干渉法、
コリニア・ホログラフィ法……

ホログラフィ技術で
次世代DVDを凌駕するメモリ
光メモリに代表されるメモリの分野では、すでにBlu-rayやHD DVDの次の世代を担う新しいメモリの開発が始まっている。と
りわけ注目を集めているのが、ホログラム・メモリと呼ばれる大容量の光メモリであり、ナノテクが大きく寄与している。本パート
では、ホログラム・メモリの仕組みに迫るとともに、ホログラム・メモリの1方式で、将来的にさらなる大容量化が可能とされる日
本発のコリニア・ホログラフィ法を紹介しよう。

井上光輝
豊橋技術科学大学 研究専任教授

次世代メモリとして注目される 積的に記録する方式について、記録材料や記録シス

ホログラム・メモリ テムの広い範囲で重要な成果が得られている。
 最近では、これらの成果を基礎として、光ディスク・
 情報通信技術の普及によって、テラバイト級の大 メモリへの応用も国内外で検討されるようになってき
規模情報を高速に記録・再生できる光メモリの実現 た。また、容量は小さいが製品化の段階に入ってい
が熱望されるようになってきた。表1は、光(ディスク) るものもすでにある。ただし、ホログラムの特性を生
メモリの進展を記録容量とデータ転送レートの観点か かしきれているとは言えず、また現行の光ディスク技
らまとめたものであるが、Blu-rayやHD DVDに次ぐ 術と相性が悪いなどの種々の問題を抱えている。
第4世代の光メモリとしてホログラム・メモリと呼ばれ
る高密度記録技術が注目を集めている。
同一場所に多重記録が
 ホログラム・メモリは過去何度もチャレンジされてき 可能なホログラム・メモリ
た技術であるが、装置を構成するレーザーやSLM
(空
間光変調器)
、 (注1)
あるいはCMOS イメージ・センサー  ホログラム・メモリは、ホログラム
(3次元像)
の生成
などの光学機器の発展に伴い、にわかに再認識され に使われるホログラフィ技術を基礎とする
(図1)
。ホ
るようになってきた。特に、1994年ごろから行われた ログラフィ技術では、2つの光(信号光と参照光:信
米国の2つのプロジェクト
「PRISM」
と (注2)
「HDSS」 号光が情報を保持)
を重ねることで形成される位相干
では、デジタル・ページ・データをホログラムとして体 渉パターン
(水面上で重なり合う波紋のようなイメー
ジ)
をデータとして記録し、その後、参照光を記録パ
表1:光ディスク技術の変遷 ターンに再び照射して信号光(情報)
を再生するとい
第1世代 第2世代 第3世代 第4世代 う原理に基づく。ホログラフィ技術の原点は古く、
CD DVD HD DVD/Blu-ray ホログラム・メモリ? 1894年にP.M.G.リップマン氏が光ビームを干渉させ
650MB 4.7GB 27GB 1TB? ることでカラー写真形成を試みたことに端を発する
1.4Mbps 10Mbps 38Mbps 1Gbps?
(注3)
が、ストレージへの応用は1963年にP.J.ヴァン・

92 Computerworld January 2008


Part3 │ ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ

図1:ホログラフィ技術の記録・再生原理

位相干渉パターン
①情報の記録 ②記録の完了 ③情報の再生
信号光と参照光の 参照光を照射して信号光を再現
記録された情報
干渉パターンを記録 (ホログラム)

信号光
信号光 参照光を照射
(情報)

参照光
記録メディア 記録メディア 記録メディア

ヒールデン氏によって提案された概念が基礎となっ 作り出す。このパターンは、当該ページを記録した際
ている
(注4)
。 にSLMから出た光のパターンと同じであり、CMOS
 一般的なホログラフィ技術は、3次元物体から散乱 などの2次元光検出器で受光して電子的な信号に変
された光を記録し、その記録情報を可視化して再生 換され、元データが再生される。各々のホログラムは
する。一方、上述したデジタル・ホログラフィ技術は、 対応する参照光によって独立に再生可能である。
SLMが出す光(信号光)
を利用する。SLMは1と0の  ホログラム・メモリは、1960年代から1990年代に
バイナリ・データを白黒の2次元ビット列(2次元バー かけて、さまざまなものが提案されてきた
(注5)
。しか
コード)
として表示するマイクロデバイスだ。 し、記録材料の感度やダイナミック・レンジが不足し
 このSLMを用いて、ホログラムの記録は94ページ ていたことや、レーザー、SLM、CMOSを含む光学
の図2(a)
に示す方法で行われる。まず、画像データ 機器・デバイスが高価であったこと、さらに光学系が
から得られるバイナリ・ビット列が2次元バーコード状 複雑で既存のCDやDVDなどとの整合性がまったく
に配置され、SLMに表示される。表示されたデータ なかったことなどから、実用化には至っていなかった。
は信号光としてSLMから記録メディアに照射され、  ところが最近、前述したPRISM/HDSSプロジェ
それと同時に、別の光(参照光)が記録メディアの同 クトの成果として、収縮率が小さく、厚みのあるフォ
じ場所に照射される。そこで形成される位相干渉パ トポリマ材料や、感度がきわめて高いフォトポリマ材
ターンがホログラムとして記録されることになる。 料などが現れ、新しいホログラム記録材料として一躍
 通常、参照光の入射角度や波長を変えて、同一場 脚光を浴びた。日本でも、NEDO
(新エネルギー・産
所に多数のホログラムを重ねて記録する。これはホロ 業技術総合開発機構)のプロジェクトや科学技術振
グラムの多重と呼ばれ、記録材料の特性や厚さに依 興機構のCRESTプロジェクトで高感度、
高ダイナミッ
存するが、数百から数千に達するホログラムを重ねる ク・レンジないくつかのフォトポリマ材料が開発され、
ことができる。 ホログラム記録材料の開発が活発化している。一方、
 情報の特定のページを再生するには、図2(b)
に示 すぐれた性能を有する比較的安価な光学機器も市場
すように、そのページを記録した際に使った参照光を で容易に手に入るようになり、ホログラム・メモリの実
記録メディアに照射する。角度多重の場合は、対応
注1:Complementary Metal Oxide Semiconductor
する参照光の方向が選択される。 注2:
「the PhotoRefractive. Information Storage Materials」 、「the
Holographic Data Storage System」
 参照光は、記録されているすべてのホログラムと相 注3:出典 P.M.G.Lippman, “Sur la theorie de la photographie des
couleurs simples et composees par la methode interferentielle,”
互作用するが、特定の参照光(方向)のみがその対応 J.De Phys.,vol.3,pp.97-107,1894.
注4:出典 P.J.van Heerden, “Theory of optical information storage in
するホログラムから影響を受け、ある光のパターンを solids,”Appl.Opt.,vol.2,No.4,pp.393-400,1963.

January 20 08 Computerworld 93
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU / HDD /メモリの明日を読む

図2:2光束干渉法によるデジタル・データの記録/再生

記録データ 2次元ビット列(2次元バーコード)
ミラー
(a)記録プロセス
ハーフミラー

SLM
0010101101101....
レンズ
0010101101101.... 0010101101101.... 0010101101101.... 参照光
1001010101101.... 1001010101101.... 1001010101101.... ...... 信号光
バイナリ・データ 0011001101101.... 0011001101101.... 0011001101101....
0110101101101.... 0110101101101.... 0110101101101.... 記録メディア

(b)再生プロセス レンズ 0010101101101.... 0010101101101.... 0010101101101....


1001010101101.... 1001010101101.... 1001010101101.... ......
0011001101101.... 0011001101101.... 0011001101101....
0110101101101.... 0110101101101.... 0110101101101....
ミラー
バイナリ・データ

0010101101101....

参照光
再生データ

記録メディア

2次元ビット列(2次元バーコード)

一般には、SLMと記録材料との間にレンズを挿入して、SLM のパターンを変換(フーリエ変
換)して記録する。その場合、再生時には、当該レンズに等価なレンズを記録媒体と受光器
CMOS との間に挿入し、逆変換(逆フーリエ変換)により適切なページ・データを得る。

用化がにわかに注目されるようになった。 1光束でのホログラムの記録/再生を可能にするもの
で、従来の光ディスクで用いられているフォーカス・

CDやDVDとの整合性がある サーボ技術がそのまま活用できる特徴を持つ。

コリニア・ホログラフィ法  図4(a)
(b)
、 にコリニア・ホログラフィ法による記録/
再生時のSLMパターンの一例を示す。記録時には、
 ホログラム記録には、図2で紹介した2光束干渉法 中心部と外周部に分離したページ・データを用い、中
がよく用いられるが、この方式は日本が得意とする光 心部を記録データ、外周部を参照光形成に用いる。
ディスク技術との整合性が必ずしもよくない。この難 それぞれの部分から出る光をレンズで記録メディアに
点を克服できるホログラム記録方式として、SLMを 集光し、両者の位相干渉パターンを記録する。再生
キー・デバイスとするコリニア・ホログラフィ法(注6) 時はSLMに外周部のみ表示させ、ホログラム光ディ
がある。 スクから記録データ
(中心部)
を取り出す。
 図3に示すように、この方式は記録メディア
(反射  96ページの図5はコリニア・ホログラフィ法を用いる
層を持つホログラム光ディスク)
に対して、見かけ上、 コリニア・ホログラム・メモリの基本構成である。ホロ

94 Computerworld January 2008


Part3 │ ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ

グラムの記録/再生には緑色レーザを用い、ホログラ 図3:コリニア・ホログラフィ法による情報の記録/再生

ム光ディスクのサーボ制御には赤色レーザを用いる。
図5に示されているように、光ディスクの上部に位置 SLM

する1つのレンズのみでホログラムの記録・再生ができ
る構成となっている。これが、CDやDVDなどの従来
CMOS
の光ディスクと上位互換性が取れる理由である。
 ホログラムは、記録された干渉パターンの方向や位 ハーフミラー

置をわずかにずらすだけで、ほぼ同じ場所に何千もの
レンズ
画像イメージを重ねて書くことができる。これが、記 参照光 参照光
録密度が飛躍的に高い理由の1つである。 信号光
記録メディア
 コリニア・ホログラフィ法では、96ページの写真1に
示すように、シフト多重と呼ばれる手法でホログラム
の多重が行われる。この写真は、0μmと示した位置
にホログラムを1つ記 録して、光スポット位 置を
100nmずつずらしながら再生した画像データである。 図4:コリニア・ホログラフィ法による情報記録・再生時のSLMパター
ンの例
もともとホログラムが書かれた0μm位置での再生像
にはエラーが認められない。空間的にわずかに読み取
り位置をシフトさせていくと再生像の信号部分(中心
部分)
が消え、3μmほどのシフトで信号再生像はまっ
たく認められない。このことは、3μmシフトさせなが
らホログラムを何枚も多重できることを意味している。
この例では光スポットの直径は、おおむね200μm程
(a)
記録時のSLMパターン (b)
再生時のSLMパターン
度であるが、この状態で光ディスクには3TBに達する
データの記録が可能になると考えられている。
 HVD方式のホログラム・メモリは、
記録/再生とサー

国際標準規格として採択された ボ制御に2色のレーザ光源を使うことから、光ディス

HVD方式のホログラム・メモリ クの構造が工夫されている。図6はHVDの断面構造
を描いたものである。
基板上部にサーボ用のプリフォー
 前節で紹介したコリニア・ホログラフィ法による光 マットされたピットが形成されており、この情報を赤
ディスク・メモリは、HVD
(Holographic Versatile 色レーザーで読み取ることでディスクを制御する。ホ
Disc)方式としてプロトタイプの構築が進んでいる。 ログラムが記録されるのは、その上部に位置するフォ
写真2は実際に構築されているHVDホログラム光ディ トポリマ層
(400μm程度の厚さ)
で、緑色(あるいは青
スク装置の内部写真である。すでに密度換算でディ 色)
レーザーを用いて記録/再生を行う。特徴的なの
スク1枚当たり200GB、160Mbpsの性能を持つ回転 は、記録層とピット部との間に設けられた波長選択膜
系システムでの動画記録・再生デモンストレーション
注5:出典 H.J.Coufal,D.Psaltis,G.T.Sincerbox eds.,“Holographic Data
も行われている。技術的な性能向上を図ることで、 Storage,”Springer Series in Optical Sciences,10,2000.
注6:本稿で紹介したコリニア・ホログラフィ法による光ディスク・メモリの開発
将来的にはディスク1枚当たり1TB、1Gbpsの性能を の一部は、科学技術振興機構CRESTプロジェクト、文部科学省超光メ
モリプロジェクトとして、オプトウエア、FDK、共栄社化学、メモリーテッ
有する装置の実現も可能と考えられている。 ク、船井電機との産官学共同研究事業として実施しているものである

January 20 08 Computerworld 95
     特別企画 ナノテク研究の前線からCPU / HDD /メモリの明日を読む

図5:コリニア・ホログラム・メモリの基本構成

DMD
緑色レーザー

ミラー
レンズ
DBS
ミラー
CMOS
PBS

受光器

ミラー 赤色レーザー

レンズ QWP レンズ

DMD(Deformable Mirror Device:TIから販売されている


MEMSを用いたSLM。商品名としてDMD)
ホログラム光ディスク
(HVD) DBS (Dual Beam Splitter:2 重ビーム・スプリッタ)
PBS (Polarization Beam Splitter:偏光ビーム・スプリッタ)
QWP(Quarter Wave Plate:4 分の1 波長板)

HVD方式の実用化に向けて
写真1:コリニア・ホログラフィ法におけるシフト多重
(記録材料は共栄社化学製のフォトポリマ)
周辺技術や材料の革新も進む
 コリニア・ホログラフィ法では、記録/再生のいず
0μm 2.0μm 3.0μm れにあってもSLMを利用する。レーザー光源や受光
器への組込みを考えると固体デバイスが好ましく、ま
たピクセル数の制限下で高速のデータ転送レートを

100nm 200nm 300nm 400nm 500nm


実現するには動作速度の速いものが望まれる。この
観点から、写真3に示す磁気光学効果を用いたSLM
の開発が進んでおり、すでに1ピクセル当たり10ns
(ナ
ノ秒)
レベルの高速光変調デバイスが完成している。
600nm 700nm 800nm 900nm 1000nm
このSLMも国産技術として開発されたもので、HVD
との組合せが期待されている。
(ダイクロイック・ミラー層)
で、この膜によって記録/  ホログラム・メモリの実用化には、記録/再生用の
再生用のレーザ光がピット部に達しない工夫がなされ 材料がきわめて重要となる。多くのホログラムを多重
ている。これは、記録/再生光がピット部に達すると、 化するには多重性にすぐれ、かつ記録感度の高い材
散乱ノイズによってエラーが増加することによる。 料が望まれる。また、
ノイズの少ないことも重要である。
 このHVD方式は、国際的な標準化組織「Ecma 現時点では、これらの要求を満たす記録材料として
International」で、ホログラム・メモリとしては初の フォトポリマ材料が期待されている。フォトポリマ材
国際標準規格として採択されている。日本発の技術 料はWORM
(Wright Once Read Many)
メディアで
が国際標準規格として採択されたことの意義は深く、 あるため、アーカイブ記録用やROMメディアとしての
今後の展開が非常に楽しみである。 応用が考えられている。

96 Computerworld January 2008


Part3 │ ホログラフィ技術で次世代DVDを凌駕するメモリ

今後5年以内には登場する
写真2:HVDシステムの内部写真
(オプトウエア製)

大容量のホログラム・メモリ
 ホログラム・メモリの開発が、最近にわかに再燃し
ているのは、光学機器が発展していることに加え、上
述したように、記録材料としてすぐれたフォトポリマ
が開発されてきたことも主因の1つである。
 記録/再生の面から考えると、従来の光ディスク
技術が利用できるコリニア・ホログラフィ法は魅力ある
ものと言える。実際、その光学系は従来の2光束干渉
法に比べると非常にシンプルであり、実用化の観点か
らは都合がよい。現行の光ディスク・メモリに次ぐも
のとしていくつかの方式が検討されているが、最近の 図6:HVDの構造

ホログラム・メモリの展開は一歩先んじた感がある。 緑色レーザー 赤色レーザー


 2007年10月に、マレーシアのペナン島で、ホログ
ラム・メモリの実用化を目指して「ホログラム・メモリ
基板2
ホログラム

国際ワークショップ」が開催された。国内外の企業・
大学から約100名の参加者があり、実用化に向け白 フォトポリマ
(記録層)

熱した議論がなされた。その内容からは、少なくとも
ギャップ層
今後5年以内には、第4世代の大容量光ディスクとし ダイクロイック・ミラー層
てのホログラム・メモリが登場するものと思われる。実 ギャップ層

際、コリニア・ホログラム・メモリ自体は基礎開発から
アルミ反射層
実用化開発にフェーズが移っており、いかに工業化し
ピット部
ていくかを考える時期にさしかかっている。 基板1
 一方で、その次の世代のホログラム・メモリとして、
コリニア・ホログラフィ法をさらに発展させた超光情報
メモリの基礎開発が進んでいる。このメモリは、コリ
ニア・ホログラフィ法を基本としながら、
光フェーズロッ 写真3:磁気光学効果を用いた高速SLM
(FDK製)

ク方式と呼ばれる、光位相を巧みに使った技術(多
値ホログラム体積記録技術)
を実現しようとするもの
である。光位相を利用するためにノイズに弱いが、そ
の難点を克服する光学系や、超高速で光位相をペー
ジ・データとして変調できるSLM、さらには超高密度
記録に耐えうるナノ構造を有するフォトポリマ材料や
リライタブル記録材料などの開発が進展している。
 ホログラム・メモリの開発は実用化と基礎研究が非
常に早いスピードで展開されてきており、今後とも目
が離せない重要なメモリ技術と言える。

January 20 08 Computerworld 97
TechnologyFocus
[テクノロジー・フォーカス]
「話題の製品の機能を詳しく知りたい」
「自社では、どのような技術を使
うのが最適なのだろうか」── 企業において技術や製品の選択を行う「テ
クノロジー・リーダー」
の悩みは尽きない。そこで、本コーナー
[テクノロジ
ー・フォーカス]では、毎号、各IT分野において注目したい製品や技術を
ピックアップし、その詳細を解説する。

A pplications
「エンタープライズ・ウィジェット」
その可能性と課題を探る
[アプリケーション]

January 2008 Computerworld 101


Technology Focus

A
pplications
[アプリケーション]

「エンタープライズ・ウィジェット」
その可能性と課題を探る
企業内で新たな活用領域を見いだすなか、
セキュリティには手つかず
ウィジェット
(Widget)
とは、PCのデスクトップ上、あるいはポータル・サイトやブログなどのWebサイト上に置かれ
るミニ・アプリケーションのことである。今のところウィジェットは、
B2Cサービスを提供する企業のマーケティング・ツー
ルとして使われることが多いが、
ここにきて社内ポータルなど社内で活用しようとする動きも見え始めている。
本稿では、
ウィジェットの概念と基本的な仕組みを解説するとともに、企業利用に向けた先進的な取り組みを紹介し、エンター
プライズ・ウィジェットのメリットと現時点での課題を明らかにする。

城田真琴
野村総合研究所
技術調査部 主任研究員

「デスクトップ」
と「Web」 のため、特にB2Cサービスを提供する企業にとって、

ウィジェットの2形態 ユーザーと自社とを最短距離でつなぐ効果的な広
告/マーケティング・ツールとなる。例えば、新製品/
 現在、ウィジェット
(注1)
と呼ばれているものは、大 サービスの発表に合わせてコミュニケーション・ツー
きく2つに分類できる。その1つがデスクトップ・ウィ ルとして配布したり、キャラクターを使ったブランディ
ジェット、もう1つがWebウィジェットである。 ングを行ったりといった形でマーケティングに利用す
ることができる。
■デスクトップ・ウィジェット  すでに、こうしたマーケティング手法を採用する企
 デスクトップ・ウィジェットとは、PCのデスクトップ 業も現れている。その1社が、
「ドコモダケ」
のキャラク
に常駐するミニ・アプリケーションだ。
「Yahoo!ウィ ターを用いたウィジェット
(画面2)
をWebサイトで配布
ジェット」
がその一例である
(画面1)
。 しているNTTドコモだ。また、松竹は映画
『ゲゲゲの
 デスクトップ・ウィジェットには、電卓や時計、カレ 鬼太郎』
の公開に合わせて目玉おやじのウィジェット
ンダーのようにスタンドアロンで動作するものと、イン をリリースした。
ターネットに接続してWebサイトと連動し、ニュース・
フィードや天気予報などを表示するものがある。 ■Webウィジェット
 常時接続のブロードバンドが普及し、PCの性能も  Webウィジェットは、
ポータル・サイトやブログといっ
飛躍的に向上した今日、注目されているのは後者であ たWebサイト上で動作するものである。グーグルの
る。Webサイトと連動するタイプのデスクトップ・ウィ 「Googleガジェット」
がその代表例だ。これは、
「iGoo
ジェットを使えば、ブラウザを介さずに直接ユーザー gle」
というカスタマイズ可能なポータル・サイトに、
のデスクトップに情報を送り届けることができる。そ 「Googleマップ検索」や「Wikipedia検索」などのウィ
ジェットを組み込めるというものだ。
注1:この種のミニ・アプリケーションは「ガジェット」
とも呼ばれる。本稿では、特定のサービス名を指
す場合を除き、「ウィジェット」という呼び方を用いる  同様なものに、マイクロソフトが運営するポータル・

102 Computerworld January 2008


Applications

Applications
サイト
「Live.com」
上で使える
「Windows Liveガジェッ 画面1:デスクトップ・ウィジェットの1つである
「Yahoo! ウィジェット」

ト」
がある。この2社のようなビッグ・ベンダーのほかに
も現在では、ネットバイブス
(画面3)
やページフレーク
ス、ウェブワグといった独立系新興ベンダーも同様の
サービスを提供しており、Webウィジェットがブーム
となる兆しが見られる。
 こうしたユーザーの好みや必要に応じてカスタマイ
ズできるポータル・サイトは、パーソナライズド・ページ、
あるいはスタート・ページと呼ばれる。その大きなメリッ
トは、インターネット上に散らばったコンテンツを1画
面に集約できるという点だ。
 パーソナライズド・ページにウィジェットを組み込む
画面2:NTTドコモが提供するウィジェット「いつでもドコモダケ」
には、各社のWebサイトに用意されているウィジェッ
トの一覧
(一種のカタログ・サービス)
から、必要なも
のを選択して
「追加」
ボタンをクリックするだけでよく、
非常に簡単だ。
 さらに、Webウィジェットは、ユーザー個人が運営
するWebサイトにはり付けるという使い方も可能だ。

ランタイム・エンジンが
ウィジェットの稼働基盤
 ウィジェットを動かすためには、その実行環境とな
るランタイム・エンジンが必要となる
(104ページの図1)

ランタイム・エンジンは、Windows VistaのようにOS 画面3:ネットバイブスのパーソナライズド・ページ「Netvibes」の画面
が標準で備える場合や、ウィジェットの提供者側が用
意する場合、あるいはWebブラウザ自体をランタイム・
エンジンとして用いる場合がある。いずれにせよ、ウィ
ジェットを動作させるためには、何らかの実行環境が
必要であり、その上で対応したウィジェットが動くと
いう仕組みになる。
 現在、ウィジェットのランタイム・エンジンは、マイ
クロソフトやヤフー、
グーグル、
アップルのようなグロー
バルなプレーヤーに加えて、
「GIZMO」
を開発する日
本のantsなどが提供している。
 ウィジェットによっては、Windows上のランタイム・
エンジンでしか動作しないもの
(マイクロソフトの
Windowsサイドバー・ガジェット)
、Mac OS Xでしか

January 2008 Computerworld 103


Technology Focus

図1:デスクトップ・ウィジェットの仕組み
通常のアプリよりも
開発の敷居は低い
ウィジェット
1
ウィジェット
2 … ウィジェット
n
Webウィジェットでは、
ブラウザが
ランタイム・エンジンと同等の役割を担う

 ウィジェットの開発は、C++やVisual Basicによる
ランタイム・エンジン 他のアプリケーション 通常のアプリケーション開発に比べて、はるかに容易
に行える。

クライアントOS  ウィジェットの中身は、Webコンテンツに近いもの
で構成されている。ウィジェットの名前や作者といっ
た基本情報をXMLで記述したマニフェスト・ファイル、
動作しないもの
(アップルのDashboardウィジェット) ウィジェット本体のデータ構造などを記述するための
などがある。主なウィジェットと、ランタイム・エンジ HTML/XMLファイル、アプリケーションとしての動
ンなどの必要な環境を表1に記す。これらのほか、ア 作を記述するJavaScriptファイル、ウィジェットの外
ドビ システムズが開発中の
「Adobe AIR
(Adobe 観などを規定するCSS
(Cascading Style Sheets)
ファ
Integrated Runtime)
」も、ウィジェット用ランタイム・ イルといったものが含まれている。
エンジンとして注目すべきものの1つだ。  このようにウィジェットでは、Webコンテンツ開発

表1:主なウィジェットと動作環境 ※「公開されているウィジェット数」は2007年10月23日時点での調査による

使える場所 名称/提供元 動作環境 公開されているウィジェット数

デスクトップ Yahoo!ウィジェット/ 専用エンジン 「Yahoo!ウィジェットエンジン」 3,849


ヤフー OS:Windows 2000/XP、
Mac OS X 10.3.9 以降

デスクトップ Googleデスクトップガジェット/グーグル 専用エンジン 「Google デスクトップ」 580


OS:Windows 2000 SP3/XP/Vista、
Mac OS 10.4 以降、Linux

デスクトップ Windows Vistaサイドバーガジェット/ Windows Vista 2,949


マイクロソフト

デスクトップ Dashboard ウィジェット/アップル Mac OS X 10.4 以降 370

デスクトップ GIZMO/ants 専用エンジン 「GIZMO」、Community デッキ 70


OS:Windows 2000/XP/Vista
Internet Exploler 5.5 以上、最新版の FlashPlayer

Webポータル Windows Live Gadgets/ Internet Explorer 6.0 以降 1,326


(Live.com) マイクロソフト

Webポータル Google Gadgets for your Webpage/ Internet Explorer 5.5 以降、Firefox 0.8 以降、 21,311
(iGoogle) グーグル Opera 8 以降、Safari 1.2.4 以降など

Webポータル Netvibes/ネットバイブス Firefox 1 以降、Internet Explorer 6/7、 90,913


(Netvibes) Opera 9.02、Safari 2 以降

104 Computerworld January 2008


Applications

Applications
の技術が用いられている。そのため、開発に対する 画面4:シトリックスの「Extentrix Citrix Published Application Widget」

敷居は低いと言えよう。
 なお、デスクトップ・ウィジェットとWebウィジェッ
トでは、ローカルで実行させるか、サーバ上で実行さ
せるかという違いはあるが、開発方法に関して言えば
ほとんど同じだ。

互換性確保という課題と
解決のための取り組み
 どのウィジェットも基本構造は似ているものの、現
状では異なるランタイム・エンジン向けに開発された
ウィジェット間では互換性が確保されていない。同様
の技術で開発されているとは言っても、細かい仕様
が異なるためだ。 ウィジェットの
 このウィジェット間の互換性確保という課題を解決 社内利用に向けた試み
しようと、現在、W3Cにおいて
「Widgets 1.0」
と呼ば
れる標準規格の策定が進められている。その進捗状  現状では、広告/マーケティング・ツールとしての
況は、2007年10月に2回目のワーキング・ドラフトが 利用が多いウィジェットだが、社内システムへの影響
公開された段階だ。 はどうだろうか。ここでは、社内システムのウィジェッ
 一方、こうした標準規格の策定を待たずに、種類 ト適用に対するベンダーの取り組みと、ユーザー企業
の異なるウィジェットの相互利用の仕組みを独自に構 の萌芽事例を紹介する。
築しようという動きがある。ネットバイブスが開発した
「Universal Widget API」
というウィジェット用APIが、 アプリケーションのユーザー・インタフェース
それである。このAPIを使ってウィジェットの開発を  エンタープライズ・アプリケーションのユーザー・イ
行うと、NetvibesやiGoogleといったWeb上のプラッ ンタフェース
(UI)
としてウィジェットを利用するための
トフォームに加え、Windows Vistaサイドバーやアッ ツールが登場し始めている。
プルのDashboardなどのデスクトップ・プラットフォー  その1つが、シトリックスが配布している
「Extentrix
ム、さらにはiPhone、Operaなどの携帯プラットフォー Citrix Published Application Widget」
である
(画
ムでも使用できるウィジェットを一度に開発すること 面4)
。これは、シトリックス・システムズのサーバ上で
ができる。 稼働しているOutlookやCitrix RSSフィード、ある
 このようにウィジェットの互換性確保に向けた動き いはWeb会議やリモート・アクセス・サービスを提供
はあるが、肝心の大手ベンダー(ヤフー、グーグル、 する
「Citrix Online」
にダイレクトにアクセスできるよ
マイクロソフト)
は、開発者やユーザーの囲い込みに うにするウィジェットである。
熱心で、互換性の問題については動きが鈍いのが現  同様にSAPも新しいUIとして、各種ウィジェット
状だ。大手ベンダーが提供するウィジェット間で相互 を公開している。106ページの画面5の
「SAP BI
利用が実現されなければ、ユーザーが享受できる利 Data Widget」
では、
地域ごとの営業組織の売上リポー
便性は限定的なものになるだろう。 トをデスクトップ上に表示させておくことができる。

January 2008 Computerworld 105


Technology Focus

画面5:SAPの「SAP BI Data Widget」 トレットとアプリケーションは1対1の関係だったので


ある。
 これに対してIBM Portlet for Google Gadgets
では、Googleガジェット用のポートレット1つだけで、
グーグルが提供する2万以上ものウィジェットが利用
可能となった。つまり、ポートレットとアプリケーショ
ンの関係が1:nになったのである。
 もちろん、両者の用途は異なるため、単純な比較
画面6:IBMの「WebSphere Portal」
。画面右の「ポートレット・パレット」からドラッグ& はできないが、日常的なちょっとした作業を効率化す
ドロップでGoogleガジェットを追加する
るツールが社内ポータル上で利用可能となるメリット
は大きい。また、IBMがみずからウィジェットを開発
しなくても、ユーザーが利用できるGoogleガジェット
は増え続けているため、ベンダーにとっても非常にメ
リットの大きい仕組みだと言える。

既存アプリとの連携にも配慮したユーザー事例
 パーソナライズド・ページは、Ajaxをフル活用した
UIによって画面遷移を伴わないコンテンツの切り替
えを実現するなど、直感的な操作を可能にしている。
さらに、外部のディベロッパーによって開発された豊
富なウィジェットを容易に利用できる。
 このようにUIとしてウィジェットが用いられるのは、  こうしたすぐれた特徴を企業内でも生かそうと、最
高い表現力とリアルタイム性を兼ね備えているからで 近では、パーソナライズド・ページと同様なコンセプト
あろう。 のポータルを構築する先進的な企業も現れている。
例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループで情報シ
外部情報/ツールとポータルのマッシュアップ ステムの企画・開発・保守を担当するUFJISでは、
 IBMは今年2月末に、ウィジェットに関してグーグ Ajaxを全面的に採用した社内ポータル・システムを独
ルと提携し、Googleガジェットのランタイム・エンジン 自に構築し、同社の社員400名が活用している。
に相当する
「IBM Portlet for Google Gadgets」
とい  このポータルを見て驚くのは、その洗練されたUI
うポートレットを開発した。これは、グーグルが公開 である
(画面7)
。Ajaxに加えて、RSSを採用し、
「情
している2万以上のウィジェットすべてを利用できる 報へのすばやいアクセス」
「情報洪水からの脱却」
を追
仕組みを、WebSphere Portalのユーザーに提供す 求している。画面7では、右側のカレンダー、CPU利
るというものだ
(画面6)
。 用率の表示、ToDoリストなどがウィジェット化されて
 この仕組みが画期的であることは、従来の企業ポー いる。また、他のWebページをクリッピングして取り
タルにおけるポートレットの仕組みと比較するとよくわ 込む機能により、画面中央下のインターネット・バン
かる。これまでのポートレットは、SAP R/3やLotus キング・ログイン画面が表示されている。
Notesなどのアプリケーションのデータを取り込むと  加えて、Lotus NotesやExchange Serverのデー
いった目的で、個々に開発されてきた。つまり、ポー タもWebサービスとして呼び出せるようにするなど、

106 Computerworld January 2008


Applications

Applications
既存アプリケーションの取り込みも可能としている。 画面7:Ajaxを全面的に採用したUFJISの社内ポータル・システムの画面

こうした点では、iGoogleなどのサービスを凌駕して
おり、今後の社内ポータルが目指すべき姿を示してい
ると言えよう。

社内利用ウィジェットの
メリットと課題
 以上の萌芽事例から、ウィジェットを社内で活用す
る際のメリットと留意点が見えてくる。

社外情報を容易に活用できるのが大きなメリット
 メリットとしては、まず、単なる
「社内サイトのリン
ク集」
に陥りがちであった従来のポータルとは異なり、
社外の情報も活用できる点が挙げられる。
 今や、インターネット上には膨大な量の情報が溢 コンテンツであっても悪質なコードが便乗してくる可
れている。毎日の出社後に、いくつかのニュース・サ 能性があるため、注意が必要だ。実際に、Live.com
イトをチェックすることが日課となっているビジネス で利用可能なRSSリーダー・ウィジェットで、攻撃者
パーソンも多いことだろう。 からのデータ・フィードを通して悪質なコマンドを招き
 最近では、こうしたニュース・サイトが更新情報を 入れるという脆弱性がすでに発見されている。この欠
RSSフィードとして配信するケースが増えており、そ 陥を悪用すれば、ユーザー・アカウントから特権情報
れが社内ポータルに一覧表示されれば、出社後すぐ を入手してそのユーザーになりすまし、ブラウザを乗っ
に、日々のニュースのナナメ読みが可能となる。 取ることができる。
 また、ウィジェットを活用すれば、地図サービスや  前述のWebSphere PortalとGoogleガジェットの
乗換え案内など、外部の便利なサービスを取り込む 連携でも、現状ではポートレット側で特別なセキュリ
ことも容易だ。しかも、これらのサービスを利用する ティ対策がなされているわけではない。これらに限ら
際には社内か社外かをユーザーが意識する必要がな ず、現在、ウィジェットを活用している企業の多くは、
いという点もすぐれた特徴である。 その利便性ばかりに目を向け、セキュリティ対策まで
 企業内で利用できるアプリケーションが、基本的に 手が回っていない印象を受ける。
情報システム部門の用意したものに限られていた従来  しかし、今後の普及に伴い、ウィジェットを通じた
と比べれば、その発展ぶりを理解できるだろう。 外部からの攻撃は増加すると予想できる。特に、
Windowsサイドバー・ガジェットのようにランタイム・
現時点では配慮されていないセキュリティが課題 エンジンがOSと密に連携しているものが被る被害は、
 留意すべき点としては、セキュリティ対策が挙げら 非常に大きなものになるだろう。
れる。前述のようにウィジェットの中身はWebコンテ  自社内でのウィジェットの利用を検討する際には、
ンツに非常に近いため、同種の脆弱性を抱えうると考 大きな被害を受けて手遅れになる前に、ぜひ、ウィ
えられる。 ジェットの利用に関するポリシーを策定し、セキュリ
 特に外部のフィードを利用するものは、信頼できる ティ対策を徹底してほしい。

January 2008 Computerworld 107


IT KEYWORD

34

CDF
I T
K E Y W O R D

(Compound Document Format)

さまざまな種類のXMLデータを集約する
W3C標準の複合ドキュメント・フォーマット
3 4

Computerworld 編集部

 CDF
(Compound Document Format)
とは、Com  CDFのように各種のXMLデータを扱えるXMLド
pound Document
(複合ドキュメント)
を扱うことを目 キュメント・フォーマットとしては、OASISが策定し、
的としたXMLベースのドキュメント・フォーマットであ OpenOffice.orgが採用しているODF
(OpenDocument
る。現在、W3Cが標準化作業を進めている。 Format)
が知られている。このODFがワープロ文書
 複合ドキュメントについてW3Cは、XHTMLや やスプレッドシートなどのフォーマットを定め、それら
SVG
(ベクター画像記述言語)
、SMIL
(マルチメディ の相互利用を可能としているのに対し、CDFは異な
ア統合言語)
、XForms
(Webフォーム記述言語)
など、 る複数のXMLデータを集約するコンテナのような役
多様な種類のフォーマットを組み合わせたドキュメン 割を果たすという点が大きな違いだ。
トと説明している。このような複合ドキュメントを扱う  W3CのCDFワーキング・グループは2004年より活
CDFは、テキスト/画像/音声/動画の処理やプロ 動しているが、ここにきてCDFがにわかに注目を集め
グラムの実行などを目的とした各種XMLデータを混 ることになった。10月30日にODFの推進団体の1つ、
在利用するためのフレームワークだと言える。 OpenDocumentファウンデーションの幹部のブログに
 異なるXMLデータの混在方法としてCDFでは、2 おいて、ODFに見切りをつけ、CDFに鞍替えするこ
種類の形態を想定している。その1つが、外部XML とをほのめかす発言があったからだ。ブログでこの幹
データのURIを参照して組み合わせる
「CDR
(Com 部は、フォーマットの汎用性や機能性においてCDF
pound Document by Reference)
」、もう1つが複数 のほうがすぐれていると述べている。特に、ODFの
のXMLフォーマットを1つのデータに記述して埋め込 対抗馬と見なされるOffice Open XML
(OOXML)


「CDI
(Compound Document by Inclusion)
」である。 の互換性についてODFを問題視しているようだ。

CDFを利用して記述された統合ドキュメントの例

URIを参照して、 SVG Tinyで記述された


SVG Tinyファイルを呼び出す グラフを統合して
携帯電話の画面に表示

<XHTML>
 <・・・>

 <・・・>
</XHTML>

SVG Tinyファイル XHTML Mobile Profileファイル *写真:W3C

CDFは、その仕様策定の当初から、携帯電話における統合ドキュメントの利用を想定していた。この写真は、CDRによる実装例。モバイル端末向けのXHTML言語で
ある「XHTML Mobile Profile」
と、同様にモバイル端末向けに開発されたベクター画像記述言語の
「SVG Tiny」
とを組み合わせたコンテンツが、ノキアおよびソニー・エ
リクソンの携帯電話の画面に表示されている

110 Computerworld January 2008


 最初のきっかけは、週刊ダイヤモンド もそもがインターネットに移行できるわ
が9月22日号で
「新聞没落」
という特集を けがないのだ。
組んだこと。ここで、
朝日新聞、
読売新聞、  かといって、このまま紙販売に頼り続
日経新聞の3紙が共同で
「ANY」
という インターネット劇場 けていては、いずれジリ貧になるのは目
ポータル・サイトを運営する構想を立て に見えている。
「前門の虎、後門の狼」
か、
ていることがスクープされた。そして10 それとも
「進むも地獄、退くも地獄」
なの
月1日には報道のとおり、3紙の社長が か。いずれにしても新聞がにっちもさっ
そろって記者会見し、販売網で協力し ちもいかない状況に陥りつつあるのは、
ていくことと、ANYサイトを開設するこ まがうことのない事実である。
とが発表された。さらに、隔週刊誌の
佐々木俊尚  そして困ったことに、この難問の解は
サピオが11月14日号で
「大新聞の
『余 T o s h i n a o S a s a k i どこにも存在しない。米国でも新聞の
命』
」というタイトルの特集を展開した。 危機は日本と同様で、この苦境を乗り
 インターネット利用者層の拡大と新聞購読率の低 Entry 越えた新聞社は、今のところ世界を見渡しても皆無な
下、そしてネット広告市場の拡大/新聞広告市場の下 18 のである。
新聞業界の危機

落などで、新聞業界が危機的状況にあることは何年も  加えて、新聞社の経営層がインターネットやWebの
前から語られてきた。ここにきて問題がいよいよ大きく ことをほとんど理解できていないという問題がある。い
なり、外部に向かって噴出してきているという状況だ。 や経営層だけでなく、これから会社を担うべき40代ぐ
らいの社員でも、その無理解は驚くほどだ。先の合同
 とはいえ、新聞がインターネットと融合する方向に 会見でも、どのようにWeb戦略を進めるのかというこ
行くのかというと、そう簡単ではない。 とを具体的に語っていたのは日経の社長だけだった。
 まず第一に、インターネットはマネタイズ
(収益化) 読売と朝日は、Webについてはほとんど語っていない。
が難しい。全国紙にとって、新聞販売は1,000億円単 おそらくは語るべきことばを持っていないのだ。
位の巨大ビジネスだが、現状のWeb媒体で得ている
収益は10億円単位にすぎない。コンテンツの有料化  グローバリゼーションの中、嫌が応もなくITの世界
が難しくて販売収益が存在しないうえに、広告の単価 に足を突っ込まなければならないのが2000年代の経
も安いからだ。販売と広告の収益比率が2:8程度と 営者の宿命だが、新聞社のようなドメスティックなビ
される米国の高級紙でも、もし仮にビジネスを完全に ジネスにおいては、その常識はまったく通用しない。ま
Webに移行させてしまうと、売上げは半減すると言わ ずは、こうした姿勢をひっくり返さなければ新聞の再生
れている。この比率が6:4、広告収入が芳しくないと はありえない。新聞社の若手社員は危機感を抱いてい
ころでは8:2となっているような国内の新聞では、そ るが、その道のりは遠いというのが現実だ。

PROFILE
ささき・としなお。ジャーナリスト。1961年
兵庫県生まれ。毎日新聞社記者として警視
庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件
や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材
する。その後、アスキーを経て、2003年2
月にフリー・ジャーナリストとして独立。以降、
さまざまなメディアでIT業界の表と裏を追う
リポートを展開。『ライブドア資本論』、
『グー
グル——既存のビジネスを破壊する』 など著
書多数。

January 2008 Computerworld 111


 私は普段からよくデジタルカメラで写 め細かく指定でき、家族や友人に限定
真を撮るほうだと思いますが、その枚数 して公開することもできます。
が年々増えていて、今この原稿を書い
ているマシン上では、実に1万8,000枚  ところが、1つだけ解決していない問
の写真が31GBの容量を占めています。
IT哲学 題がありました。
過去12カ月だけでも6,000枚の14GB  それは、肝心の
「自分たちで見て楽し
ですから、ここ数年で枚数・サイズ共に む」
という点です。月に500枚もの写真
急増してきたようです。 を撮っていると、もうPC上でソフトを
 このぐらいのサイズになると、今まで 使って見てはいられません。なんだか閲
は想像もしなかったような問題が出てき 覧しているだけで疲れてしまい、こんな
ます。例えば、バックアップ。31GBに
江島健太郎 に写真をたくさん撮って意味があるのだ
K e n n E j i m a

もなるとDVDメディアに収まらないの ろうか、とさえ、自問しつつありました。
で、外付けのハードディスクにバックアップをとること Entry

になります。それから、共有。写真は多くの場合、自 28  そこに現れた意外な救世主が、アップルから発売さ
写真のある生活の未来

分で見るだけでなく、離れた場所にいる家族や友達に れている
「Apple TV」
です。Apple TVは、Macの内
も見せたいものです。しかし、最近のデジカメで撮る 蔵ディスクに入っている写真データをネットワーク越
高解像度の写真データは1枚当たり3〜4MBにもなり、 しに取り込み、テレビ上で再生することができます。
とてもメール添付などでは送っていられません。 iTunesのプレイリストをBGMに指定できることはもち
ろん、スライドショーもシャッフル再生が可能で、複
 最近ではWeb上のサービスが進化してきたので、 数の写真が一度に浮かび上がってくるような美しいエ
これらの問題を解決できるようになってきました。私 フェクトをつけて再生させることもできます。
が使っているヤフーの画像管理サービス
「Flickr」
(フ  これをリビングで流しているだけで、数々の意外な
リッカー)
は、月額2ドルのPro版に加入すれば容量無 写真を発見して驚き、また、その驚きを奥さんとその
制限で写真のオリジナル・データを永久保管してくれ 場で共有することができます。これは、パソコンの前
るので、まず、これをバックアップ・メディアとして使 にかじりついて写真を見るのとはまったく異なる新鮮
うことができます。 な体験でした。とうとう写真も
「ながら視聴」
ができる
 Flickrはかなりのスグレモノで、写真データの保存 時代になったのか、と。
と同時に、Web上で見やすいサイズのサムネールも自  量は質に転化することがある、とは技術の世界では
動生成され、メール添付ではなくURLを送るだけで閲 よく言われることですが、まさに写真の未来像を見た
覧することが可能です。また、プライバシー設定もき 気がした瞬間でした。

PROFILE
えじま・けんたろう。インフォテリア米国法
人代表/ XMLコンソーシアム・エバンジェ
リスト。京都大学工学部を卒業後、日本オ
ラクルを経て、2000年インフォテリア入社。
2005年より同社の米国法人立ち上げの
ため渡米し、2006年、最初の成果となる
Web2.0サービス
「Lingr
(リンガー)
」を発表。
1975年香川県生まれ。

112 Computerworld January 2008


 NCRから分社したデータ・ウェアハ 保険の保険料が毎月、従量制の形で決
ウス・ベンダー、テラデータ主催の年次 定されるというわけです。
ユーザー・コンファレンス
「PARTNERS  この仕組みは、契約者にとっては公
2007」
に参加してきました。過去にも テクノロジー・ランダムウォーク 平な保険料につながります。特に、実
何回か参加していますが、世界中のデー 際には、ふだんほとんど運転しないにも
タ・ウェアハウスの先進ユーザー事例の かかわらず、年齢が若いというだけで高
詳細を知ることができる貴重なイベント 額の保険料を支払わざるをえなかった
です。 層にとっては朗報でしょう。
 特に興味深かったセッションの1つ  また、保険会社にとってはリスクの
に、英国の保険会社ノーウィッチ・ユニ
栗原 潔 低減につながります。高リスクの契約
オンによるPAYD
(Pay-As-You-Drive) K i y o s h i K u r i h a r a 者は保険料が高くなることから、他の
自動車保険の事例がありました。日本 保険会社に移ってしまうかもしれませ
語に訳せば
「従量制自動車保険」
となるでしょう。この Entry ん。しかし、これはノーウィッチ・ユニオンにとっては
システムについては、今までも自分の講演で何回か紹 28 望むべきところです。低リスクの契約者、つまり、保
自動車保険の

介してきたのですが、今回、ノーウィッチ・ユニオンの 険金を支払わなくてはならない可能性が低い契約者だ
担当者から直接話を聞けたことは大変貴重な経験でし けが残ることになるからです。
正に、
Win-Winのソリュー
た。 ションと呼べるかと思います。

保険契約者と保険会社の双方にメリット ビジネス・コンピューティングにおける
「リアルタイム化」

 PAYD自動車保険の仕組みはこうなっています。保 “リアルタイム”
とは
険契約者の車両にはGPSを搭載した専用機器が設置  本誌2007年10月号の特集記事で、
「ビジネス・コ
され、契約者の走行パターン情報、つまり、どの時間 ンピューティングの世界における
“リアルタイム”
とは、
帯にどの地域をどの程度の速度で走ったかなどが記録 正確には
“ライトタイム”
(right time)
、つまり、ビジネ
されます。この情報は保険会社に集約され、保険料 ス上の価値を提供できるレベルの迅速性で処理を行
が月ごとに計算されたのち契約者の元に届けられます。 うということを意味するのである」
と書きました。その
 走行が多かった月、事故のリスクが高い地域を多く 意味では、このノーウィッチ・ユニオンの事例も、従
通った月、盗難が多い地域に車を停めることが多かっ 来は年間ベースで行っていた保険料の計算を月ベー
た月は保険料が高くなるでしょう。その一方で、ほと スで行うようにすることでビジネス上の価値を提供し
んど車に乗らなかった月は保険料が安く済むことにな たという点で、
「リアルタイム化」
の事例の1つと言える
ります。あたかも携帯電話の通話料のように、自動車 かもしれません。

PROFILE
くりはら・きよし。テックバイザージェ
イピー(TVJP)
代表取締役。弁理士の
顔も持つITアナリスト/コンサルタント。
東京大学工学部卒業、米国マサチュー
セッツ工科大学計算機科学科修士課程
修了。日本IBMを経て、1996年、ガー
トナージャパンに入社。同社でリサーチ・
バイスプレジデントを務め、2005年6
月より独立。東京都生まれ。

January 2008 Computerworld 113

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