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東南アジア : ネクスト・ステップ

東南アジアの国々は、さまざまな製品やコモディティーの、ますます重要な生産者になってきている。これは輸
出向けということがひとつにあるが、その一方で、豊かさを増している自国の消費者の需要が上がってきている
ということもある。タイのような確立した製造業の国々が世界的な競争を目指す一方、ベトナムやカンボジアの
ような低価格製造国は、人件費や材料費がより高くつく中国の諸地域からビジネスを誘引しようとしている。
ユーラシア・グループは、この新興地域の政治的、経済的な変化を注意深く追っている。

Report issued 24 March 2011


Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd.
This is based on the opinions of Eurasia Group analysts and various in-country specialists. Eurasia Group is a private research
and consulting firm that maintains no affiliations with governments or political parties.
© 2011Eurasia Group, 475 Fifth Avenue, 14th Floor, New York 10017
東南アジアにおける製造業の地図は、この20年で最も重要なシフトを見せ
る構えである。低価格で簡易な工業生産は、ベトナム、カンボジア、さらに ミャンマー
はラオスに移行するであろう。その間、マレーシアとタイはバリューチェーン テイン・セイン
の上方に移行し、電子機器や自動車用部品などのより専門化した製品の 大統領
製造国になるであろう。ミャンマーでさえ経済的孤立から2、3歩踏み出しそ (2011-2016)
うな中、インドネシアとフィリピンは輸出型の産業戦略よりも国内市場にフォ
ーカスし、他の国々とは異なる様相を呈しそうである。
カンボジア
フン・セン
首相
なぜ東南アジアは変化しているのか (2008-2013)

ほぼ20年にわたる輸出主導の工業化の後、いくつかの東南アジアの国の
経済は、今後10年の間に変遷を遂げそうである。この変化の主な要因は、 インドネシア
この地域の競争力学のシフトにある。ベトナム、カンボジア、さらにはラオス スシロ・バンバン
などの明らかに労働コストが優位な未開拓市場は、20年前の中国のやり方 ・ユドヨノ
にならい始めた。低価格の労働集約型製造産業をターゲットにすることで、 大統領
彼らは、タイやインドネシアに徹底して対抗しているのだ。こうした風潮を受 (2009-2014)
けて、タイやマレーシア、そしてある程度においてベトナムは、中位の製造
や電子機器セクターにおける高付加価値生産へのシフトを目指している。
ミャンマーは、域内の近隣国である中国やタイと、貿易やエネルギー、港湾
マレーシア
アクセスなどにおいて経済的なかかわり合いを高め続けるであろう。
ナジブ・ラザク
首相
(2009-2013)

フィリピン
東南アジアにおける最低賃金 ベニグノ・アキノ
3世
大統領
(2010-2016)

タイ
アピシット
・ウェチャチワ
首相
(2007-2011)

シンガポール
リー・シェンロン
首相
(2006-2011)

ベトナム
グエン・タン・ズン
首相
(2011-2016)

東南アジア : ネクスト・ステップ 1
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | March 2011
東南アジア新興市場での工業化フェーズ

政策目標 結果
1960-1980年代 輸入代替 競争力のない工業、強固な産業
政策なし、不安定なマクロ経済
1980-2000年代 輸出主導の成長 高度な成長、しかし同時に需要
と商品価格の不安定性による高
い脆弱性も見られる
2010年以降 域内貿易の発展 中間財の域内貿易の増加
輸出バリューチェーン
の上方への移行
国内消費の増加

その間、インドネシアとフィリピンは国内市場にフォーカスし続ける。なぜ
なら、輸出志向の製造業を奨励するような積極的な政策を求める支持基
盤に欠けているからである。しかし両国は、当分の間、いまだかつてない
政治的な安定を享受するはずである。そしてそれは、国内向けの投資と、
彼らの産業に関する方向性を変えるかもしれない改革の見込みを増加さ
せる可能性がある。中国はこれらの国々にとって、その方程式の重要な一
部分となるであろう。過去数十年とは異なり、ほとんどの東南アジアの国々
は、域内の輸出関連の活動をすべて中国が支配してしまっているとは考
えていない。中国市場は、タイ、ベトナム、カンボジア、シンガポールに対
し、中国の国内もしくは輸出産業の中間サプライヤーか最終サプライヤー
になることで、欧米の需要への直接的な依存を減少させるという効果をも
たらしている。また、これらの国々のいくつかは、中国の製造業者が高価
格になってしまったセクターで競争することになるであろう。
中国の成長が国家主義的な反応を引き起こす可能性のあるのは、東南ア
ジアの中で内向きな国々、つまりインドネシアとフィリピンである。これらの
国の経済成長の大部分は国内消費によってもたらされるものであり、もし
中国や域内の他の国が保護主義的な感情を増加させ、経済的な脅威が
もたらされた場合には、内向型の政策を採用する可能性が最も高い。

東南アジアにおける政治の主要イベント

2011年 タイ 総選挙 連立与党の勝利は安定性を改善


6月 野党の勝利は安定性減少
2011- マレーシア 総選挙 統一マレーシア国民組織(UMNO)の
2012 支配が強まり、改革の見通しは穏健
なものにとどまるかもしれない
2013 マレーシア 総選挙 2011-2012年に実施されない場合
2014 インドネシア 総選挙 ユドヨノ氏の後継が選ばれ、改革の
ペースを決めるであろう
2013 カンボジア 議会選挙 フンセン氏が再選しそう
2016 フィリピン 総選挙 アキノ氏の後継が選ばれるであろう
将来の政治的安定性にとって重要
2016 ベトナム 第12回共 改革派のズン首相が離任し、世代交
産党大会 代が進むかもしれない

東南アジア : ネクスト・ステップ 2
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | March 2011
各国政府はどのような方向付けを行うのか

輸出国

地域の経済と生産の地図が確実に変わっていく中、各国政府はいかに効果
的にこの変化を引き起こすかを決定するであろう。タイでは政治的な混乱に
もかかわらず、自動車や電子機器などの主要産業においては引き続き競争
力を保たなくてはならないと、政府も財界も明らかに認識している。このこと
から、タイは、域内もしくは世界的な輸出供給国としての競争力の改善を、さ
らに重要視するであろう。これを実現するために、熟練した労働人口の能力
のさらなる向上に引き続きフォーカスし、必要に応じて近隣諸国からの未熟
練労働者の参入を自由化するかもしれない。投資家たちにタイへの投資を
考慮してもらうために財政的インセンティブやバンコク以外での継続的なイ
ンフラ開発を利用することになるであろう。同様にベトナムの指導者たちは、
低価格な軽工業のハブとしての、20年前の中国の台頭を見習うという産業
政策に努力を投じてきた。しかし、ベトナムの環境は投資家たちにとって協
調的に映るであろう一方、政府とベトナム共産党は成熟した経済と調整力の
あるビジネス環境を構築するのに未だ苦労している。バンコクとハノイは、コ
スト問題から中国南東部から手を引こうとする企業や、「国産イノベーション」
を押し進める中国に知的財産をさらすのを避けたがっている西側企業などを
獲得しようと試みている。中国とは異なり、他のどの政府も国内産業に先端
技術を取り込もうとはしていないのである。

東南アジアは次の10年でどのように変わるのか

国名 新たにあらわれつつある 優位点 リスク


産業プロフィール
タイ 素材産業と低価格製造 確立した供給網 政治的不安定
から脱却し、自動車部 知的財産保護
品、電子機器、高度な組
み立て作業へ移行
インドネ 材料加工と簡易な製造 低い労働コスト 政治絡みの利害関係
シア 豊富な原材料 者の思惑で、改革が
頓挫する可能性
不十分なインフラ

フィリピン 業務アウトソーシング 熟練した労働力 弱い産業政策


脆弱なインフラ

ベトナム 簡易な製造と組み立て 熟練した労働力 国家主義


豊富な海外投資 汚職
非効率な国営企業
カンボジ 低価格製造 低い労働コスト 弱い規制
ア 脆弱なインフラ
政治的不安定
ラオス 低価格製造 低い労働コスト 脆弱なインフラ
改革の遅さ

東南アジア : ネクスト・ステップ 3
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | March 2011
未開拓国

ベトナムが、活気のない観光客向けの田舎から新興国の中での次なる目
玉に変化した姿を見て、メコン河流域の近隣諸国としては、程度の差こそ
あれ、より多くの海外投資を引きつけようと試みている。そのひとつがカン
ボジアで、海外の投資家へのルールは極めて自由化されている。すでに
この国では、信頼できる服飾品製造国として自らを確立しようとし始めて
いる。そして、バングラデシュやスリランカなどの似たような国々との競合
にフォーカスし、低価格を求めるタイとベトナムからビジネスを誘引しようと
しているのである。カンボジアの優位な点のひとつは、ベトナムやタイなど
近隣諸国の製造業者との距離の近さである。それによって、コストを下
げ、それらの国々にある製造業者によるクロスボーダー投資の障壁を減
少させられるのである。

新興国の成長率

未開拓国の成長率

東南アジア : ネクスト・ステップ 4
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | March 2011
インフラストラクチャー

東南アジアは、これまで20
年間で最大スケールのイ
ンフラの改善をしようと試
みるであろう。インドネシア
とフィリピンは、アジア金融
危機後に余剰なインフラ
が多いことに気づき、近年
では財政逼迫のために十
分な投資できなかったの
ラオスもまた、徐々に海外の投資家に対して自由な姿勢を採ろうとしはじめ
である。
ている。特に指導者の多くがベトナムでトレーニングを受けており、その経 タイ、ベトナム、カンボジア
済的思考の波及効果は必然的なものである。ミャンマーではいくらかの自 は、より広範囲でのクロス
由化が見られそうな上に、その天然資源セクターを、タイ、中国、韓国、イ ボーダー取引や移動が可
ンドの企業に引き続き開放しそうである。同時に、例えば少し前に行われ 能な、そして、工場やビジ
た野党リーダーのアウンサンスーチー氏の解放のように、もしこの国がその ネス用地への投資を探し
政治的な安定への懸念を緩和できれば、貿易はその近隣諸国との間で増 ている投資家のニーズに
加する可能性がある。これは特に、インフラ、港湾アクセス、エネルギー取 合うようなものを構築しよ
引などを通じてミャンマーとの戦略的な接近を得ようとするタイや中国に当 うとしている。
てはまるであろう。
インフラビジネスにおける
投資家にとって喜ばしい
域内での考え方のシフトと
より大きな経済の国々の不明瞭さ いえば、人々が市場本位
の料金を支払おうという意
インドネシア、マレーシア、フィリピンは、アジアにおいてより確立された発 欲の高まりである。そして
展途上経済の3カ国である。しかし、それぞれの産業政策シフトの方向性 それは、政治色の強い料
はいくぶん不明瞭である。これらの国々には、自国経済における有利な条 金設定のリスクを減少させ
件を不当に活用しようとする強固な団体があり、例えば、インドネシアで るものである。
は、労働組合の強いロビー活動によって、製造業者に強力な阻害要因を
政府は予算にしわ寄せが
もたらす厳格な労働規則の改定が遅々として進まなかった。そして政府 来ることを避けたがるの
は、消費に拍車をかけるために必要な、新しい土地取得法を可決するの で、巨大プロジェクトを構
に苦労した。結果的に、インドネシアは資源生産国としてのそのおなじみ 築するためにもっと官民パ
の役割から移行するのに時間がかかりそうであるし、特に商品価格が高い ートナーシップを創出しよ
ままではなおさらである。フィリピンでは、力強い国内消費と国内向け投資 うとするであろう。インフラ
が成長の主な要因となるが、半導体と電子機器を除いては製造業の成長 投資を奨励するための規
は限られるであろう。とはいえ、在外労働者は引き続き故郷への送金をす 制変更が、フィリピン、イン
ドネシア、ベトナムで進行
るであろう。それは、西側の需要や商品価格に依存する国々に比べれば、
中である。
不安定さを減少させるであろう。

東南アジア : ネクスト・ステップ 5
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | March 2011
これら3つの国々の中では、最もマレーシアが制約を打ち破る可能性を持っ
消費者
ている。この国は「マレー・ファースト・ポリシー」という、競争力を減少させ投
資家を遠ざけた国粋主義のせいで遅れをとってきた。いまだに、首相のナジ 輸出の増加、商品価格の
ブ・ラザク氏は、電子機器のバリュー・チェーンではタイに先んじなければな 高騰、継続的な労働者の
らないとしているようであるし、また、韓国のような、東アジアのより高度な工業 送金によってもたらされた
経済に加わる努力をする機運を再び取り戻すべきだとしているのである。 経済成長は、東南アジア
における消費者需要をサ
ポートし続けている。加え
て、インドネシアとタイでは
消費者金融が拡大してい
る。もっとも信用リスクはよ
り綿密にモニターされなけ
ればならないのだが・・。
ベトナム、カンボジア、ラオ
スでは、小さいが成長力の
ある消費者市場がまさに
発達しつつある。しかしな
がら短期的には、貿易業
者と小売業者は、脆弱なイ
ンフラと不均一で非効率な
取引関連の規制と官僚主
義に立ち向かわなければ
ならないであろう。

ビジネス・チャンスはどこにあるのか

インフラストラクチャー: 東南アジアは向こう10年にわたって変化、成長する
であろう。しかし、この地域のインフラ、特にフィリピンとインドネシアのものは
過去にとらわれたままである。市場本位の料金の増加を地元民たちが容認
することで、民間セクターと政府によるこれらの国々のインフラのアップグレ
ードにおける投資へのインセンティブは上昇するであろう。大メコン圏の国々
にとって、サプライチェーンの統合、輸出ハブを使用可能にするインフラの
構築、急激な経済成長は、投資を増加させるその他の主な要因となるであ
ろう。

バリューチェーンの上方に移行する: タイ、そしてある程度においてマレー
シアとベトナムは、彼らが製造している製品の価値を上昇させるために、最も
いい位置につけているといえるであろう。タイは、輸送車両や自動車、電子
部品で地域的な製造国になることに、よりフォーカスをしそうである。ベトナム
は、現在タイが占めている製造分野の一部に参入しようとしそうで、それは特
に低価格な軽工業品の分野である。その一方で、カンボジアとラオスは、次
の10年での初歩的な製造業経済になるであろう。

国内に注力: インドネシアとフィリピンは、国内の発展によりフォーカスし続
けそうで、 (インドネシアの天然資源輸出は除き)輸出についてはより少ない
であろう。しかし、インフラの増強は両国において大幅なものになりそうで、国
内消費はその恩恵を受けそうである。

東南アジア : ネクスト・ステップ 6
Prepared for PricewaterhouseCoopers Co., Ltd. | March 2011

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